2008年1月5日土曜日

NEJMについて:研究の練度について考える

最近目を通す雑誌にNew England Journal of Medicineを加えた。この雑誌の優れているところは、一つにはあらゆる診療科を横断する「網羅性」であるといえる。今ひとつは一つの病気についての縦断性、すなわち歴史的背景を充分に考慮に入れた上での(すなわち一定のレベルのオーソドックスな保守性を守りながら)、その診療科の医師、その病気の研究者のコンセンサスを充分満たすレベルの最新の情報あるいは最先端の情報を提供する「先鋭性」だ。僕は消化器癌を専門にしているが、NEJMを読むことで、様々な病気の基礎・臨床の現状を把握することができるが、もっと注目していいのは、他分野における研究の「練度」というものへの気づきである。

たとえば「前立腺癌」。この病気ではPSAという腫瘍マーカーが有名である。癌の発見に役に立つほとんど唯一のマーカー(他の一つは肝臓癌におけるAFP)である。他領域の癌の研究者は最低PSA程度のマーカーを見つけるのに躍起になっているわけであるが、しかしその
PSAも泌尿器科の間では絶対的なものではないという。これほどのものを持ちながら何が不満なのか、ボクにはよくわからなかったが、それはこの20年の間の前立腺癌治療の進歩が、消化器癌のそれと比べるとうらやましいくらい進歩していることの反映だったのだということがわかる。これが「練度」である。変な言い方だが「高額所得者には高額所得者の悩みがあるのだよ」と喩えてみたい。「PSAも絶対的なものではない」という世界と「CEAやCA19-9が癌の早期発見には役に立たない」というのは別次元の話なのだ・・・ということを了解出来なければならない。それにはエビデンスがやはりいるのであり、そのような前立腺癌の診断と治療の現状を知るのに最適の論文が次の論文である(NEJM昨年最終号)。

逆に現在の泌尿器科医には「
前立腺癌治療の進歩が、消化器癌のそれと比べるとうらやましいくらい進歩している」という言葉の意味が最早、了解できないことだろうと思う。こんなことを書いて何になるのだろうと思うかもしれないが、大いに意味はあるのだ。つまり消化器癌もはやく前立腺癌のレベルに到達したいという思いであり、そのレベルが抱える悩みを今の段階で「共有」しておくことが、つまらない研究の選択肢を選んだり、隘路に陥る危険性を回避できるのではないかと考えるからだし、あるいは今の前立腺癌の悩みに至らない方向性を模索する基盤となりはしないかと思うからだ。

それにしても、いい臨床論文だと思うな↓

Localized Prostate Cancer

P. C. Walsh, T. L. DeWeese, and M. A. Eisenberger

Volume 357 — December 27, 2007 — Number 26

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