2008年5月1日木曜日

8人のヒト・ゲノム比較

8人のヒト・ゲノムを構造上・シークエンス上比較した包括的マッピングが報告された。
これは私好みの論文である。

全く関係ないが、一昨日NCIは50種類の癌の50カ所癌関連遺伝子マッピング計画を発表した。
この論文のような観点からの研究プロジェクトであってほしいがどうだろう?

8名のヒトのゲノムにおける構造的変異のマッピングおよび塩基配列解析

Mapping and sequencing of structural variation from eight human genomes

Jeffrey M. Kidd, Gregory M. Cooper, William F. Donahue, Hillary S. Hayden, Nick Sampas, Tina Graves, Nancy Hansen, Brian Teague, Can Alkan, Francesca Antonacci, Eric Haugen, Troy Zerr, N. Alice Yamada, Peter Tsang, Tera L. Newman, Eray Tüzün, Ze Cheng, Heather M. Ebling, Nadeem Tusneem, Robert David, Will Gillett, Karen A. Phelps, Molly Weaver, David Saranga, Adrianne Brand, Wei Tao, Erik Gustafson, Kevin McKernan, Lin Chen, Maika Malig, Joshua D. Smith, Joshua M. Korn, Steven A. McCarroll, David A. Altshuler, Daniel A. Peiffer, Michael Dorschner, John Stamatoyannopoulos, David Schwartz, Deborah A. Nickerson, James C. Mullikin, Richard K. Wilson, Laurakay Bruhn, Maynard V. Olson, Rajinder Kaul, Douglas R. Smith & Evan E. Eichler

Nature 453, 56-64 (1 May 2008) | doi:10.1038/nature06862; Received 7 November 2007; Accepted 15 February 2008


以下はネーチャー編集部による筆者へのインタビューと研究のまとめである

  • ゲノムの絵合わせによりはヒト遺伝子の構造的な変化を浮かび上がらせる

  • 個人間の遺伝的変異の多くは、ゲノム構造的な多様性領域に依存するようだ。今回の研究はそのような1,700以上の領域を明らかにした。そのおよそ半分は以前にはシークエンス情報がなかった。 個人間のこれらの領域の変化はヒトの歴史を形成した進化の過程や、多くの病気の情報のかぎを握るといえそうだ。
  • 先行研究ではゲノムに関する構造上の特色における変化がいろいろわかっていた--数1,000から数100万塩基対におよぶ逆位、欠失、および重複である。 「私たちは、多くの構造的な変化がそこにあるのを知っていました。」と、エヴァン・アイヒラー、ワシントン大学の人類遺伝学者であり今回の研究の著者は言う。 「しかし、私たちはシークエンスレベルの解析法も系統的な方法もこれまで行っていなかったのです。」
  • 変異の形とこれらの領域が正確に位置している場所を知ることは極めて重要である。 構造的変異が存在するゲノム領域は不安定であり、急速な進化傾向を示すると考えられおり、そこには極めて最近生まれた遺伝子が存在しているとさえ考えられているからである。 人間とチンパンジーは遺伝子配列上98.9%同じであり、およそ3500万塩基対違っている。 ヒトゲノムの可変部は人間とチンパンジーの違いのさらに3倍以上の塩基対の差に相当する、とアイヒラーは言う。
  • 変異がより顕著におこりがちな領域を見つけるためにアイヒラーおよびジェフリー・キッド(彼の研究室の博士課程の学生であり56ページの論文の筆頭著者)は、アイヒラーのいうところの「スロットマシン」という方法を工夫した。 彼らはそれぞれ地理学的に異なる祖先を持つ8人の個人のゲノムライブラリーをまず作った。次いでお互いにオーバーラップする100万以上のライブラリ断片を作った。 そしてそれぞれの断片の片端ではヒトゲノムの参照配列にきちっと合うが、もう一方の端は合わない断片を選びだした。合わないという意味は、断片の長さが揃わないこともあるし、あるいは方向が合わないことでもある。 最終的にはシークエンスレベルでさらに詳細にこれらの領域を8人の個人間ゲノムで比較したわけだ。
  • 「彼はこのような不揃いな断片を見つけたのだが、これはある個人では欠失し、他の人にはそうでないようなヒトゲノムの部品を見つけたことになる」とアイヒラーは言う。それぞれの領域の中でヌクレオチド配列に継ぎはぎを当てることーこの作業はこれまで知られていなかった配列情報を参照配列に付け加えることに相当するー、その結果、筆者達はヒトゲノムの構造的な変異を示す初めての高解像度シークエンス地図を製作したのだ。
  • 人間のゲノム配列決定には更に補足的なアプローチの必要性があるのだとアイヒラーはいう。 従来の配列決定技術では、ただ一つのヌクレオチド置換などの小さい変化だけを検出するように設計されている。 このアプローチでは個人間のシークエンスレベルでの差異を捕まえることは可能だが、実はより大きな構造上の変異を捉えることができない。 「私たちがいうところの”包括的な構造決定とシークエンス”なしでは、私たちはこれらの複雑な領域のすべてを把握することはできないのだ」と、アイヒラーは言う。
  • アイヒラーのグループは現在、自閉症、てんかん、そして糖尿病などに関わる可能性のあるゲノム構造変異を見つけようとしている。 さらに、チームは人間がどう起こったかに関して進化論の手がかりを見つけるために人間と他の霊長類でこれらの領域の中で見つけられた遺伝子の機能を比較するつもりだ。

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