2009年2月13日金曜日

急性胆管炎 -診断基準と重症度判定

第V章 急性胆管炎 -診断基準と重症度判定-


2. 臨床徴候
1)急性胆管炎の歴史的背景,その疾患概念と臨床徴候
急 性胆管炎は,何らかの原因で胆道の通過障害をきたして胆汁がうっ滞して,胆汁中に細菌が異常増殖し惹起された感染症と考えられる。炎症の波及により二次的 に胆管壁の病変をきたすことになるが,たとえば胆管壁自体の炎症を首座とする原発性硬化性胆管炎などの特殊な胆管炎とは本質的に異なる。このように胆汁の 感染が本態と考えられることから急性胆管炎を病理組織学的に定義し診断することは困難といえる。さらに,感染胆汁に対する特異的な血清マーカーはなく,画 像上も胆管閉塞をとらえることはできても胆汁の感染の有無を評価することは困難なため,急性胆管炎の診断においては臨床徴候の比重が高くなる。従って,歴 史的にも急性胆管炎の診断には長らくCharcot3徴が用いられているように臨床徴候が重視されてきた。
歴史的には,1877年にCharcot1)に よって肝臓熱の徴候として始めて記載されたことが,その後の急性胆管診断に用いられるようになった。この中で取り上げられた悪寒を伴う間歇的発熱,右上腹 部痛,黄疸がのちにCharcot3徴と呼称されるようになり,急性胆管炎の臨床徴候とされ事実上の診断基準とされるようになった。しかし問題は,これら 3つの徴候がそろわない症例も少なくないことである。
1959年にReynoldsとDargan2)は, 胆道閉塞によってもたらされた発熱,黄疸,腹痛に加えて意識障害(lethargy or mental confusion)とショックをきたした症候群を急性閉塞性胆管炎として報告し,緊急の外科的な胆道減圧術のみが唯一の有効な治療法であるとした。この 5症状がのちにReynolds5徴と呼ばれるようになり,重症胆管炎の重要な臨床徴候とされてきた。しかし,これらすべてがそろうことまれであり,いか なる徴候が重要であるか明らかにすることが重要である。
急性閉塞性化膿性胆管炎の名称が用いられるようになったのは,Longmire32)に よる胆管炎の分類によるところが大きいとされている。Longmireは,急性化膿性胆管炎を,悪寒戦慄を伴う間歇的発熱,右上腹部痛そして黄疸の3徴の みのものと,これに嗜眠または精神錯乱とショックをきたしたもの,すなわちReynoldsらが急性閉塞性胆管炎として報告した病態に相当するものに分類 して,後者を急性閉塞性化膿性胆管炎と呼称した。そして,急性の細菌性の胆管炎として,急性胆嚢炎の波及による急性胆管炎,急性非化膿性胆管炎,急性化膿 性胆管炎,急性閉塞性化膿性胆管炎そして肝膿瘍を伴った急性化膿性胆管炎に分類した。この中で急性閉塞性化膿性胆管炎(AOSC)の用語 は,Reynolds5徴をきたした重症胆管炎や概念的に迅速な胆道減圧を行わないと救命できないという最重症の胆管炎に対して用いられてきた。しかし, その定義が曖昧で混乱がみられ現在は使用されなくなってきている。
現在のところ, 何らかの原因によって胆道閉塞をきたした結果,胆汁が感染した病態を急性胆管炎とすることに異論はないが,これをいかに実際の臨床でとらえるかは現在まで のところ一定の見解がない。表3-1に示すように急性胆管炎に関する報告例において,疾患の名称ならびにその定義は諸家により様々であり,臨床徴候を参考 したものから胆管閉塞の有無や胆汁の性状,すなわち化膿性か非化膿性かを重視したものまで様々となっている。したがって,その臨床像は報告により異なるた め,治療手技やその治療成績を評価するにはこの点に注意が必要となる。

表3-1 急性胆管炎に関する文献報告例において用いられている疾患の名称とその定義
報告者 疾患名 診断基準
臨床微候 胆管閉塞 胆汁の性状
Csendes3) ASC turbid or frank pus(aspirated CBD fluid)
Thompson4) ASC Clinical evidence of infection and biliary obstruction confirmed by radiologic,operative,or postmortem findings biliary tube in place in whom obstruction to free flow of bile or other tube malfunction
Gigot5) AC a clinical picture of cholestasis and infection with positive blood and/or bile culture an anomaly usually an obstruction of the biliary tract
Boey6) AC Clinical evidence of infection (fever,chills,leuocytosis,abdominal pain or tenderness)of biliary tract obstruction (jaundice,elevated Bil and ALP) an anomaly usually an obstruction of the biliary tract
SC total or nearly with pus
Non SC occlusion without pus
O'Connor7) AC symptom biliary sepsis fever and chills,jaundice,or abdominal pain mechanical obstruction of the biliary tree (roentgenographic,operative,or postmortem)
SC Purulence
Non SC no purulence
Lai8) Severe the presence of hyperbilirubinemia with either fever or abdominal pain,progression of biliary sepsis
AC
Haupert9) ASC (an acute illness) evidence of obstruction of CBD frank pus in CBD
Welch10) ASC abdominal pain;fever;chills,and leucocytosis;jaundice Purulence at surgery or autopsy
AOSC Added CNS confusion;bacteremia with hypotension complete biliary obstruction CBD pus under pressure,possible liver abscesses
Saharia33) AC Clinical symptoms biopsy of the liver or operation,or both,or autopsy findings
Chijiiwa34) AOSC abdominal pain,jaundice,fever evidence of complete duct obstruction purulent bile
AC:acute cholangitis SC:suppurative cholangitis AOSC:acute obstructive suppurative cholangitis



表3-2 急性胆管炎における臨床微候の出現頻度
報告者 疾患名 症例数 Charcot
3徴(%)
発熱(%) 黄疸(%) 腹痛(%) Reynolds
5徴(%)
Shock(%) 意識障害(%)
Csendes3) ASC 512 22 38.7 65.4 92.2 7 7.2
Thompson4) AC 66 60 100 66 59 7 9
Gigot5) AC 412 72 3.5 7.8 7
Boey6) AC 99 69.7 93.9 78.8 87.9 5.1 16.2 16.2
SC 14 7 57 28
Non SC 72 4 8 12
O'Connor7) AC 65 60 7.7 32 14
SC 19 53 5 47 11
Non SC 46 63 9 26 15
Lai8) Severe 86 56 66 93 90 64
AC
Haupert9) ASC 13 15.4 100 61.5 100 7.7 23.1 7.7
Welch10) ASC 5 50 80 60 0 20
AOSC 15 50 88 67 33 27
Saharia33) AC 78 100 61.5 100 5.1
Chijiiwa34) AOSC 27 63.0 70.3 96.3 25.9 22.2
AC:acute cholangitis SC:suppurative cholangitis AOSC:acute obstructive suppurative cholangitis

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