2010年7月7日水曜日

子宮癌とワクチン:誤解があるといけないので・・・

誤解があるといけないので、付記追加するが、子宮癌とワクチンについて書いた過日の文章の一部はでっち上げである。添付文書の触れ込みとして引用したかのうように書いた文章、たとえば「子宮頸癌の予防に有効だとは一度もいったことがありません」というのは私の創作である。実際の添付文書を想像して私が書いてみたのだが、その後ホンモノの添付文書(日本語)を読んでみたところ、はっきり予防効果があると書かれている。これには驚いた。

小生はかつてNEJMにおいてquadrivalent vaccine(と当時呼ばれていた、これは4価ワクチンのこと。HPVの4つのメージャーサブタイプへの予防効果があるという。今のメルク社のガーダシルのことになると思う)の知見が得られたとの報告を元に記録を残した。(
2008年1月6日日曜日 パピ ローマ・ワクチンの現状)

その際の参考文献でCIN(これは子宮頚部の異型性:子宮癌の前癌病変といってよい)が予防できたという統計報告が既報であることが記されていた。(2007年のNEJM: The Future II Study Group. Quadrivalent vaccine against human papillomavirus to prevent high-grade cervical lesions. New England Journal of Medicine 2007; 356(19):1915–1927.)

気を付けなくてはいけないのは、これは若年者(27歳まで、しかも観察期間は7年くらい)での研究であったことだ。もちろん素晴らしい研究であり、けちを付けるつもりはさらさらないのだが、これと「子宮頸癌の発症予防にワクチンは効果がある」というのは距離があると小生は考えてしまうのだ。
前向きに研究で研究のエンドポイントが子宮頸癌の発症率を有意に下げるかどうか(もっといえば子宮頸癌が原因となる死亡率の低下に寄与するかどうか?)ないと「子宮頸癌の発症予防にワクチンは効果がある」とは書けない。

うるさいことを言うなと言われそうである。30年待たないと結果はわからんと言われますね。子宮頸癌の原因の大半はパピローマウイルス感染である。ワクチンでウイルス感染を予防できるなら、子宮頸癌は予防できるではないか・・・!というのがワクチン開発者、製造業者のご意見であろう。しかし、私のような疑い深いひねた医者は納得しないのである。ひねた医者でもなるほどと唸るのは米国の添付文書である。アメリカのメルクの添付文書は注意深く書かれているのである。下に挙げたのはメルクの文書

  1. 4つのサブタイプの HPV感染予防に効果があると述べてある。
  2. 子宮頸癌の原因の75%である2つのタイプのHPV感染を予防すると書いてある。(逃げている訳ではないのだ。誠実に起草すればこうとしか書けないのだ。だから読み手には知性が必要)
  3. 9歳から26歳の女性に効果があると限定している。
  • GARDASIL is the only human papillomavirus (HPV) vaccine that helps protect against 4 types of HPV. In girls and young women ages 9 to 26, GARDASIL helps protect against 2 types of HPV that cause about 75% of cervical cancer cases, and 2 more types that cause 90% of genital warts cases.
お前はどうするのだといわれるだろう。もちろん子供には打つように推奨した。当たり前である。これでも、もとは研究職も兼ねていたのである。小生は懐疑的な人間ではあるが、新しいものを全面否定などしない。

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