2011年7月22日金曜日

新型シークエンサーが発表されたよ:Ion Torrentとムーアの法則(Nature)

ムーアの法則をご存知だろうか?最も有名な公式は、集積回路上のトランジスタ数は「18ヶ月ごとに倍になる」というものである。

式で表現すれば、n年後の倍率 p は、

p = 2n / 1.5
したがって、5年後には10.08倍、20年後には10 321.3倍となる。

1970年代の終わりには、ムーアの法則は最も複雑なチップ上のトランジスタ数の限界として知られるようになった。しかしながら、1チップあたりのコストに対するコンピューティングパワーをどんどん進化させ続けるものとしても、ムーアの法則は引用されるようになった。

以上はWikipediaの受け売りである。ムーアという研究者はいまでこそインテルの創始者として有名だが、それ以前もフェアチャイルド社でノイスらとともに黎明期の半導体さらにはコンピュータチップの開発を進めてきたことで知られる。個人的には嶋正利さんとの関わりに興味がある。このあたりはテレビドキュメントも書物もたくさんあるのだが、嶋さんは一般的にはもう名前が忘れられかけている研究者かもしれないのが残念だ。生物の分野で例えると、逆転写酵素でノーベル賞を受賞したテミン ボルチモアの影に隠れた真のRT単離者(という言葉を使おう)水谷哲博士のような存在であるな。

話がずれたので元に戻すが、最新のシークエンサーがLife Technologyから発表された。このシークエンサーはほとんど半導体のようなものであるが、その能力を証明するのに3細菌ゲノム(計5つ)のre-sequenceを行い、更にある個人のパーソナルシークエンスを行っている。ここで選ばれたのがゴードン・ムーアのゲノムだったわけだ。

半導体技術はここまでのことを可能にしたという意味では象徴的であるが、メディア劇としても面白い。


Nature 475,348–352

(21 July 2011) Received 08 March 2011,
Accepted 26 May 2011,
Published online 20 July 2011,
Corrected online 21 July 2011

遺伝学:非光学的なゲノム塩基配列解読を可能にする半導体集積デバイス
An integrated semiconductor device enabling non-optical genome sequencing


Jonathan M. Rothberg,
Wolfgang Hinz,
Todd M. Rearick, et al

  • DNA塩基配列の解読が生命科学、バイオテクノロジーおよび医学に及ぼす影響の重大性はさらに拡大すると思われることから、さらに拡張性が高くコストも低 い解析法の探求が活発に進められている。今回我々は、拡張性が高く低コストの半導体製造技術を用いて、ゲノムDNA塩基配列解読を非光学的に直接実行でき る集積回路を作製するというDNAシーケンシング技術について報告する。塩基配列データは、この大規模並列処理半導体検出デバイス(イオンチップ)上で、 すべて天然のヌクレオチドを用いたDNAポリメラーゼによる鋳型指示合成反応で生成したイオンを直接検出することによって得られる。このイオンチップに は、120万個のウェルと完全に対応する形で、イオン感受性電界効果トランジスタを使ったセンサーが封入されており、ウェルが閉じ込め役となって、独立し た塩基配列解読反応の並列同時検出が可能である。集積回路構築に最も広く用いられている技術の相補型金属酸化膜半導体(CMOS)過程を用いることで、こ のデバイスの低コスト化、大規模製造の実現、より高密度で大きなアレイサイズへの拡張が可能となる。我々は、3種類の細菌ゲノムの塩基配列解読を行ってこ の装置の性能を示す。また、センサーの数を最大10倍まで増やしたイオンチップを作製してヒトゲノムの塩基配列解読を行い、この技術のロバスト性および拡 張性も示している。
なんのこっちゃわからんでしょうか?  解説すると以下の通りだ。

  1. 簡単にいえば1000 x1000個の孔を半導体アレイの上に穿ちます。この半導体は多層構造になっていて電気変化を読み取れます。このあたりが半導体であり、これまでのような光学的システムではないのだな。これで100万個の素子が出来る。

  2. ここに遺伝子DNAをばらまく。ただバラまいただけでは、孔に入るかどうかわからん。一個の孔に2個以上入ったらどうするの?  そのために直径2umのアクリドアミルの球体が登場する。DNAを裁断したのちDNAポリメラーゼとともにこのゲル球体のなかにDNAを一本(ここはおそらく確率的にポアソン分布的に)封じ込めるのだ。その球体をアレイの上にぶちまけます。そうすると普通はこれまたポアソン分布的に100万個の孔にDNAゲル球体が転がって入る。いわずもがなであるが、以上の作業は液相で行われる。

  3. AGTCを順繰りに流していく。取り込まれるとHイオンが発生するが、この電位を測定するのだ。Aが流れたとき発生すれば、そこにはTがあったというようにシークエンスする。一塩基読むのに約4秒かかるという(半導体のくせに遅いな!)

  4. これを測定していけば同時に100万リード(100万本のDNA)が測定できることになる。

  5. 実際の効率は20~40%ということだ。これどういうことかというと、簡単に言えば100万個の孔のうちきちんとDNAが1コピー入ってデータが取れた孔の割合のことだ。二本以上のDNAはX。ある長さ以上読めなければX。もちろんDNA1コピーをきちんと孔に入れようとすればポアソン的にDNA溶液濃度を低く押さえなくてはいけないだろうから、当然空の孔も多いはずなのだが、それにしては効率が良いな。

  6. 大腸菌のre-sequenseなら一枚のチップで終了のようだ。ヒトの(つまりインテルの会長のゲノム)ではこのチップが約2000枚必要だったとのことだ。(10 xで読んでいる。)coverageは99.21%である。

  7. 集積度は更に上げられるとのことだ。現にこの論文のムーア会長ゲノムシークエンスの一部は1000万チップ(?)で行われている。

  8. この集積度の向上はおそらく「18ヶ月で2倍」なんていうものではないだろう。もっと高速だろうな。次なる法則はネオ・ムーアの法則なのかしらね。
というわけで、なかなか味のある、けれんみたっぷりのNatrue Articleでした。Nature劇場だね。パチ!パチ!パチ!

更に興味の有る方はIon Torrentのホームページへどうぞ!

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