2012年5月21日月曜日

ARID遺伝子変異をめぐる小論

reverse genetics(懐かしい言葉だ)が盛隆を極めるようになって以来、ある疾患で変異がみつかることにより、いきなりそれまで聞いたこともない遺伝子がもてはやされるようになった。昔ながらの順遺伝学なら、まず蛋白があって、その機能から敷衍して、異常に至るというのが「正しい」学問だったのであろうが、或る時期以来、それまで聞いたことが無い「遺伝子名」が大手をふるうようになる。これはとてもこまることだ。馴染みがないからねえ。

さて、癌化にとって最近無視できないのがARID遺伝子変異である。ARIDってなんなんだろう?reverse geneticsではなにしろ「いきなりの脚光」が通例であるから、この遺伝子ならこの人に聞けば良い、というのがなかなかわからない。おそらく知らないのは自分だけでない。多くの場合、発見者も機能を知らないことが多いという始末だ。よく学会で出会う光景である。「貴方の発見した遺伝子の機能を教えて欲しい」と言われて、しどろもどろのスピーカー。

さてさてこのARIDというのはゲノムDNAが転写されたり、増幅したりするとき形態を変えるーすなわち、ほぐれる、ループを作る、ループを解消するー締まる、等々の変化に関連する蛋白遺伝子のようだ。SWI/SNFという遺伝子群があるが、その構成要素の一つのようだ。この遺伝子群にはとても多くの構成メンバーがあるが、これを全部列挙するのは止めておこう。ここでは癌、あくまでも癌化に関連する要素メンバーだけを挙げておこう。5つ知られている。


  1. SNF5
  2. ARID1A
  3. BAF180
  4. BRG1
  5. BRD7

である。実際にはSNF5とARID1Aだけ知っていれば良い。

  1. SNF5: Rhabdoid tumorの98%で変異を認める
  2. ARID1A:卵巣淡明細胞癌の50%、子宮内膜癌の 35%に変異を認める。

このパーセンテージの高さは尋常ではない。新規癌関連遺伝子としては例外的に高いのだ。


このARID1であるが、下の図(下記論文のFig 1)に登場する青い色のサブユニットである。よろしく。

















図の参考文献は下

Review

Nature Reviews Cancer 11, 481-492 (July 2011)

SWI/SNF nucleosome remodellers and cancer

Boris G. Wilson & Charles W. M. Roberts

SWI/SNF chromatin remodelling complexes use the energy of ATP hydrolysis to remodel nucleosomes and to modulate transcription. Growing evidence indicates that these complexes have a widespread role in tumour suppression, as inactivating mutations in several SWI/SNF subunits have recently been identified at a high frequency in a variety of cancers. However, the mechanisms by which mutations in these complexes drive tumorigenesis are unclear. In this Review we discuss the contributions of SWI/SNF mutations to cancer formation, examine their normal functions and discuss opportunities for novel therapeutic interventions for SWI/SNF-mutant cancers.

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