2012年10月30日火曜日

3ヶ月前のnature「ヒト大腸がんの包括的分子特性論文」を再掲する

7月に出た「ヒト大腸がんの包括的分子特性を再掲したい。

Nature 487, 330–337 (19 July 2012)

Comprehensive molecular characterization of human colon and rectal cancer

遺伝:ヒト大腸がんの包括的分子特性

この表をクリックする前に次の設問を考えてみたい

  1.  高頻度に変異している遺伝子5つ挙げよ 

    ーーー> APC, TP53, SMAD4, PIKC3A, KRAS

  2.  シグナルやパスウェイが大事だというが、大腸癌で5経路挙げよといえばそれは何

    ーーー> WNTシグナル系、TGF-bシグナル系、PI3Kシグナル系、RTK-RASシグナル系、p53シグナル系

  3. 5経路を代表する遺伝子ー高頻度に変異することが知られているものを挙げよ(変異頻度10%以上)

    ーーー> WNTシグナル系では APC (81%)

    ーーー> TGF-bシグナル系では SMAD4 (15%)

    ーーー> PI3Kシグナル系では PIKC3A (15%)

    ーーー>RTK-RASシグナル系では KRAS (43%)

    ーーー>p53シグナル系では TP53 (59%)


    ここに挙げた数字は2012年7月のnatureの論文276例のうちnon-hypermutated症例(84%: 232例に相当する”普通の大腸癌”)解析で得られた頻度であり、この値が過去20年の研究の総まとめに近いと考えてよいのではないだろうか

以上が84%を占める通常型(hypermutated typeではない)のゲノム異常である。

 hypermutated typeを次に語ろう。

  1. 大腸癌の16%を占めるhypermutated typeとはなんであろう?これはシークエンスをしていく過程で「異常に変異頻度が高い」と判断されたサブグループである。このグループでは100万塩基に12個以上の突然変異を認めたという(普通の大腸癌では100万塩基で1以下)。


  2. 誰もが予想するのは、このグループにはMLH1を初めとする修復遺伝子異常があるのではないかということである。実際このグループの3分の2はいわゆるMSIのグループ(主たる機序はMLH1のメチル化による失活)と考えてい良い。
  3. しかし大腸癌には更にすさまじい一群があるのだった。hypermutated typeの3分の1はMLH1のepigenesis (hypermethylation)ではなく、MLH1、MLH3,MSH2,3,4, PMS2の突然変異を複数認め、さらにはDNA polymerase eの高頻度な変異を認める一群であり、この一群では100万塩基に100〜500個の異常に高頻度の突然変異を認める。
  4.  いずれにせよ大腸癌の16%を占めるhypermutated typeでは突然変異遺伝子のプロフィルが若干通常型と異なる。例えばRASと相互排他的変異パターンを示すことで有名なBRAFが変異を起こすのはhypermutated typeに限ると言ってもよい.  
  5.  普通の大腸癌”で81%が変異を認めるAPC遺伝子はhypermutated typeでは63%に変異を認めるにすぎない
  6.  PIK3CAは”普通の大腸癌”の中で18%に変異を認めるが、hypermutated typeにおいては変異を認めない。

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