2009年9月30日水曜日

DIC治療について

金沢大学血液内科から引用

1. DIC治療の考え方


播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC) の本態は、基礎疾患の存在下における全身性持続性の著しい凝固活性化である。DICの進展を阻止するためには、基礎疾患の治療と共に、DICの本態である 凝固活性化を阻止する必要がある。基礎疾患の治療を行っても、基礎疾患が一両日中に治癒することは極めて例外的であるため、この間にDICが原因で病態が 悪化することを阻止しなければならない。
 DICの治療としては、重要性の高い順に、基礎疾患の治療、抗凝固療法、補充療法、抗線溶療法が挙げられる。



1)基礎疾患の治療


全てのDICには必ず基礎疾患が存在する。どのような症例においても、基礎疾患の治療は最重要である。急性白血病や進行癌に対する化学療法、敗血症に対する感受性のある抗生剤治療などがこれに相当する。
 なお、悪性腫瘍(造血器を含む)に対して化学療法を行うと、腫瘍細胞の崩壊に伴って組織因子(tissue factor: TF)が大量に血中に流入するため、DICが一時的にかえって悪化することが少なくないが、それを理由に基礎疾患の治療を躊躇してはいけない。




2)抗凝固療法



日本でDICに対して使用可能な抗凝固療法(表1)としてはいくつかの薬剤が知られているが、DICの病態に応じて適切な薬剤を選択する。




a. ヘパリン類&アンチトロンビン濃縮製剤


現在の日本においてDICに対して使用可能なヘパリン類としては、ダナパロイドナトリウム(商品名:オルガラン)、低分子ヘパリン(商品名:フラグミンなど)、未分画ヘパリン(標準ヘパリン)がある。これらのヘパリン類は、いずれもアンチトロンビン(AT)活性を促進させることによって、抗凝固活性を発揮する点で共通しているが、抗Xa/トロンビン(IIa)活性比や、血中半減期には相当な差違がみられる(表1)。これらのヘパリン類の特徴を見極めながら、使い分ける必要がある。
 たとえば、ダナパロイドナトリウムは半減期が長いために、1日2回の静注(1,250単位を、1日2回12時間毎に静注)であっても効果が持続する点が魅力である。この点、慢性DICに 対しては最も良い適応となる(患者を24時間持続点滴で拘束する必要がない)。ただし、万一出血の副作用がみられた場合には半減期の長いことがデメリット になる場合がある。また、腎代謝のため、腎機能障害のある症例や低体重の症例では減量して使用すべきである(他のヘパリン類にも当てはまる)
 ヘパリン類は、AT活性が低下した場合は充分な効果が期待できないため、AT濃縮製剤(アンスロビンP、ノイアート、ノンスロン)のいずれかを併用する。保険適応は、AT活性70%以下の症例でAT濃縮製剤を使用することが可能であり、1,500単位/日で3〜5日間使用される。ただし、この保険上の使用方法には医学的根拠はなく、より大量に使用できれば理想的である。
 なお、未分画ヘパリンは、ダナパロイドナトリウムや低分子ヘパリンと比較して医学的に優れている点はなく、現在ほとんど使用されなくなってきている(未分画ヘパリンは安価である点のみがメリットである)。




b. 合成プロテアーゼインヒビター


合成プロテアーゼインヒビター(SPI)は、AT非依存性に抗トロンビン活性を発揮する。代表的薬剤は、メシル酸ナファモスタット(商品名:フサンなど)および、メシル酸ガベキサート(商品名:FOYなど)である。出血の副作用は皆無に近いため、出血の副作用のためにヘパリン類の使用が困難な場合には良い適応となる。また、両薬剤は膵炎治療薬でもあり、DICのみならず膵炎をも合併している時にも良い適応となる。
 なお、メシル酸ナファモスタットは臨床使用量(1.44〜4.8mg/kg/日、持続点滴静注:標準的体重の人では150〜200mg/24時間)で、抗凝固活性のみならず抗線溶活性も強力であり、線溶亢進型DIC(旧名称:線溶優位型DIC)に対して有効である。メシル酸ガベキサートは臨床使用量(20〜39mg/kg/日、持続点滴静注:標準的体重の人では1,500〜2,000 mg/24時間)では抗線溶活性は強くない。ただし、メシル酸ナファモスタット(フサン)の高カリウム血症の副作用には注意が必要である。両薬剤ともに静脈炎の副作用があり、中心静脈からの投与が原則である。



c. 遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤 (2008年5月発売)


遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(商品名:リコモジュリン) は、日本で使用されるDIC治療薬の中で、最も質の高い臨床試験において有用性が証明されており、今後最も期待されている薬剤の一つである(Saito H, Asakura H, et al: J Thromb Haemost 5: 31-41. 2007)。可能であれば、アンチトロンビン濃縮製剤と併用投与したいところであるが、保険上の扱いがどうなるか、この原稿執筆時点では不明である。



3) 補充療法


消費性凝固障害のため、血小板や凝固因子の著しい低下のため出血がみられる場合には、補充療法を行う。
 血小板の補充目的としては濃厚血小板(PC)、凝固因子の補充目的としては新鮮凍結血漿(FFP) を用いる。通常、PCは血小板数2万/μL程度以上に維持されることを目安に輸注される(10〜20単位/1回 必要があれば経日的に繰り返す)。FFP は、フィブリノゲン100mg/dl未満またはPT比1.7以上になるような症例では必要になることが多い(5単位程度/1回 必要があれば経日的に繰り 返す)。



4) 抗線溶療法


DICにおける線溶活性化は、微小血栓を溶解しようとする生体の防御反応の側面もあり抗線溶療法は原則禁忌である。
 また、急性前骨髄球性白血病において、ATRAによる分化誘導療法を行っている場合も、トラネキサム酸(商品名:トランサミン)を投与すると全身性血栓症を併発して死亡したという報告が多数見られるため、絶対禁忌である。
 ただし、線溶亢進型DIC(旧名称:線溶優位型DIC)の著しい出血例に対して、ヘパリン類併用下にトラネキサム酸を投与すると出血に対してしばしば著効するが、必ず専門家にコンサルトの上で行う必要がある。



5) 免疫グロブリン(イムノグロブリン)(DIC治療の番外編)


特に、重症感染症に合併したDICにおいてはサイトカインが重要な役割を演じている。我々の動物DICモデルを用いた検討によると、LPS誘発DICモデ ルに対して免疫グロブリンを投与すると、TNFやIL-6と言った炎症性サイトカインが抑制され、DIC病態が有意に軽快した(Asakura H, et al: Crit Care Med 34: 2421-5, 2006)。免疫グロブリンは、臨床でのDIC治療薬としても威力を発揮する可能性が高い。

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