2010年3月26日金曜日

The Nature Top Ten アクセスランキング

The Nature Top Ten アクセスランキング

Nature アクセスランキングでは、前月nature.comで、最もダウンロードが多かった記事や論文をランキングしています。日本サイトでは、一部日本語要約も 掲載しております。ここにおけるランクは、論文・記事の質、科学的重要性、引用回数などを示すものではありません。人気のあったコンテンツをお楽しみください。 2010年02月26日~2010年03月26日

日本からのアクセスが最も多い論文ということであるが、先月は生物学系がことのほか多いのでnoteしておく。トップがメタゲノムであり、この論文はそれだけの価値がある。2位はSkp2がらみ(中山氏もからむ)。9位の雌だけの種というのも面白そうである。

1. 我々がもつもう1つのゲノム:ヒト腸内微生物叢の遺伝子カタログ
人体は推定100兆個の微生物細胞を棲まわせているが、その大部分は腸に存在し、ヒトの生理と栄養摂取に大きな影響を及ぼしており、現在ではそれがヒトの 生命に極めて重要だと考えられている。腸内微生物は、食物からのエネルギーの取り込みにかかわっており、腸内微生物叢の変化は、腸疾患や肥満と関係している可能性がある。今回、国際MetaHIT(Metagenomics of the Human Intestinal Tract;ヒト腸管メタゲノミクス)プロジェクトが、デンマークおよびスペイン在住の124例の健常、過体重および肥満の成人、それに炎症性疾患患者に 由来するヒト腸内微生物叢の遺伝子カタログを発表した。このデータから、ヒトの全遺伝子の150倍以上に相当するこの遺伝子セットに関する最初の手がかり が得られ、遺伝子群はすべての被験者間でほぼ共通であることが明らかになった。この遺伝子セットがコードする機能の多様性に基づき、最小限の腸内メタゲノ ムおよび最小限の腸内細菌ゲノムの双方が定義された(Article p.59)。


2. 老化が腫瘍を阻止する
最近の研究で、細胞老化、つまり細胞周期の不可逆的な停止が、in vitroでの腫瘍増殖を停止させることが示唆されている。今回H-K Linたちは、老化を引き起こす、これまで知られていなかった経路で、既知の老化メディエーターのほとんどが関与していないものを明らかにした。シグナル は、転写因子Atf6、およびサイクリン依存性キナーゼ阻害因子であるp27とp21を介して伝えられる。この経路は、発がん性シグナル伝達が起こっている場合に、がん原遺伝子Skp2の不活性化によって明らかになる。薬理学的にSkp2複合体を標的とすると、細胞老化が誘導 されて腫瘍形成が抑制されるので、そのような薬剤は抗がん剤として有効かもしれない。

3. ミトコンドリアの反乱
ミトコンドリアは細胞内共生細菌の子孫であり、真核細胞に受け入れられて数百万年の共進化を経た現在では、宿主細胞に仕える小器官となっている。しかし、 生命が危ぶまれるような事態になると、この関係に亀裂が生じるようだ。重い外傷を負った患者の血漿サンプルの分析から、組織が損傷すると、ミトコンドリア のDAMP(damage-associated molecular pattern;ダメージ関連分子パターン)が血中へと放出され、そこで特異的なホルミルペプチド受容体を介して好中球を活性化することが明らかになった。これにより、全身性炎症や組織の損傷、敗血症に似た症状が引き起こされる。侵入してくる微生物の発現するPAMP(病原体関連分子パターン)という分 子群に対する自然免疫応答は細菌性敗血症の原因となるが、DAMPはこういう免疫応答の一部を担っている受容体と相互作用する。この知見は、感染が認められない場合でも、重い外傷に関連してよくみられる敗血症に似た症状の説明になるかもしれない。

4. 開発が難しいエイズワクチン:免疫学的、臨床的、使用における難問
AIDS/HIVの世界的流行を食い止め、HIV-1を絶滅させるには、効果の高いワクチンは必須である。しかし、この目標への歩みは遅く、達成を疑う人さえいる。今週号の2つの総説とOpinionでは、このワクチンの研究の軌跡が、最新の情報を含めてまとめられている。H VirginとB Walkerは、ワクチン作製は可能だが非常に難しいだろうと考えており、免疫学的に未解明のいくつかの問題について概説している(p.224)。AHaaseは、感染の各段階でのワクチンと殺菌剤の併用を主唱している(p.217)。国際エイズワクチン推進構想のWKoffは、優秀な若手研究者を惹きつけ、企業の関与を確保するように立案された長期計画への投資の増額を求めている(p.161)。Hareたちは、レトロウイルスインテグラーゼ/DNA複合体の構造を報告している。これは、抗レトロウイルス薬の標的となるために解明が待ち望まれていたものである (p.232, N&V p.167)。表紙は、HIV粒子(ピンク色の疑似カラーで示す)が感染したリンパ球(青色)の表面から出芽してくるようすを示した走査型電子顕微鏡像である。

5. スリムでけちな微生物
窒素固定を行う、まだ培養されたことがないシアノバクテリアのUCYN-Aは、世界の海洋に広く分布している。メタゲノム解析により、UCYN-Aには、光合成装置の酸素を生成する光化学系II複合体(太陽光下での窒素固定に寄与する)と炭素固定にかかわる遺伝子が存在しないことがわかっている。今回、大 量並行ペアエンド・パイロシーケンシング法により、UCYN-Aの完全ゲノム配列が明らかにされた。このシアノバクテリアは重要な代謝経路の多くをもたず、有機炭素どころか、有機窒素を含む化合物さえほかの生物に大きく依存している、極めて単純な生物であることがわかった。そのゲノムの構造は、葉緑体や 内部共生生物と似ているが、自然個体群を用いた実験では、これまでのところ、ほかの微生物とのいかなる共生関係も見いだされていない。

6. Hox遺伝子は多様性のもと
Hox遺伝子群は、あらゆる動物で体軸に沿った構造の指定に中心的な役割を担っており、Hoxの発現パターンの変化は、脊椎動物の体制の多様性と並行している。トカゲやヘビなどの有鱗目爬虫類におけるHox編成の研究から、Hoxクラスターに予想外に多くの転移性遺伝因子が蓄積していることが示された。これは、コード領域と非コード調節領域で広範囲にわたるゲノム再編成があったこと を表している。異なる中軸骨格をもつコーンスネーク(ヘビ類)とウィップテールリザード(トカゲ類)の2種間における発現比較解析から、Hox13とHox10の 発現の主要な変化が、発生中のヘビ胚の尾部と胸部領域の伸長と一致していることが明らかになった。したがって、Hoxクラスターの構造と機能の変化は、この分類群でみられる大規模な形態的放散を反映していると考えられる。

7. 蚊が匂いを選び出す仕組み

疾患を媒介する昆虫の多くは、宿主のありかを探るのに匂いの認識を使っているが、その分子過程はほとんどわかっていない。今回、サハラ以南のアフリカでの 主要なマラリア媒介動物であるハマダラカの一種Anopheles gambiaeの匂い受容体タンパク質の全レパートリーが、内在性の匂い受容体を欠く遺伝子組み換えショウジョウバエ(Drosophila)という「empty neuron」系を用いて決定された。この受容体のほとんどは、さまざまな匂い物質に反応して広く活性化されるが、一部の受容体はもっと特異性が高く、1つあるいは少数の匂い物質に反応する。数十種類もの受容体がヒトの汗に含まれる化合物に強く反応するので、こうした受容体は、蚊の宿主探知を妨げたり、お とりの匂いを使ってトラップに追い込んだりする方法によるマラリア蔓延防止策の標的となるだろう。

8. HIVの複雑な免疫学
自然感染でみられるのと同じような免疫応答を誘導しただけでは、HIV/AIDSを防げないらしいことが、さまざまな証拠から示唆されている。H VirginとB Walkerは、こうした前提に立って、HIVワクチンへの取り組み方を基本から再検討する必要があると論じ、有効なワクチン作製のために解明しなければ ならない免疫学上の疑問についてまとめている。

9. 雌だけの種
ハシリトカゲ類に全部が雌という種が存在することは、1962年から知られていた。有性生殖する種の交雑によって生じたものだが、この種(Aspidoscelis tesselata)が、体細胞の染色体をひとそろいすべて備えた成熟卵をどのようにして作るのかは不明で、遺伝的多様性の維持機構も解明されていなかった。Lutesたちは、この種では、減数分裂が有性生殖をする種の2倍の染色体数をもつ状態から始まり、相同染色体間ではなく、遺伝的に全く同一な姉妹染色体間で対合と組み換えが起こることを明らかにしている。

10. 有機超伝導体
新しい高温超伝導体の発見が続いている。なかでも最新の注目すべき発見は鉄ヒ化物である。しかし、新たな有機超伝導体は、過去10年間発見されていない。 今回、カリウムあるいはルビジウムをドープした単純な炭化水素分子の結晶で、最高18 Kの温度で超伝導が発見されたことが報告されている。この新しい超伝導化合物のベースとなっているのは、5つのベンゼン環が互いに辺を共有しているピセン (C22H14)という分子である。これは結晶化すると、分子が規則正しく並んだ固体となる。本来これは半 導体材料なのだが、結晶格子へのアルカリ金属のインターカレーション(挿入)により、金属的挙動や超伝導が生じる。今回、カリウムをドープしたピセンで、 18 KというTcが得られた。これは有機超伝導体にしては高い値であり、これ以上のTcが 得られるのは、アルカリ金属をドープしたC60だけである。ピセンは、多数存在する縮合ベンゼン環系分子の1つであるため、これ以 外の超伝導炭化水素も見つかるかもしれない。

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