基底細胞様乳癌をより明確に定義する5つのバイオマーカー
トリプルネガティブ乳癌表現型(エストロゲンレセプター〔ER〕陰性,プロゲステロン〔PR〕陰性,HER2陰性)を拡大し,上皮成長因子受容体 (EGFR)陽性およびサイトケラチン5/6陽性を含めると,高リスク患者群の同定精度が向上することが示された。カナダ・バンクーバー病院の Torsten Nielsen氏らによれば,この結果は,上記5種類の代用バイオマーカーを用いることで基底細胞様乳癌を定義できることを裏づける「有力なエビデンス」 であるという。
乳癌は異質な要素を含む疾患であり,遺伝子発現プロファイリングからluminal A,luminal B,HER2過剰発現,基底細胞様の4つのサブタイプに分類されている。なかでも特に注目されているのは,基底細胞様乳癌である。それは,この腫瘍が ER,PR,HER2をいずれも発現しないため,標的療法が奏効しないからである。費用と複雑さの問題から遺伝子発現プロファイリングは実用的ではないた め,研究者の中には,トリプルネガティブ表現型を基底細胞様乳癌の代用として利用する者もいる。これは,乳癌生検の臨床検査の際に標準的なバイオマーカー をルーチンで用い,乳癌を発見するのと同じやり方である。しかし,ゴールドスタンダードである遺伝子発現プロファイリングとの相関性を調べることでこのア プローチの妥当性を正式に検証した研究はこれまで存在しない。EGFRおよびサイトケラチン5/6は,ただちに利用可能な基底細胞様乳癌の陽性マーカーで あり,ER/PR/HER2に加えることで新たな予後因子としての価値が生まれる可能性がある。
今回の研究では,1986〜1992年に乳癌女性 3,744例の腫瘍検体を分析した。全体で17%の腫瘍がトリプルネガティブ表現型の基準を満たし,9%がさらにEGFRおよびサイトケラチン5/6の発 現を示した(「中核的基底細胞様乳癌型(core basal)」と定義)。残りの8%はEGFRおよびサイトケラチン5/6の発現は見られなかった(「ファイブネガティブ」)。乳癌の最も一般的なサブタ イプである管腔様乳癌患者に比べ,トリプルネガティブ型の腫瘍を有する患者では,乳癌特異的死亡のハザード比が1.39を示した。しかし,中核的基底細胞 様乳癌群の乳癌特異的死亡のハザード比が1.62であったのに対し,ファイブネガティブ群の乳癌特異的死亡リスクに有意な上昇は見られなかった。多変量解 析の結果,ファイブネガティブ群に比べ,中核的基底細胞様乳癌群の乳癌死の推定ハザード比は1.47を示した。
以上から,EGFRおよび CK5/6を含んだ中核的基底細胞様乳癌マーカーのセットに比べ,3種類のバイオマーカー分類指標(ER,PR,HER2)のみを頼りにした基底細胞様乳 癌の定義では,乳癌の転帰を正確に予測することはできないと考えられた。Nielsen氏らは「この免疫学的マーカーセットは,安価な診断ツールであり、 すでに臨床で用いられている。このセットにより、治療選択肢の改善が求められるトリプルネガティブ乳癌をより具体的に定義づけることができる」と結論して いる。
2008年 3月
Clin Cancer Res; 14: 1368-1376
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