子宮筋腫はありふれた良性腫瘍であり、お腹にエコーを当てれば女性の半分くらいには筋腫が認められるのではないか・・・と思えるほど多い腫瘍である。病理組織学的には「平滑筋腫」であり、下腹部痛や出血特に慢性貧血の原因であることが多いことから子宮摘出や筋腫核出術の対象で手術も多そうだ。ありふれた病気だけに乳腺の良性腫瘍とともに、最先端の医療機器のターゲットになることも多い。すなわち「メスをいれることのない手術」である凍結手術や温熱凝固療法のターゲットになる。保険適応がない治療法であり高価である(ものも多い)。
さて、こんなにありふれた病気である子宮筋腫には昔から奇妙な病態がつきまとっていた。余り多くはないが、しかし病理の世界ではそこそこには有名な病態:「良性子宮筋腫の肺転移」である。
平滑筋腫の悪性バージョンは平滑筋肉腫であるが、筋腫ー肉腫は明確な境界があるわけではない。大きさや出血壊死像、核分裂像などが診断の基準であり、境界が明瞭でない証として「中間型」などという分類があった(今もあるのかな?)
いずれにしてもそのような組織分類で診断したとしても「良性」としか言いようがない「良性転移性平滑筋腫(benign metastasizing leiomyoma: BML)」が子宮筋腫の患者の肺に認められるというものである。この病態「良性転移性平滑筋腫」でググると2万5千件くらい検索される。いろいろ解釈があるが、しょせんおとなしく見えるけどこれは「肉腫」なのだとする考え方も多いようだ。そうでも考えないと納得できないわけだな。
このありふれてはいるが、時に解釈がむつかしい平滑筋腫について、またまたとんでもない研究成果が発表された。とりあえずBMLとは余り関係のない報告ではあるが、良性疾患における高頻度の変異遺伝子というのだから穏やかではない。フィンランドのAaltonenのグループからの報告だが、AaltonenもVogelsteinとともに何十年もの間、研究力が衰えない。素晴らしいな。
その成果だが70%の子宮筋腫にMED12遺伝子変異が認められるというものだ。225個の筋腫で調べて110個(49%)にコドン44の変異。この他のコドンにも変異は認められて、総計では159個(70%)にMED12変異があるというのだ。良性腫瘍でも変異が認められて良いわけではあるが、それにしてもこの変異頻度は例外的に高頻度だ。並行シークエンス法はすごいね、こんな変異を見つけてくる。
今回の成果がBML(benign metastasizing leiomyoma)を説明するものではないが、しかし面白いではないか。同じ子宮でも平滑筋肉腫ではどうなのだろう? 子宮以外の筋腫、消化管の筋腫ではどうなのだろうね?
Science
Received for publication 25 May 2011.
Accepted for publication 15 August 2011.
MED12, the Mediator Complex Subunit 12 Gene, Is Mutated at High Frequency in Uterine Leiomyomas
Netta Mäkinen, Miika Mehine, Jaana Tolvanen, Eevi Kaasinen, Yilong Li, Heli J. Lehtonen, Massimiliano Gentile, Jian Yan, Martin Enge, Minna Taipale, Mervi Aavikko, Riku Katainen, Elina Virolainen, Tom Böhling, Taru A. Koski, Virpi Launonen, Jari Sjöberg, Jussi Taipale, Pia Vahteristo, and Lauri A. Aaltonen
Published online 25 August 2011
1Department of Medical Genetics, Genome-Scale Biology Research Program, University of Helsinki, Helsinki, Finland.
2CSC-IT Center for Science Ltd., Espoo, Finland.
3Science for Life Laboratory, Department of Biosciences and Nutrition, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden.
4Department of Pathology, Haartman Institute, University of Helsinki, Helsinki, Finland.
5HUSLAB, Helsinki University Central Hospital, Helsinki, Finland.
6Department of Obstetrics and Gynecology, Helsinki University Central Hospital, Helsinki, Finland.
Abstract
Uterine leiomyomas, or fibroids, are benign tumors that affect millions of women worldwide and that can cause significant morbidity. To study the genetic basis of this tumor type, we examined 18 uterine leiomyomas derived from 17 different patients by exome sequencing, and identified tumor-specific mutations in the mediator complex subunit 12 (MED12) gene in 10. Through analysis of 207 additional tumors, we determined that MED12 is altered in 70% (159/225) of tumors from a total of 80 patients. The Mediator Complex is a 26-subunit transcriptional regulator that bridges DNA regulatory sequences to the RNA polymerase II initiation complex. All mutations resided in exon 2, suggesting that aberrant function of this region of MED12 contributes to tumorigenesis.
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