2012年7月7日土曜日

レバ刺しへの放射線殺菌とradioduransのこと

レバ刺しが禁止になって世間はかまびすしいが、小生の意見ではこんなことを国が規制することはないと思う。フグのキモが大分県内では堂々と食べられているように(もっとも免許調理師のいる食堂での話)、慣習に任せたらよいのである。大分県内ではフグ肝を食するのに全く抵抗がないことを考えれば、潜在的危険度ではやや劣るレバ刺しである。食べた本人の覚悟に任せたら良いと思う。(責任と書かないのがずるいって?  でも昨今の世間の厳しい論調に反して食べようというのだから、覚悟を持って食べてもらいたいし、何があっても文句は言わないのがスジであろう)。

小生がレバ刺しを最後に食べてからどれくらいになるであろうか? もう5年くらいは食べたことがないが、それまでは比較的良く食していた。敢えて食べにいきたいほどのものではないが、行きつけの店に時々置いてあったので、その時は美味しいと思い食べたものだ。置いてあったのが時々なのは、新鮮なレバーの仕入れ日が決まっていたからだという。それくらい、新鮮さには気を使う店だったからよかったのかもしれない。

さて、火をいれるか、放射線をあてるかという議論がある。放射線を当てるというのは、良いアイデアだと思う。味を損ねることなく、殺菌が可能で、しかも食べる人間には一切害がない。ただし、これを許すとしても、最低レバーの新鮮度には気を使ってほしい。以前と同じくらいの新鮮なレバーに放射線を当てたら良い。生菌が死ぬ、すなわち殺菌レベルでやってもらえらばよろしい。

ただ、ちょっと古いものはいけない。毒素性の食中毒というのがある。ベロ毒素を初めとして、「菌は死んでも毒を残す」可能性は大いにあるので、放射線による滅菌済みだからよろしいというわけにはいかぬ。ここがルーズにならないなら放射線による滅菌は大いに推奨されると思う。


さて、ここまでが枕である。

本題は世の中には放射線でなかなか死なない細菌がいるというお話である。これは今から50年以上さかのぼる。缶詰の殺菌にアメリカでは放射線を使っているが、これで滅菌したにも関わらずガスが発生して爆発した製品があったことがきっかけだ。

これをかつては「Micrococcus radiodurans 」と言っていた。最後のradioduransというのは放射線抵抗性という意味である。10Gyの放射線でヒトを、60Gyの放射線で大腸菌を殺すことができるが、radioduransは5,000Gyを浴びても死滅せず、15,000Gyでも37%は生き残るというのだからすごいでしょ。

この細菌を知ったのは丁度1993年頃、癌化の新しい機序として修復遺伝子が登場したころである。ボストンのダナ・ファーバーにKolodnerという大家がいたが、この人たちが次々と修復遺伝子(repair gene)を見つけていった。その中にはヒト発癌と関連するMSH2,MLH1,PMS2などがある。Kolodnerらはもともと原核生物や酵母が主戦場であったが、癌抑制遺伝子ハンティングの真っ最中にヒト癌研究に乗り出してきたわけである。

さて同じ頃、強烈な放射線を浴びて遺伝子DNAがバラバラになっても瞬く間に元のゲノムを再構成する細菌が「南極」で発見されたということが話題になった。論文を読んだが、30分くらいでゲノムが再構成されていく写真が載っていた。全く驚いたと同時に、この細菌には通常の生物の何倍もの何コピーもの修復システムがあるということが説明されていた訳だ。

この細菌がMicrococcus radioduransその後名前が変わりDeinococcus radioduransとして知られるようになったというわけだ。缶詰の細菌も同じものであった。

話はまだまだ続き、この細菌に「通常の生物の何倍もの何コピーもの修復システム」を進化上もたらしたのは放射線被爆を想定したわけではなく、極端な乾燥に耐えるためであったということが最近の雑誌に地味に掲載されている。

5,000Gyを浴びても死滅せず、15,000Gyでも37%は生き残る生物がいるのである。自然は驚異の宝庫ですな。



以上radioduransの話は特殊な話。レバ刺しに放射線は悪い話ではないと再度述べておきましょう。


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