サイエンスのVogelsteinの総説を読んだが、素晴らしいの一言だ。研究には一進一退というものがあって、がんと遺伝子ゲノム変異領域は幹細胞やiPSやmiRNAやエピジェネティクスに押されて、一見地味な領域に成り下がっているようにも見える。ボクの興味は一貫してがんのゲノム遺伝子変異なので、この領域の進み方には極めて敏感である。ここ10年くらいの進み方には本当にワクワクして来たし、今もそうである。着実に進んでいるという印象である。この中心にはやはりVogelsteinがいるのである。がん研究の総説には有名なものがいくつもあり、中でもR. Weinbergの二つの総説(Hallmarks of Cancer)はすぐれている。ゲノム研究ではE. Landerの総説もすぐれている。
Vogelsteinの総説の特徴はなんであろう?いろいろ考えるに、まず読みやすい総説であることだ。これにつきる。こんなに簡単にがんを論じていいのか?というのがVogelsteinのスタイルだ。常人にはできない。雑駁に「がつっ」とわしづかみにして、論を進める。時間が過ぎていくと、彼のパラダイムがそう間違っていないことにみな気がつく。「多段階発癌モデル」「Gate keeper & Care taker」「Mountain & Hill」 『Driver Gene & Passenger Gene」このような仮説はVogelsteinオリジンであるが、この仮説がどれだけ学問を進展させてきたか、異論を唱える勇気のある人間はいないだろう。
今回の総説でもあらたに「Mut-Driver Gene」「 Epi-Driver Gene」という概念を持ち出してきた。Mut-Driver Geneというのはドライバーになりうる変化が遺伝子変異によってもたらされる遺伝子のことで、一方、変異は無いがメチル化やアセチル化の修飾でドライバーになりうる遺伝子をEpi-Driver Geneと言うのだ。エピジェネティクスに余り関わりのなかったVogelsteinが、エピジェネティクスに近寄ってきている。ついに近寄って来たね。
面白いのはがん関連遺伝子の総数を宣言しちゃったことだ。正確に言えば Mut-Driver Geneの総数だが、これを125個とした。(これは彼の作った”20/20 rule”を満たすものをDriver Geneとした。詳細は論文そのものを参照のこと)
71種類のがん抑制遺伝子と54種類のがん遺伝子である。
これは今後増え続けるかというと、頭打ちであろうとVogelsteinはいう。
まだまだ興味は尽きない。読みやすいので、ぜひ御読みくださいな。
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