2014年2月11日火曜日

日本人前立腺癌におけるERG発現の検討

前立腺癌というのは泌尿器科の疾患であるが、疾患頻度が高いため他科の医師も無視できない病態である。この疾患はPSAという超強力な腫瘍マーカーがあることと、生検が比較的容易であることなどから、他科の癌腫とは明らかにアプローチのされ方が異なっているように小生には見える。すなわち研究レベルでは「新たな腫瘍マーカーはもういらないよ」というものであり、臨床レベルでは「前立腺癌が見つかったって?  まあそんなに慌てなくても大丈夫ですよ」というようなものである。そのように見えるのである。たとえば外科サイドからみれば垂涎のTMPRSS2-ERG遺伝子融合も余り日本では流行っていない。 100例程度の、しかも免疫染色の結果で議論されているだけで(これでもこの5年くらい気になって小生の目に触れるような日本語報告は見てきたつもりであるが)済まされている。小生の知りたいのは
  1. 日本人前立腺癌にはTMPRSS2-ERG遺伝子融合イベント頻度は極めて低い(のか高いのか?)
  2. 日本人前立腺癌においてTMPRSS2-ERG遺伝子融合の有無に臨床的な意味はない(のかあるのか?)
  3. 治療ターゲットとしてのTMPRSS2-ERG遺伝子融合には現状有望な薬剤候補がない(のかあるのか?)
  4. 抗体染色でみつかるERG髙発現の機序はTMPRSS2-ERG遺伝子融合としても良いのか?
  5. 日本の泌尿器科にとってTMPRSS2-ERG遺伝子融合研究 はもう終わったことなのか?それ以前に、どうでもよい研究対象なのか?

500症例以上のRT-PCR研究報告なんてどこかにないのかしらん?

TMPRSS2-ERG遺伝子融合研究意味がないなら意味がないで結構だが、その実情をだれか解説してくれないものかね。


Title :
40. 日本人前立腺癌におけるERG発現の検討
Subtitle :
第128回成医会総会一般講演要旨 一般演題
Authors :
古里文吾1, 木村高弘2, 三木淳2, 山本順啓2, 鎌田裕子2, 大和田麻美子1, 須藤明美1, 岡安美央子1, 小峰多雅1, 鹿智恵1, 鷹橋浩幸1, 千葉諭1, 鈴木正章1, 頴川晋2, 羽野寛1
Authors (kana) :
Organization :
1東京慈恵会医科大学病理学講座, 2東京慈恵会医科大学泌尿器科学講座
Journal :
東京慈恵会医科大学雑誌
Volume :
126
Number :
6
Page :
233 - 234
Year/Month :
2011 / 11
Article :
抄録
Publisher :
東京慈恵会医科大学
Abstract :
「目的」: 欧米人前立腺癌においてもっとも頻度の高い遺伝子変化はETS関連遺伝子(ETS Related Gene, ERG)の発現, とくにTMPRSS2-ERG gene fusionによって高発現するERGであり, その頻度は欧米前立腺癌の約50%に存在することを我々の最近の研究において確認した. しかし, 日本人前立腺癌におけるその発現頻度はいまだ十分に解明されていない. 今回われわれは, 日本人前立腺癌におけるERG発現の頻度を解析し, その病理学的意義を検討した. 「方法」: 2004年に東京慈恵会医科大学附属病院で前立腺全摘を行った92例を対象に, そのパラフィンブロックを用いて日本人前立腺癌におけるERGの発現をImmunohistochemistry(IHC)法とfluorescence in situ hybridization(FISH)法により解析し, 両者の関連性を含めて検討した. 「結果」: IHC法におけるERGの発現解析においては前立腺癌全体の約16.5%(15/92)にERG発現が認められた. このERG発現症例に対して4例のFISH解析を行った結果, DNAレベルではいくつかの異なったTMPRSS2-ERGのgene fusionパターンが認められた. なお, 正常前立腺では全例においてERGの発現はなかった. ERG陽性症例はGleason Scoreと年齢に有意な相関性がみられたが, その他の臨床病理像(BMI, PSA, 病理ステージ, 断端陽性, 前立腺および癌容量, 生物学的再発)との関連は今回検討したコホートには認められなかった. 「結論」: 日本人前立腺癌におけるERGの発現頻度は癌全体の約16.5%である事がわかった. この現象は欧米人前立腺癌に比べて明らかに低く, 人種差が存在する可能性がある. 今回の解析では, いずれの検出方法(IHC法, FISH法)においてもERG発現は悪性細胞のみにしか確認できず, 日本において現在使用されている前立腺癌診断マーカー(e.g.AMACR)と比べて遥かに高い, 100%に近い特異性がある事が確認できた. タンパクレベルで同様のERG発現をみる症例においても, FISH法におけるDNAレベルでのTMPRSS2-ERG gene fusionの解析によって, 異なったfusionパターンを示すことが新たにわかった. 今後更なる症例の集積によって予後との関連など新たな臨床病理学的意義が加わる可能性が強く示唆された.
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Title :
P-115 日本人前立腺癌におけるERG発現の検討
Subtitle :
第76回 日本泌尿器科学会東部総会記録集 一般演題
Authors :
木村高弘1), 古里文吾2), 三木淳1), 山本順啓1), 鎌田裕子3), 鷹橋浩幸2), Jan Trapman4), Geert J.H.L.van Leenders4), Tapio Visakorpi5), 頴川晋1)
Authors (kana) :
Organization :
1)東京慈恵会医科大学泌尿器科, 2)東京慈恵会医科大学病理学講座, 3)東京慈恵会医科大学DNA医学研究所悪性腫瘍研究部門, 4)Department of Pathology, Josephine Nefkens Institute, Erasmus University Medical Center, 5)Institute of Medical Technology University of Tampere
Journal :
泌尿器外科
Volume :
25
Number :
増刊2
Page :
1117 - 1117
Year/Month :
2012 / 5
Article :
抄録
Publisher :
医学図書出版
Abstract :
【目的】ETS関連遺伝子(ERG)蛋白の発現は前立腺癌において最も頻度の高い遺伝子変化であり, 欧米の報告では前立腺癌の約50%に存在する. しかし, 日本人前立腺癌におけるその発現頻度は十分に解明されていない. 今回われわれは, 日本人前立腺癌におけるERG発現の頻度を解析し, その臨床病理学的意義を検討した. 【方法】2004年に慈恵医大病院で前立腺全摘を行った92例を対象に摘出検体のindex cancerおよび近接正常前立腺組織を用いてtissue microarray (TMA)を作成した. 免疫組織染色によりERGの発現を検討し, 患者の臨床病理学的因子との関連を検討した. 【結果】92例中15例(16.3%)にERGの発現を認めた. 近接正常前立腺では全例でERGの発現を認めなかった. ERG陽性症例は陰性症例に比べ, 有意にグリソンスコアが低く(p=0.0026), 年齢も低かった(P=0.0011). その他の臨床病理像, 予後(BMI, PSA, 病理ステージ, 断端陽性, 前立腺および癌容量, 生物学的再発)との関連は認められなかった. 【考察】日本人前立腺癌におけるERGの発現頻度は欧米人に比べ低く, 人種差が存在する可能性が示された. ERG発現とグリソンスコア, 年齢との関係が示されたが, 予後予測因子としての可能性は否定的であった.

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