2014年8月8日金曜日

NCDデータからみる日本の手術死亡率について

NCDデータというのは日本の外科医が日本の手術を全国レベルで集計した一大データベースである。
    ・・・(一部紹介引用してみる)
  • 『一般社団法人National Clinical Database』(以下、NCD)を立ち上げて早4年が過ぎました。専門医制度と連動した手術症例の入力は2011年に開始され、わが国で一般外科医が 行っている手術の95%以上をカバーする年間120数万件が入力され、2014年3月末時点で400万件を越える手術情報が4105施設から集積されまし た。世界に類を見ない、素晴らしい巨大データベースが構築されたわけです

NCDデータからみる日本の手術死亡率について初めての報告が先月(その後の注:これ2013年でしたね、失礼)の消化器外科学会で報告された。その抄録を引用掲載してみたい。

これはかつてない極めて重要な事業報告である。ヨーロッパから似たような報告があったが(これは臓器別ではないが)、比較すると日本の外科が極めて良くやっていることがわかろうというものだ。(折角の報告であるが、記述の統一性に若干の乱れがあるのが残念だ。在院死、病院死亡、術後30日以内の死亡、手術関連死亡等々)

なおヨーロッパの報告では在院死亡が術後60日以内の院内死亡となっていることにはご注意ください。またいうまでもなく日本の報告では臓器が絞られていること、癌手術が主であろう事、緊急手術が相対的に少ないことはヨーロッパの報告と比較するときに意識しておく必要はあります。


馬場 秀夫:1、渡邊 雅之:1、宮田 裕章:2、後藤 満一:3、杉原 健一:4、森 正樹:5

1:熊本大学大学院消化器外科学、2:東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座、3:福島県立医科大学医学部臓器再生外科学講座、4:東京医科歯科大学大学院腫瘍外科学、5:大阪大学大学院消化器外科学講座
2011年の1年間に1623施設から登録された20011例の胃全摘症例を対象とした.年齢は平均68.9歳,73.7%が男性であった.緊急手術例 は全体の2%で,4.6%が日常生活での介助を必要としていた.術前のASAスコアはGrade 3が8.9%,Grade 4/5が0.6%であった.術前の併存症では糖尿病を8.9%に,呼吸不全を2.4%に,腹膜播種を3.7%に,腹水を2.0%に認めた.術後合併症は 26.2%に認め,Clavien-Dindo分類のGrade 2以上の合併症は18.3%であった.外科的合併症としては,手術部位感染を8.4%,縫合不全を4.4%,Grade B以上の膵液瘻を2.6%に認めた.非外科的合併症としては,肺炎を3.6%,腎不全を1.3%,脳血管障害を0.7%,心イベントを0.6%に認めた. 術後30日以内の死亡は0.9%,在院死亡は2.2%であり,全手術死亡は2.3%であった.今回の解析データから胃全摘術の全手術死亡のリスクモデルを作成すると,ASAのGrade 4以上が最も重要な因子であり,その他には術前の人工透析や血液検査異常等患者の全身状態にかかわる因子と,腹膜播種や腹水の存在等癌の進行に関連する因子が手術死亡に関連する因子として同定された.過去の海外のものを含む多施設共同臨床試験において,術後合併症の頻度は,D1郭清で 16.8%~28%,D2郭清で33~46%,在院死亡率はD1郭清で1.8%~6.5%,D2郭清で3.7~13%と報告されている.我が国では進行胃癌に対してD2郭清が標準であり,ほとんどの手術でD1+以上のリンパ節郭清が施行されている現状を考慮すれば,今回のNCDによる胃全摘術後の合併症率および死亡率のデータは我が国の胃全摘の水準が世界的に見ても高いレベルにあることを示唆する.

この学会報告にあわせてAnnals of Surgery論文が報告されている。

これは一般の方が手術を受けるとき我々に向けられる懸念を晴らすために是非必要になるデータなのだ。
 普通の人(ASAのリスク評価が低い患者殿)は当然ここに載っている死亡率、在院死の%より極めて低い値が予想されるからである。ちなみにASA分類というのは以下である。

全身状態評価とASA分類 (American Society of Anesthesiologists)

 ASA Physical Status 1 - A normal healthy patient
ASA Physical Status 2 - A patient with mild systemic disease
ASA Physical Status 3 - A patient with severe systemic disease
ASA Physical Status 4 - A patient with severe systemic disease that is a constant threat to life
ASA Physical Status 5 - A moribund patient who is not expected to survive without the operation
ASA Physical Status 6 - A declared brain-dead patient whose organs are being removed for donor purposes
These definitions appear in each annual edition of the ASA Relative Value Guide®. There is no additional information that will help you further define these categories.
これがオリジナルの表現である。日本語の訳は↓。だからASA PS 4以上というのは高度のリスクがあると考える方々である。
分類   身体評価
PS1  (手術となる原因以外は)健康な患者
PS2   軽度の全身疾患をもつ患者
PS3   重度の全身疾患をもつ患者
PS4   生命を脅かすような超重度の全身疾患をもつ患者
PS5   手術なしでは生存不可能な瀕死状態の患者
PS6   臓器移植のドナーとなる,脳死と宣告された患者
  


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
Annals of Surgery:
Post Author Corrections: July 28, 2014

Total Gastrectomy Risk Model: Data From 20,011 Japanese Patients in a Nationwide Internet-Based Database.



Watanabe, Masayuki MD, PhD; Miyata, Hiroaki PhD; Gotoh, Mitsukazu MD, PhD; Baba, Hideo MD, PhD, FACS; Kimura, Wataru MD, PhD; Tomita, Naohiro MD, PhD; Nakagoe, Tohru MD, PhD; Shimada, Mitsuo MD, PhD; Kitagawa, Yuko MD, PhD; Sugihara, Kenichi MD, PhD; Mori, Masaki MD, PhD

Abstract


Objective: To construct a risk model for total gastrectomy outcomes using a nationwide Internet-based database.

Background: Total gastrectomy is a very common procedure in Japan. This procedure is among the most invasive gastrointestinal procedures and is known to carry substantial surgical risks.

Methods: The National Clinical Database was used to retrieve records on more than 1,200,000 surgical cases from 3500 hospitals in 2011. After data cleanup, 20,011 records from 1623 hospitals were analyzed for procedures performed between January 1, 2011, and December 31, 2011.

Results: The average patient age was 68.9 years; 73.7% were male. The overall morbidity was 26.2%, with a 30-day mortality rate of 0.9%, in-hospital mortality rate of 2.2%, and overall operative mortality rate of 2.3%. The odds ratios for 30-day mortality were as follows: ASA (American Society of Anesthesiologists) grade 4 or 5, 9.4; preoperative dialysis requirement, 3.9; and platelet count less than 50,000 per microliter, 3.1. The odds ratios for operative mortality were as follows: ASA grade 4 or 5, 5.2; disseminated cancer, 3.5; and alkaline phosphatase level of more than 600 IU/L, 3.1. The C-index of 30-day mortality and operative mortality was 0.811 (95% confidence interval, 0.744-0.879) and 0.824 (95% confidence interval, 0.781-0.866), respectively.

Conclusions: We have performed the first reported risk stratification study for total gastrectomy, using a nationwide Internet-based database. The total gastrectomy outcomes in the nationwide population were satisfactory. The risk models that we have created will help improve the quality of surgical practice.


冨田 尚裕:1、松原 長秀:1、外賀 真:1、後藤 満一:2、宮田 裕章:3

1:兵庫医科大学医学部下部消化管外科、2:福島県立医科大学医学部臓器再生外科学講座、3:東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座
結果:2011年度に我が国で行われた13316症例の低前方切除術症例を検討対象とした.平均年齢は66.2歳,緊急手術の割合は1.1%であっ た.30日死亡及び病院死亡はそれぞれ0.4%と0.9%であった.術後縫合不全率は10.2%であった.30日死亡のオッズ比は以下の通りであっ た:BMI30以上, 7.0; 静脈血栓の既往, 6.2; 術前輸血 5.4; 腹膜播種 4.9.ROC曲線下の面積を用いたC等計量は0.766であり,このモデルは比較的良好な識別能を示した。


竹内 裕也:1、北川 雄光:1

1:慶應義塾大学医学部外科

【対象と方法】2011年1月から12月までに全国713施設からNCDに登録された食道切除再建術症例5354例が解析の対象となった.術前リスク因子,術後合併症発生頻度,術後30日以内死亡率,在院(90日)死亡率の解析を行った.
【結 果】患者平均年齢は65.9歳,男性が84.3%を占めていた.術前1年以内に喫煙歴のあった患者は全体の41.7%,アルコール常用者は58.2%で あった.平均手術時間は473 ± 160 分,出血量は568 ± 570gであった.術後合併症発生率は全体で41.9%,うちSSI 14.8%,縫合不全13.3%,肺炎15.4%,敗血症性ショック1.8%であった.術後30日以内死亡率は1.2%,在院死亡率は3.4%であった.
術前リスク因子の多変量解析において,患者年齢,術前の喫煙,ADL不良,体重減少等が術後30日以内死亡の有意なリスク因子となっていた.またこれらに加えてCOPDが在院死亡の有意なリスク因子となった.
【考 察と結論】米国や英国からのNational databaseに基づく食道切除再建術の成績では,術後合併症の発生頻度は全体で50%,39%と報告され,各合併症の頻度も含め,わが国の術後合併症 発生頻度は欧米とほぼ同様であると考えられた.一方,術後30日以内死亡率は米国で3.0%,英国では4.3%と報告されており,わが国の合併症管理水準 の高さが死亡率で欧米を凌駕する一因となっていることが推測された.


後藤 満一:1、宮田 裕章:2

1:福島県立医科大学医学部臓器再生外科学/日本消化器外科学会データベース委員会、2:日本消化器外科学会データベース委員会

【方法】登録された肝切除症例のうち,急性汎発性腹膜炎症例,同時に食道切除再建術,膵頭十二指腸切除術が実施された症例を除外した(n = 20455).MOS肝切除術式のうち,腹腔鏡下肝切除術を除いた7732症例について,患者術前状態を独立変数に設定し,各アウトカムを従属変数に設 定した多重ロジスティック回帰分析にて,モデルを構築した.モデルに含まれる独立変数は,変数増加法(尤度比)により選択した.この方法は米国ACS- NSQIPとほぼ同様の方法を採用した.
【結果】肝切除例20455の手術死亡率,手術関連死亡率はそれぞれ1.2%,2.3%,また,MOS 肝切除ではそれぞれ2.0%,4.0%であった.MOS肝切除症例の80%を用いてリスクモデルを作成したが,手術死亡では14項目,手術関連死亡では 24項目がリスク因子として選択され,それらは術前の合併症,手術適応(緊急手術,肝内胆管癌,肝門部胆管癌,胆嚢癌),術前検査データ(血小板 数,Hb,Alb,AST値),肝切除部位(S1, S7,あるいは S8を含む)であった.MOS肝切除症例の20%を用いてvalidationをおこなったが,そのC-indexは各々0.714,0.761と良好な ものであった.
【考察】肝切除後の全国レベルの死亡率が欧米では5-10%程度と報告されているが,わが国ではこのように低く抑えられていることは世界的に注目される


木村 理:1、宮田 裕章:2,3、後藤 満一:2,4、見城 明:5、北川 雄光:2、島田 光生:2、馬場 秀夫:2、冨田 尚裕:2、杉原 健一:4、森 正樹:4

1:山形大学医学部消化器・乳腺甲状腺・一般外科学/日本消化器外科学 会データベース委員会、2:日本消化器外科学会データベース委員会、3:National Clinical Database、4:日本消化器外科学会、5:日本消化器外科学会データベース委員会ワーキンググループ
【対象と方法】
日本の外科系のNational clinical data baseから1167施設から8906例の膵頭十二指腸切除術の30日死亡率,在院死亡率の頻度および入院死亡率に関係する因子を調査した.
【結果】
平均年齢は68.2歳であった.平均術後入院期間は44.9±24.7日であった.術後30日以内の死亡は1.2 %(105例)であった.手術死亡率は2.8 % (251例)であった. 入院死亡率に関係する因子は呼吸器障害,手術直前のADL,心筋梗塞,10%以上の体重減少,ASA3以上,BMI 25以上,白血球12000以上,APTT 40秒以上,血清アルブミン25g/dl以下,T.Bil 2以上,クレアチニン 3.0以上,NA 145以上であった.術後30日以内死亡に関与する因子は9つあり,緊急手術,COPDは入院死と独立した関連因子であった.
術後30日以内死亡率と入院死亡率は膵癌がその他の癌よりも有意に低かった.肝外胆管癌は術後30日以内死亡率の有意な危険因子であった.
【結語】
本論文は日本のNational surgical databaseを用いた膵頭十二指腸切除術の最初の統計学的報告である.膵頭十二指腸切除術術後30日以内の死亡は1.2 %(105例)であった.手術死亡率は2.8 % (251例)であった. 

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