2015年5月14日木曜日
最近のHans Cleversとの質疑応答:nature outloolk 最新号:免疫もいけるよ!
ちょっと持ち上げすぎかもしれないが、このブログは2007年にClevers_Lgr5最初の論文の話題から始まり、ある意味ではCleversとともにあるので興奮をお許しください。全く素晴らしい研究成果としかいいようがない。小生もまた研究生活に戻りたくなってきましたぜ。
最近のHans Cleversとの質疑応答
http://www.nature.com/nature/journal/v521/n7551_supp/full/521S15a.html
オルガノイドの応用例として免疫治療のターゲット細胞というのが挙げられていたが、これは素晴らしいよね。
臨床免疫をやっている人間なら夢のターゲットである。
ヒト免疫研究の最大のネックは「客観的治療効果判定システム」が存在しないことであった。zeno、alo治療対象細胞は「一応」存在するが多くは細胞株であるから(昔はRajiやK562あるいは多くの腫瘍細胞株、今のそのレパートリーは知らない)掻靴掻痒であった。autoの系は細胞自体が不安定だしね、とてもターゲットとしては信頼に足らない。しかしHLAがからむからどうしても自己細胞で安定してrepeatableに再現確認実験がやりたいのは皆が数十年望んできたことだ。20例連続して体外増幅可能な自己腫瘍細胞系が可能なシステムというのは「臨床免疫家」にとっては夢のシステムである。
自己の腫瘍細胞、自己のT-B-免疫細胞システム、樹状細胞系・・・これがvitroで再現できるのだ!A研究室でやった成果がB研究室で再現できる、3年後でも再現できる。夢のようだ。
2015年5月12日火曜日
Clevers今度はCell:大腸癌のバイオバンク:連続20症例の経験
前回Cleversが素晴らしい論文を公表したとnoteしたら、今度は同じCleversの所から大腸癌臨床例で20例連続オルガノイドを作成(癌と健常上皮べつべつに・・)したとの報告である。オルガノイドはオリジナルの癌をほぼ模倣するようだ。
なによりもとても良い薬剤感受性サンプルになる。感心したのは最後のc-mab治療とras変異の相関である。従来の学説どおりなのである。
これは臨床に使える。
2015, Cell 161, 933–945 May 7, 2015
Prospective Derivation of a Living Organoid Biobank of Colorectal Cancer Patients
Marc van de Wete, ・・・・・・and Hans Clevers
SUMMARY
In R spondin-based 3D cultures, Lgr5 stem cells from multiple organs form ever-expanding epithelial organoids that retain their tissue identity. We report the establishment of tumor organoid cultures from 20 consecutive colorectal carcinoma (CRC) patients. For most, organoids were also generated from adjacent normal tissue. Organoids closely recapitulate several properties of the original tumor. The spectrum of genetic changes within the ‘‘living biobank’’agrees well with previous large-scale mutational analyses of CRC. Gene expression analysis indicates that the major CRC molecular subtypes are represented. Tumor organoids are amenable to high-throughput drug screens allowing detection of gene-drug associations. As an example, a single organoid culture was exquisitely sensitive to Wnt secretion (porcupine) inhibitors and carried a mutation in the negative Wnt feedback regulator RNF43, rather than in APC. Organoid technology may fill the gap between cancer genetics and patient trials, complement cell-line- and xenograft-based drug studies, and allow personalized therapy
当該研究の概要は上記シェーマで一目瞭然。腫瘍と周辺健常組織からオルガノイドを作り、vivoをvitroへ移行する。一旦移行されたオルガノイドは増殖可能であり,様々なomicsが測定可能である。もちろん新薬(既存薬も)のスクリーニングにも最適である。
これがオルガノイドの写真である。上が原発巣のHE、下が対応する症例由来のオルガノイドである。症例7、8、17の写真。オルガノイドが球形(環形)をしているのがよくわかる。構成する細胞のある割合はlgr5陽性の幹細胞なのである。
これは症例オルガノイドを用いた治療実験である。上のAはNutlinによる治療、下は抗EGFR抗体であるCetuximab(我々ちまたの臨床家には通称”c-mab”と呼ばれている極めて日常的な分子標的薬)。右上はp53の変異症例と野生型による感受性の違いが見事だ。下右はkRAS変異の有無によるc-mabの感受性の差。これも見事である。
なによりもとても良い薬剤感受性サンプルになる。感心したのは最後のc-mab治療とras変異の相関である。従来の学説どおりなのである。
これは臨床に使える。
2015, Cell 161, 933–945 May 7, 2015
Prospective Derivation of a Living Organoid Biobank of Colorectal Cancer Patients
Marc van de Wete, ・・・・・・and Hans Clevers
SUMMARY
In R spondin-based 3D cultures, Lgr5 stem cells from multiple organs form ever-expanding epithelial organoids that retain their tissue identity. We report the establishment of tumor organoid cultures from 20 consecutive colorectal carcinoma (CRC) patients. For most, organoids were also generated from adjacent normal tissue. Organoids closely recapitulate several properties of the original tumor. The spectrum of genetic changes within the ‘‘living biobank’’agrees well with previous large-scale mutational analyses of CRC. Gene expression analysis indicates that the major CRC molecular subtypes are represented. Tumor organoids are amenable to high-throughput drug screens allowing detection of gene-drug associations. As an example, a single organoid culture was exquisitely sensitive to Wnt secretion (porcupine) inhibitors and carried a mutation in the negative Wnt feedback regulator RNF43, rather than in APC. Organoid technology may fill the gap between cancer genetics and patient trials, complement cell-line- and xenograft-based drug studies, and allow personalized therapy
当該研究の概要は上記シェーマで一目瞭然。腫瘍と周辺健常組織からオルガノイドを作り、vivoをvitroへ移行する。一旦移行されたオルガノイドは増殖可能であり,様々なomicsが測定可能である。もちろん新薬(既存薬も)のスクリーニングにも最適である。
これがオルガノイドの写真である。上が原発巣のHE、下が対応する症例由来のオルガノイドである。症例7、8、17の写真。オルガノイドが球形(環形)をしているのがよくわかる。構成する細胞のある割合はlgr5陽性の幹細胞なのである。
これは症例オルガノイドを用いた治療実験である。上のAはNutlinによる治療、下は抗EGFR抗体であるCetuximab(我々ちまたの臨床家には通称”c-mab”と呼ばれている極めて日常的な分子標的薬)。右上はp53の変異症例と野生型による感受性の違いが見事だ。下右はkRAS変異の有無によるc-mabの感受性の差。これも見事である。
2015年5月7日木曜日
Cleversのところから素晴らしいヒト発癌モデル:nature
Cleversのところから4つの遺伝子を改変したヒト発癌モデルがnatureに登場した。なにげなく登場したが、この論文は凄いと思う。ヒトの大腸癌はある種の細胞にいくつかの遺伝子が突然変異を積み上げていくと発生するのだということが、わかるのである。違和感なく、初めてわかったような気がするのである。
なにをお馬鹿なことをいまごろ言っているのだと思われるかもしれないが、30年くらいこの世界にいて、これを実証してくれた論文におそらく初めて出会ったような気がするのである。ノックアウトの実験モデルとはことなるのである。min mouseでもない。体細胞(突然)変異モデルなのである。こんなことができるのだなあ。CRISPR/cas9システムは強力だなあ。
多段階発癌モデルは正しいのである。
さて、この論文を一方的に賞賛するのは片手落ちであるので、先にもう一つ2月にnature medicineに出た(今もオンラインかな?)慶応消化器内科の股野麻未/佐藤さんちの論文も紹介しておかないといけない。佐藤さんはCleversのところで立派な仕事をいくつもされた慶応の内科の先生であるが、Cleversの今回の論文とほとんど同じ方法論で大体同じ結論を得ている。
先に股野麻未/佐藤の論文の要旨をいうと
- 正常大腸幹細胞(lgr5陽性細胞)は体外に出してもWNTシグナルやR-spondin等々の薬味が加わった培養液中ではオルガノイドとして培養可能である。
- CRISPR/cas9システムを使ってこの細胞のAPC, KRAS, SMAD4, p53, PIK3CAに次々に変異を加えていく。
- 一つ加わるごとに先ほどの薬味が一つずつ不要になる。最終的には一つも要らなくなるわけだが、これをマウスに移植すると腫瘍を作る。
- この時正常大腸幹細胞由来のオルガノイドでは大腸癌を作ることができた。しかし転移をおこす腫瘍には至らなかった。
- 出発とする細胞をヒトの大腸腺腫由来の幹細胞にすると3つの遺伝子を変化させただけで肝転移モデルを作ることができた。以上が股野麻未/佐藤の論文である。
Cleversのところから出た論文では
- 出発点はあくまで正常大腸幹細胞(および十二指腸粘膜幹細胞)のみである。
- CRISPR/cas9システムによる変化の対象は4遺伝子APC, KRAS, SMAD4, p53でありPIK3CAは出てこない。
- 結果3遺伝子改変では良性腺腫と同様の腫瘍を形成することができ、
- 4遺伝子だと浸潤性の大腸癌を作ることができた。これが Cleversの結論である。
- 転移について触れられていないので、転移モデルは出来ていないと言うことであろう。
どちらも素晴らしい論文だと思う。(実は大腸粘膜だけでなく十二指腸粘膜からもオルガノイドを作成 CRISPR/cas9改変モデルを作り腫瘍作成にいたる実験もあり、この論文の説得力はかなりのものだ)。
転移に関しては 股野麻未/佐藤の論文は若干無理があると思うが、基本の流れは素晴らしい。
幹細胞を用意し、癌遺伝子を変異させ、癌抑制遺伝子を破壊することをいくつか続けて行くと発癌するのである。
できあがったvivoの腫瘍でのasymmetrical divisionがどうなっているのか知りたいな。
Nature
521,43–47 (07 May 2015)
Received 11 November 2014
Accepted 16 March 2015
Published online 29 April 2015
Sequential cancer mutations in cultured human intestinal stem cells
Jarno Drost, Richard H. van Jaarsveld, ・・・and Hans Clevers
要旨:腸陰窩の幹細胞は腸の新生物の起源細胞である。マウスとヒトの腸幹細胞はどちらも、幹細胞ニッチ因子であるWNT、R-spondin、上皮増殖因子 (EGF)およびノギンを含む培地で、長期間にわたって遺伝学的および表現型的に安定性した上皮オルガノイドとして培養できる。今回我々は、 CRISPR/Cas9技術を用い、培養ヒト腸幹細胞で、大腸がんで最も変異頻度の高い4つの遺伝子[ APC 、 P53 (別名 TP53 )、 KRAS および SMAD4 ]の標的遺伝子改変を行った。培地から個々の増殖因子を除去することで変異オルガノイトを選択できる。この4つの変異を持つ変異体は、幹細胞ニッチ因子全 てに依存せずに増殖し、P53安定化因子nutlin-3が存在しても生存できる。この4つの変異を持つ変異体をマウスに異種移植すると、浸潤がんの特徴 を持つ腫瘍として増殖する。さらに、 APC と P53 を合わせて欠失させるだけで、腫瘍のプログレッションの特徴である広範な異数性が出現する。
Crypt stem cells represent the cells of origin for intestinal neoplasia. Both mouse and human intestinal stem cells can be cultured in medium containing the stem-cell-niche factors WNT, R-spondin, epidermal growth factor (EGF) and noggin over long time periods as epithelial organoids that remain genetically and phenotypically stable. Here we utilize CRISPR/Cas9 technology for targeted gene modification of four of the most commonly mutated colorectal cancer genes (APC, P53 (also known as TP53), KRAS and SMAD4) in cultured human intestinal stem cells. Mutant organoids can be selected by removing individual growth factors from the culture medium. Quadruple mutants grow independently of all stem-cell-niche factors and tolerate the presence of the P53 stabilizer nutlin-3. Upon xenotransplantation into mice, quadruple mutants grow as tumours with features of invasive carcinoma. Finally, combined loss of APC and P53 is sufficient for the appearance of extensive aneuploidy, a hallmark of tumour progression.
Nature Medicine
Received 27 June 2014
Accepted 14 January 2015
Published online 23 February 2015
Mami Matano, Shoichi Date, ・・・・・and Toshiro Sato
Human colorectal tumors bear recurrent mutations in genes encoding proteins operative in the WNT, MAPK, TGF-β, TP53 and PI3K pathways1, 2. Although these pathways influence intestinal stem cell niche signaling3, 4, 5, the extent to which mutations in these pathways contribute to human colorectal carcinogenesis remains unclear. Here we use the CRISPR-Cas9 genome-editing system6, 7 to introduce multiple such mutations into organoids derived from normal human intestinal epithelium. By modulating the culture conditions to mimic that of the intestinal niche, we selected isogenic organoids harboring mutations in the tumor suppressor genes APC, SMAD4 and TP53, and in the oncogenes KRAS and/or PIK3CA. Organoids engineered to express all five mutations grew independently of niche factors in vitro, and they formed tumors after implantation under the kidney subcapsule in mice. Although they formed micrometastases containing dormant tumor-initiating cells after injection into the spleen of mice, they failed to colonize in the liver. In contrast, engineered organoids derived from chromosome-instable human adenomas formed macrometastatic colonies. These results suggest that 'driver' pathway mutations enable stem cell maintenance in the hostile tumor microenvironment, but that additional molecular lesions are required for invasive behavior.