2011年10月12日水曜日

肺子宮内膜症:月経随伴性気胸

小生は婦人科ではない。しかしながら外科の外来をやっていると結果的に婦人科疾患である患者が少なからずやってくる。卵巣癌は年2例はくるだろうし、癌でなくても嚢胞性卵巣疾患は比較的多い。子宮筋腫で婦人科に紹介する患者も多い。自分でも縁があるなあと思う疾患は、何回かノートした子宮内膜症である。直腸やS状結腸でもみるが、臍まわりの腹壁や、帝王切開後の術創でも診たのでノートした。

最近子宮筋腫におけるMED遺伝子の突然変異の話題をノートしたが、その際「良性平滑筋腫の肺転移」について書いた。本当に子宮は変わった臓器であることよ。子宮内膜症の中には肺病変もあり、それは月経と共に喀血したり気胸をおこしたりするのだそうだ。まあこの病態のことは昔ノートしたので知ってはいたが、もちろん一度もこんな患者に遭遇したことはないし、一生みることも無いだろう・・・・と思っていた。

ところで先週のNHKのドクターGは最終診断がクラミジア腹膜炎→肝周囲炎(Fitz-Hugh Curtis syndrome)だったが、このクラミジア腹膜炎(Fitz-Hugh Curtis syndrome)というのもそう希ではなく、消化器外科外来にも時に現れる。番組の患者は右肩周囲の激痛というのが主症状だったのだが、その際の鑑別診断に「月経随伴性気胸」が出てきたのに驚いた。テレビに出てくる研修医は良く勉強しているものだね。というか、Fitz-Hugh Curtisや月経随伴性気胸というのは国家試験的には常識なのかもしれないな、ひょっとすると。詳細はボクには不明だが。いずれにせよ、月経随伴性気胸なんて症例報告的に少ないはずだ。はずだと思っていた。

ところが先日ある報告を読んで、ちと驚いたのだ。月経随伴性気胸を150例診たドクターがいるのだね、この国には。面白いよ。なにがって?

  1. 月経随伴性気胸は右肺にしか起こらない。150例全例右側であり、左を診たことがない。
のだそうだ。

    肺子宮内膜症   栗原正利
    呼吸 28 (10) p999-1003, 2009 より引用。

報告者は東京の日産財団法人日産厚生会 玉川病院 気胸研究センターの栗原正利医師。1986年の開設から2001年までの間に5400例の気胸を治療しているという。気胸のhigh volume centerなのだ。気胸は男女比が7:1らしい。だからこの5400例のうち女性患者は約700例である。右にしか起こらない理由はいまだ不明のようだが、これ面白いなあ。小生が遭遇するモンドール病は左がほとんどなんだけど。これらの左右偏倚は不思議だが、きっと理由があるはずだ。まあ、これは置いといてだな・・・

さて、先ほど150例が月経随伴性気胸と栗原正利医師は報告している。簡単な計算によると女性の気胸の5分の1が月経随伴性ー肺内子宮内膜症ーによるものだということになりはせぬか?これは驚きである。月経随伴性ー肺内子宮内膜症は比較的ありふれた病態ということになるではないか。

女性を診たら妊娠と思えというのは医療者としては全く正しい心構えであるが、今後は女性を診るときもう一つ「病態に子宮内膜症が潜んでいないか」疑うようにしよう。そうしよう。

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