2012年10月28日日曜日

PIK3CAが初めて注目された2004年のサイエンス

PIK3CAには非常に強い印象がある。登場の仕方が印象的だったのだ。

個別の遺伝子の変異頻度を一本の論文にまとめて報告しても、発癌の説明にはなかなかならないということに世の中の研究者が気が付いたのはゲノムプロジェクトが終了した頃である。らちがあかない、遺伝子をまとめて調べてみたいなあ。でもシークエンス技術はまだまだであった。限られた蛋白群からなるグループなら手が出るのだが・・・・・

それならシグナルに注目しようではないか。重要なシグナル経路を構成する蛋白なら、どれかがやられることで癌化するはずだし。生化学的に重要な遺伝子ファミリーとその機能的関連のあるパスウェイ遺伝子群をまとめて解析することの重要性が浮かび上がってきたわけである。

そこで初めにターゲットとなったのは蛋白リン酸化酵素群でありPIKであったわけだ。生理学的に多くの蛋白はリン酸化を受けることで活性が上昇することは知られており、癌における異常なリン酸化が癌化の重要な兆候であると考えられてきたからである。

2004年Vogelsteinらは、phosphoinositol系遺伝子群の包括的遺伝子変異を報告した。Phosphatdyl inositol 3-kinases (PI3Ks)は脂質へのキナーゼ活性を持ち、癌化への重要なシグナルを制御することで知られ、特に細胞増殖、接着、運動能に関与する。 このPIKs群に遺伝子変異があるかどうかを調べるため、ゲノム上知られる8つのPIKs、及び8つのPIKs類似遺伝子合計16遺伝子の全てのエクソン(合計117エクソン)における遺伝子変異を35種類の大腸癌サンプルでシークエンス解析した。その結果PIK3CAに比較的高頻度に腫瘍特異的遺伝子変異を見出した。変異サイトはホットスポット(エクソン9とエクソン20)の中に高頻度に存在することがわかり、その頻度は大腸癌で32%、グリオブラストーマで27%、胃癌で25%であった。

Published Online March 11 2004 
Science 23 April 2004: Vol. 304 no. 5670 p. 554 
Brevia  

High Frequency of Mutations of the PIK3CA Gene in Human Cancers

 Yardena Samuels,Adi Gazdar,Sanford Markowitz,Kenneth W. Kinzler,Bert Vogelstein, Victor E. Velculescul




このグラフが全てである。この論文はBreviaという形態であり、丁度雑誌一ページに収まるコンパクトな論文であったが、インパクトは強烈(下のイメージ)だった。上の表で大腸癌の変異率は74/234 (32%)となっている。その後、この数字を越える報告を出した報告者はいないと思う。今回のNEJMでは17%であった。突然変異の最初の報告というのは、どうしても変異率が高くなる傾向があるのだよな。まあ良しとするとともに、世の中こんなものだと留意されたし。

そんなことより、この「まとめて調べてみよう」が可能になった技術革新と発想転換にはやはり強烈な印象を受けたのだった。


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