2008年1月31日木曜日

血管内グラフティング

血管内グラフティングについてもう少し詳しく見てみよう。

72才男性。 TIAの既往があり内頸動脈の内膜除去が行われている。脳血管障害を持つ患者の10%には潜在性のAAAがあるため腹部エコーを施行したところ5.7cm径の腎下AAAを発見。開腹手術の適応とともに血管内グラフティングの適応が考えられた・・という設定である。

AAAの最近の評価は5.5cm径を境界とする。あるいは一年で1cmの増加。(Sabistonにも書いてある。不明にして私は日本人の境界値を知らない)。一旦破裂すると75%は病院にたどり着くまでに死亡、また90%は手術台にたどり着けない。更に術死は40%でありここのところ改善傾向にない。[日本の信頼できる情報が欲しい。おそらく日本の数字はこれよりはかなり良いことが予測されるから・・]また医療費も膨大でありたとえ合併症がない理想的例でもイギリスの報告では126万円かかる。

さて、手術かグラフトかであるが2つの報告があり(1)EVAR trial 1 (n=1082)[Lancet 2005](2)DREAM trail (n=351) [NEJM 2005]その両者の結果は同じである。すなわち・・・
  1. 一ヶ月以内の死亡率はグラフトが低い
  2. 動脈瘤関連死亡率は4年生存率ではグラフト群が半分と良好
  3. 全死亡率は、変わらない。
  4. グラフト群は治療後の処置回数(re-interevention)が3倍以上と多い
これなら(手術と比較しても非劣性に近いかな)グラフトがいいと思う。ボクがAAAになったらまよわずグラフトですな。

なお更に無処置とグラフトを比べた報告があり「EVAR trial 2(n=338)[Lancet 2005]ここでは、対象者が「手術不適格例」と条件が極めて悪いサブグループであるが、なんと二群には差がないのである。病状が進んだらかえってなにもしない方がいいのだろうな。

なおグラフトの適格条件というのがあり、画像上結構いろんな制限項目があることは覚えておくべきであろう。

NEJM(080131号)より4報

今週号のニューイングランドときたら・・・・

  1. イラク侵攻以降の米国死亡率の評価
  2. アメリカにおける死刑執行(薬物静脈注射)に用いられる3種類の薬(バルビツール等々)についてのデスカッション・・どれが最も「人道的か」
  3. ワールドサッカー大会中の心血管イベントは増えたか?
とあり、なんだか週刊誌的話題が多い。このなかで

  4. 大動脈瘤の血管内治療(要するにカテーテルアシストによる形状記憶合金ステントグラフト)の論文はいいなあ。
    症例報告風に始まるわけであるが、アニメーションビデオまでついている。お薦めです。

Dr. CroceのNEJMレビュー

    Carlo M. Croce, M.D.

Volume 358:502-511 January 31, 2008 Number 5

CroceがNEJMに総説を載せている。最近miRNAで有名だが元々はtranslocationが専門であることは言うまでもない。まだ読んでいないが、おそらくひと味違う総説であろうと予想する。敬意を表してメモしておこう。

2008年1月30日水曜日

ACTS-GC:TS-1術後投与に学ぶ医療統計

ACTS-GCとは・・・?


Adjuvant Chemotherapy Trial of TS-1 for Gastric CancerTS-1
胃癌術後補助化学療法比較試験


昨年ASCOで国がんの笹子さんが発表し、年末にはNEJMに掲載された論文で用いられた統計を使い、医療統計学を学ぶというスタンス。確かにTS-1 は良く効く。ただし従来の抗癌剤と比べてではあるが・・・・。

あの悪名高き「RECIST」評価により華々しく登場したTS-1 であったが、修羅場をくぐり抜け、アジュバント・セッティングで勝利したという感じ。ここまで来ちゃうと「RECIST」評価も悪くない気がしてくるが、実際には「修羅場」をくぐり抜ける薬剤はそうたくさんはないだろうと思う。筆者の感覚では、「続報」が欲しいところである。現状ではmedian follow-upは3年である。その三生率(overall survival:OS)は80.5%と70.1%。立派なものである。
2年後のmedian follow-upが5年になった時点でもう一度結果が知りたい。これがひとつ。
今ひとつはもう一つ別のトライアルのデータが欲しいところである。

RECISTとは


Adjuvant Chemotherapy Trial of TS-1 for Gastric CancerTS-1
胃癌術後補助化学療法比較試験

2008年1月29日火曜日

免疫抑制剤不要の腎移植

HLA-Mismatched Renal Transplantation without Maintenance Immunosuppression
NEJM  Volume 358:353-361 January 24, 2008 Number 4
新しい腎移植のプロトコールなのであろう。ハプロタイプの一つがミスマッチである。腎移植と共にドナーの骨髄を移植している。周術期の免疫抑制は行っているがその後は抑制無しである。MGHから報告された5症例の詳細を見ていこう。

  • Case1:22才女性。アルポート症候群。12才時に父より腎移植。パピローマ感染により抑制剤が使えなくなるとともに移植腎拒絶。22才時に母より腎・骨髄移植。シクロスポリンは移植後240日に中止。1135日まで腎機能良好。

  • Case2:22才男性。膜性増殖性腎炎のend stage。母より腎・骨髄移植。422日に免疫抑制中止。4.5年拒絶兆候無く腎機能良好で経過。

  • Case3:39才男性。多嚢胞腎にて腎不全。兄弟より腎・骨髄移植。10日後にC4d deposits 急性拒絶。移植後5ヶ月から透析再開。10ヶ月後に従兄弟から再度腎移植。抑制剤は必要である(この症例は失敗例)

    • の失敗例を機にプロトコールを改変:移植前にリツキサンとプレドニンを2回投与。
  • Case4:25才女性。アルポート症候群による末期腎不全。母より腎・骨髄移植。244日に免疫抑制中止。731日経過。

  • Case5:46才女性。多嚢胞腎にて腎不全。兄弟より腎・骨髄移植。272日に免疫抑制中止。2年以上拒絶兆候無く、腎機能良好で経過。
長期予後が知りたいところであるが、免疫抑制剤いらずともなれば素晴らしい。骨髄のキメリズムが何をもたらすのであろう?身体が二重規範を受け入れるということなのだろう(自分とドナー)。一生続くというのも考えにくいな。なにか破綻がくるような気がするが・・・・・。

2008年1月28日月曜日

R-Tips

R-Tipsというものもあるぞ。ここには初歩的なSyntaxが書いてある。しかしながら(これは直感であるが・・)、ボクにはこれは不要のような気がする。こんなものを真面目にやる余裕はない。困ったときに戻ってこよう。

いきなり統計解析をやるのじゃ!On the job trainingをやりたい!

僕がRを好きな10の理由

[]僕がRを好きな10の理由

  • 吉田康久さんのblogより

10あるかどうかは後で考える。「僕が」なので一般性は保証しない、というかない。

(1)目的にあってる

  • まあ、統計とかそっちの興味を持ってる段階で、RubyとかPerlを常用するよりはRをよく使いますよねw。まあ、Rに持っていくためのテキスト処理とかはPerlでやりますけど。あ、あとはWebとのインターフェイスのためにPythonとか使うかもしれないですけど。
  • なるほど・・テキスト処理はPerlですか・・私は何も知らないのよね。何も知らないけどRをやってみようと思っています。

(2)インタラクティブに実行できる

  • やってすぐに実行できるというのは、思っていたより結構重要。
  • これはコンパイルが要らないということなのでしょう。なにしろそれがしはBasicしか知りませんので、実行してエラーが出ても、不感症。またやりゃいい・・というのがボクには大事。

(3)ツールが整っている

  • Emacs上でRをごりごりやれるESSが最強。
  • 書いてある意味がよくわかりませんが、セミナーを受けてaffyデータを一挙に正規化できる「rma」には感心しました。あっこれはBiconductorのモジュールなのかも・・。ツールが多いということは、ツールが作りやすいということなのかもしれません。

(4)書籍が豊富

  • 最近たくさん出ています。文法系を説明したものから、Rを使った統計解析まで。RjpWikiの充実っぷりは異常。
  • 統計解析の一端はセミナーで学びました。SAMやpermutationテスト、クラスタ解析、k-meansなどなど。大学院生が何をやっているのかがようやくわかりました。Golub君のリンパ腫の生データを使いながら、R/Bioconductorでサクサク解析していくのは楽しかったし、今まで雲の上の雲上人会話だった上記統計用語にようやく実感が伴ったといったところですな。
  • この技法の面白い所は「怠惰なヒト向け」の技法ではないかと思うのです。
    • >plot(e[,1],e[,2])なんて嬉しくなります。出来るだけタイプする文字を少なくすることに意を尽くしている。
    • i=i to 44000なんて要らないのよね。宣言なんかないのよね。x一個でベクトルも行列もオブジェクトになっちゃうのよね。
    • オブジェクトeに属するすべての数字を対数変換したいのならlog10(e)と書けばいいし、それを再びeと置きたいのなら一挙にe <- log10(e)と命令すればいい。なんとすっきりしたロジックなのだろう。感心するは!

(5)オブジェクト指向

  • オブジェクト指向と総称的関数etcなおかげでplotとかsummary、printなどとりあえずこれらのメソッドを覚えておけばどうにかなる。記憶しておかないといけないとこが少ないのは助かる。
  • そうなんだ・・記憶しなくてはいけない事が少ないのは助かるが、記憶しなくていけないことすら、まだ私は出会っていないような気がする。

(6)なんでもできる

  • なんでも…じゃないけど回帰分析も分散分析もプロットも数値計算もとりあえずRの文法覚えておけばどうにかなる。
  • これは本当にそう思わせる何かがある。ヒートマップ(クラスター解析でよく見る赤と緑や赤と青の縞々模様)を作らせるのに > hetatmap(esig,colo=topo.colors(16))だけでいいんだもの!

(7)ヘルプ充実

  • 「?関数」とか「example(関数)」とかやればとりあえず使いかたが分かる。
  • そうなんだ、まだ余録に与っていないから何もいえない。

(8)どこでも使える

  • WinでもMacでもLinuxでも。
  • セミナーでは講師がLinux,ボクがMac,前後のお兄さんたちはWinだったし・・・。

(9)フリー

  • SPSSとか個人じゃ使えないですよー。
  • これってライセンスがウン十万するソフトのことでしょうか?それを言えばGeneSpringsはone lissenceがだいたい60万だしね。

2008年1月27日日曜日

Bioconductor:Experiment Data Packages

Experiment Data Packages

  1. yeastCC 0.5.1 Spellman et al. (1998)    yeast cell cycle microarray data
  2. golubEsets 1.0 exprSets for golub      leukemia data
  3. colonCA 1.1.1 exprSet for Alon et al. (1999)  colon cancer data
  4. CLL Robert Gentleman A Package for CLL Gene Expression Data
  5. ALLMLL B. M. Bolstad A subset of arrays from a large acute lymphoblastic leukemia (ALL) study
以上はBioconductorに登録されているアレイデータ(ほとんど素データ)の一例である。GolubのデータをR/Conductorを使用して解析するセミナーに出てみたが、実に面白かった。一人でもう一回やりなさいといわれると辛い解析ではあるが・・・。

2008年1月22日火曜日

NEJMのビデオ講座

NEJMにはビデオ講座がついていることに気がついた。
最新号では「鼻咽頭の診断」が紹介されていたが、10分程度の
わかりやすいものであった。「コレはイイ!」という感じだ。

Videos in Clinical Medicine

Examination of the Larynx and Pharynx
F. C. Holsinger and Others
Preview | Video Video | PDF

2008年1月20日日曜日

Lgr5のその後

Lgr5とClevers H.のその後を追いかけているのだが、続報は出ないようだ。年末にGastroenterologyに総説が出ていたのでリンクしておく。

2008年1月12日土曜日

髙コレステロールはどこへ行った?

最近コレステロール値が動脈硬化他のリスク評価から消えた。いつの間にか消えた。代わって時代のトップバッターはLDLとトリグリセライドである。1980年代日本人のエビデンスが無い時代に欧米の基準に則ってガイドラインが決められたが、これで髙脂血症の薬剤、特にスタチン、特にメバロチンは内科以外の科でも大流行であり、年1000億の売り上げが評判になったものである。その後、
2002年「動脈硬化性疾患診療ガイドライン」改訂版では、(スクリーニングのための診断基準として)総コレステロール220mg/dL、LDLコレステロール値140mg/dLを追認。そして昨年・・

2007年「高脂血症の診断基準」を「脂質異常の診断基準」とし、動脈硬化性疾患リスクの高い集団のス クリーニングの診断基準としてLDLコレステロール140mg/dLを採用し、総コレステロールについては、むしろ診断基準から除去したこれらは日本動脈硬化学会の公式のガイドラインである。

予防薬としてとスタチン系の薬剤についてどこまで積極的に使用すべきか、学会はもっと啓蒙すべきであろう。

以下、2007年版診断基準の序文である。
  •  動脈硬化性疾患、ことに心筋梗塞を中心とした心血管系疾患と、脳梗塞・脳卒中を中心とした脳血管障害による死亡は、日本人の死因統計上がんと並んで大き な位置を占め、死因の30%に及んでいる。我が国の世界に先駆けた高齢化は、益々その頻度の増加が予想される。その有効な予防、さらにその治療対策の確立 は必須の課題であり急務である。
     動脈硬化の発症・進展は多様な危険因子の重なりによって引き起こされることが、Framingham研究で危険因子の概念が確立して以来多くの研究成果 の蓄積により証明されてきた。その中で、最も重要な因子として高コレステロール血症が確立しており、したがって、従来その対策に最も重点が置かれてきた。
     高コレステロール血症の診断基準については、我が国では1987年日本動脈硬化学会冬季大会でのコンセンサスカンファレンスにより、総コレステロール 220mg/dL、トリグリセライド150mg/dL、HDL40mg/dLという基準値が提唱された。しかしながら、この頃は日本人のデータからなるエ ビデンスが伴っておらず、その後、我が国のエビデンスに基づいた診断基準の設定がなされ、1997年に日本動脈硬化学会より「高脂血症診療ガイドライン」 が発表された。冠動脈疾患の相対危険度は欧米のデータとよく一致し、総コレステロール220mg/dLを診断基準として採用した。また、LDLコレステ ロールが重要であることも強調され、総コレステロール220mg/dLに相当するLDLコレステロール値として、140mg/dLが提示された。その後、 我が国独自のいくつかの単一のコホート研究が発表され、さらに介入試験も発表され、それに基づいて2002年に「動脈硬化性疾患診療ガイドライン」として 改訂版が発表された。ここではスクリーニングのための診断基準として総コレステロール220mg/dL、LDLコレステロール値140mg/dLを追認し た。
     さらに2007年、日本動脈硬化学会では5年ぶりの改訂版を発表し、「高脂血症の診断基準」を「脂質異常の診断基準」とし、動脈硬化性疾患リスクの高い 集団のスクリーニングの診断基準としてLDLコレステロール140mg/dLを採用し、総コレステロールについては、むしろ診断基準から除去した。患者カ テゴリーは、A、B、Cという表記をあらため一次予防と二次予防に区別し、一次予防を低リスク、中リスク、高リスクと分類した。低リスクでは、生活習慣の 改善を中心とするメッセージを重要視した。最近、動脈硬化発症・進展の重要リスクとして位置付けられた「メタボリックシンドローム」の章を新たに設けた。 今回の改訂により、実地医家にとっても動脈硬化性疾患の対策により有用なガイドラインとして愛用していただけるものと期待するところである。

2008年1月11日金曜日

SNPs検査が商売に・・・なっていた!

ニューイングランドに興味深い記事が載っていた。

Letting the Genome out of the Bottle — Will We Get Our Wish?

D. J. Hunter, M. J. Khoury, and J. M. Drazen
NEJM Volume 358 — January 10, 2008 — Number 2
As of November 2007, two companies have made available direct-to-consumer "personal genome services" (www.23andme.com) or "gene profiles" (www.decodeme.com) that rely on the same arrays of 500,000 to 1 million SNPs used in genomewide association studies. A third company (www.navigenics.com) has announced that it will offer similar services later this year. Essentially, a client sends a DNA sample to one of these firms, which analyzes the sample by means of SNP array; the data are stored in an online private account, the results are compared with allele–phenotype databases maintained and updated by the company, and the customer receives a readout of his or her levels of risk for specific conditions.

さすがアメリカは速い。個人の遺伝子多型(SNPs)を調べることを商売にする会社が去年(2007年)11月以来2つ、今年後半にもう一つ現れたそうな。一人の患者・・じゃない(!)・・健康な一般の人を対象に50万〜100万カ所のSNPs調べ、調べた結果は「個人口座」に保存されるとな。比較対象となるデータは会社がアップデートしていくとなっているが、これは去年くらいから爆発的に増えたwhole genome associatin studyの結果が積み上がっていくのだろう。

"personal genome services"とやらのHPを覗いてみよう。洗練されたHPである。余計なことは書いてないシンプルな画面。いきなりオーダー画面に行ってしまったが、999ドルと書いてある。キットを送るから送り返せとあるが、このキットで回収されるのは'spit’である。「唾」なのだDNAのソースは。送り返されたキットはIllumina HumanHap550に独自のカスタムoligo 30000が追加された総計約60万箇所のアレイにて検索され、4〜6週間後に結果が出るそうだ。この10万円は研究室レベルと比較しても高くないと思う。まあ驚いたよ。
お次は・・
"gene profiles" を覗いてみるこちらは985ドルで若干お安くなっています。さらに友達を紹介すると50ドルキャッシュバックだ。18種類の病気のリスクを判定してくれる。この数は将来的に増やしますだって、嬉しいねえ。
  1. Age-related Macular Degeneration
  2. Asthma
  3. Alzheimer's Disease
  4. Atrial Fibrillation
  5. Breast Cancer
  6. Celiac Disease
  7. Colorectal Cancer
  8. Exfoliation Glaucoma XFG
  9. Crohn's Disease
  10. Multiple Sclerosis
  11. Myocardial Infarction
  12. Obesity
  13. Prostate Cancer
  14. Psoriasis
  15. Restless Legs
  16. Rheumatoid Arthritis
  17. Type 1 Diabetes
  18. Type 2 Diabetes.

2008年1月10日木曜日

08/01/10のNautreより3報

またまたMassaguéのグループが・・・・・

Endogenous human microRNAs that suppress breast cancer metastasis
Nature 451, 147-152 (10 January 2008)
Sohail F. Tavazoie, Claudio Alarcón, Thordur Oskarsson, David Padua, Qiongqing Wang, Paula D. Bos, William L. Gerald & Joan Massagué

A search for general regulators of cancer metastasis has yielded a set of microRNAs for which expression is specifically lost as human breast cancer cells develop metastatic potential. Here we show that restoring the expression of these microRNAs in malignant cells suppresses lung and bone metastasis by human cancer cells in vivo. Of these microRNAs, miR-126 restoration reduces overall tumour growth and proliferation, whereas miR-335 inhibits metastatic cell invasion. miR-335 regulates a set of genes whose collective expression in a large cohort of human tumours is associated with risk of distal metastasis. miR-335 suppresses metastasis and migration through targeting of the progenitor cell transcription factor SOX4 and extracellular matrix component tenascin C. Expression of miR-126 and miR-335 is lost in the majority of primary breast tumours from patients who relapse, and the loss of expression of either microRNA is associated with poor distal metastasis-free survival. miR-335 and miR-126 are thus identified as metastasis suppressor microRNAs in human breast cancer.

がん転移の一般的な調節因子の探索によって、ヒト乳がん細胞に転移能が生じるとともに特異的に発現がなくなる一群のマイクロRNAがみつかった。今回我々は、悪性腫瘍細胞でこれらのマイクロRNAの発現を回復させると、 in vivo でヒトがん細胞の肺および骨への転移が抑えられることを示す。これらのマイクロRNAの中で、miR-126の発現を回復させると腫瘍の成長と増殖が全般 的に抑えられるのに対し、miR-335の場合には転移細胞の浸潤が抑制される。miR-335は一群の遺伝子を制御しており、ヒト腫瘍の大規模なコホー トではこの遺伝子群の集団発現と遠隔転移のリスクが関連している。miR-335は、前駆細胞の転写因子 SOX4と細胞外マトリックス成分であるテネイシンCを標的として作用することにより、転移と移動を抑制する。再発患者由来の原発乳がん 細胞の大半でmiR-126とmiR-335の発現がなくなっており、これらのマイクロRNAどちらかの発現がない場合には、遠隔転移のない生存例はわず かである。したがってmiR-335とmiR-126は、ヒト乳がんで転移を抑制するマイクロRNAであることが明らかになった。(以上はNature Japanの訳)

癌転移を制御する因子を探索する中で、ヒト乳癌が転移すると特異的に発現が消失するマイクロRNAの一群が見つかった。乳癌細胞でこれらのマイクロRNA発現を回復させるとin vivoで肺や骨転移が抑えられることを我々は本論文で示す。miR-126は腫瘍の成長と増殖を全般的に抑え、miR-335は転移細胞の浸潤を抑制する。大規模(遺伝子発現)コホート研究によれば、miR-335が制御する一群の遺伝子は遠隔転移のリスクと相関する。更にmiR-335は幹細胞前駆細胞転写因子(Yamanaka Factor)であるSOX4と細胞外マトリックス成分であるテネイシンCをターゲットとしており、結果、転移・浸潤を抑制する。再発乳癌患者の大多数ではmiR-126とmiR-335の発現がなくなっており、そのどちらかの発現消失があると遠隔転移をおこさないままでいられる生存期間が短くなる。以上の結果、miR-126とmiR-335はヒト乳癌における転移抑制マイクロRNAであることが明らかとなった。
metastasis-free survivalの訳は正確にやらないと。「遠隔転移のない生存例はわず か」はいいすぎ。

なお2006年の「Molecular Cancer」にはbreast とprostateにおけるmir-126の論文が出ている

Optimized high-throughput microRNA expression profiling provides novel biomarker assessment of clinical prostate and breast cancer biopsies
Molecular Cancer 2006, 5:24

Epigenetic silencing of tumour suppressor gene p15 by its antisense RNA


正常な細胞の増殖を抑制するがん抑制遺伝子(TSG)は、細胞ががん化すると頻繁にエピジェネティックなサイレンシングを受ける。DNAメチル化は一般に TSGサイレンシングと関係があるとされているが、がん化に際してのDNAメチル化開始および認識機構の変異については不明である。遺伝子制御機構の興味 深い可能性として、マイクロRNA、Piwiと相互作用するRNA、アンチセンスRNAなど、広範囲に及ぶ非コードRNAが挙げられる。広範なセンス-ア ンチセンス転写物は、哺乳類細胞では系統的に同定されており、網羅的なトランスクリプトーム解析から、最大70%の転写物にアンチセンス配列対が存在し、 アンチセンスRNAの変動によりセンス遺伝子の発現が変化しうることが示されている。例えば、1人の患者で、自然発生ではなく遺伝子変異によって誘導され たアンチセンス転写物により、遺伝子サイレンシングとDNAメチル化が生じ、その結果サラセミアが発症することが示されている。本論文で我々は、多くの TSGの近くにはアンチセンスRNAが存在することを明らかにし、白血病と関係するとされているサイクリン依存性キナーゼ阻害因子 p15 のサイレンシングにおける1つのRNAの役割に注目した。白血病では p15 のアンチセンス( p15AS )と p15 のセンス発現の間に逆相関がみられることがわかった。 p15AS の発現物質は、ヘテロクロマチン形成によってシスおよびトランスで p15 のサイレンシングを誘導するが、DNAメチル化は誘導しないことがわかった。 p15AS の発現停止後もサイレンシングは持続したが、メチル化阻害剤とヘテロクロマチン阻害剤はこの過程を元に戻した。 p15AS に誘導されるサイレンシングは、ダイサーとは無関係であった。マウス胚性幹細胞における外来の p15AS の発現は、ヘテロクロマチン形成によって p15 サイレンシングを引き起こして成長を促進し、さらに胚性幹細胞の分化後にはDNAメチル化も引き起こした。以上より、自然に存在するアンチセンスRNAは、腫瘍形成時のTSGサイレンシングにおけるヘテロクロマチン形成およびDNAメチル化の引き金となる可能性がある。

このほか、iPSにおけるYamanaka Factorが2つに絞られたという例の論文が本編へ載っている。

Reprogramming of human somatic cells to pluripotency with defined factors

2008年1月9日水曜日

ピロリ菌、やっぱりがん誘発 マウス実験で初めて証明

ピロリ菌、やっぱりがん誘発 マウス実験で初めて証明

北海道大の畠山昌則教授のPNAS論文:(8日発表とのことだが、掲載されていない。どうしてだろう・・?)

CagAを作るよう、遺伝子操作したマウスを222匹。うち2匹は約1年半後には胃がんを、4匹 は小腸がんを発症した。さらに、17匹が白血病などの血液がんを発症し、CagAが胃がん以外にも関係する可能性も浮かんだ。一方、通常のマウス100匹 も観察を続けたが、がんは発症しなかった。 実験では、マウスの体内で「SHP-2」という酵素に関係した酵素が異常に活性化していることも判明。一方、CagAとSHP-2が結合できないようにしたマウスでは、がんは発症しなかった。・・とのこと。


怪我の功名:8日のPNASにGloverらによるFHITの報告が載っているのを見つけた。見逃さないでよかったと思う。

Replication stress induces tumor-like microdeletions in FHIT/FRA3B

Sandra G. Durkin, Ryan L. Ragland, Martin F. Arlt, Jennifer G. Mulle, Stephen T. Warren, and Thomas W. Glover

Department of Human Genetics, University of Michigan, Ann Arbor, MI 48109-5618; and Department of Human Genetics, Emory University, Atlant

ざっと読んでみたが、human-mouse hybridをaphidicolinで誘導しゲノムアレイをかけた実験である。確かにrearrangementが誘発されているし、ホットスポットである第5イントロン周辺にagerrrationは観察されるが、hybridの実験であり、やや印象度が薄い・・・と思った。

2008年1月8日火曜日

BioConductor

統計解析環境Rのゲノム解析向けライブラリ集 Bioconductor

BioConductorは,統計処理ソフトR上で,バイオ関連データを扱うためのパッケージ.マイクロアレイ解析には,機械学習の手法が利用されており,人工知能とバイオの関連は今後とも密接になる. また,遺伝子の機能などを,オントロジーとして体系化する試みもあり,BioConductorはこうしたオンロジーを扱うこともできる.・・・とのこと

R/Bioconductor

急にR/Bioconductorというソフト(??)を扱わなければならない羽目に陥った。セミナーに出るのに、手前のパソコンにR/Bioconductorをインストールしておくようにとのお達しである。わかりにくいが、プログラム作成用のeditorのように見える。

メモを貼る。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
RとBioconductorのインストール

(1) Rのインストール
以下のWebサイトを参考にRをインストールしてください。

- Rの公式Webサイト: http://www.r-project.org/
- Windowsバイナリダウンロード:
http://cran.md.tsukuba.ac.jp/bin/windows/base/
- RjpWiki: http://www.okada.jp.org/RWiki/

(2) Bioconductorのインストール
Rを起動し、コンソールで、
source("http://bioconductor.org/getBioC.R")
getBioC(groupName="all")
のように実行し、Bioconductorをインストールしてください。

注意として、
source("http://www.bioconductor.org/biocLite.R")
biocLite()
では不十分ですので、必ずgetBioC.Rを実行してください。

Wekaのインストール
以下のWebサイトを参考にWekaをインストールしてください。
- 公式Webサイト: http://www.cs.waikato.ac.nz/ml/weka/
- ダウンロード: http://www.cs.waikato.ac.nz/ml/weka/index_downloading.html
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

それゆけBioinformatics
これでも読んで雰囲気に慣れよう。

R−備忘録
というのもある。

2008年1月6日日曜日

がん統計都道府県比較 標準化死亡比(SMR)日本地図

国立がんセンターのHPにある
がん統計都道府県比較 標準化死亡比(SMR)日本地図
更新日:2006年10月01日 掲載日:2011年1月18日
◆部位別では
  • 胃がん・・・東北地方の日本海側で死亡率が高い。
  • 肝臓がん・・・東日本より西日本で死亡率が高い。
  • 乳がん・・・大都市圏の都道府県で死亡率が高い。
  • 子宮体がん・・・関東地方で死亡率が高い。
  • 膵臓がん・・・北日本での死亡率が高い。
  • 白血病・・・九州の死亡率が高い。

75歳未満年齢調整死亡率

・1995年以降、全がんの75歳未満年齢調整死亡率は全国的に減少傾向にある。
・全がん75歳未満年齢調整死亡率(男女計)が低い5県は、
  1995年 長野県、福井県、熊本県、沖縄県、香川県
  2000年 長野県、福井県、沖縄県、熊本県、山梨県
  2005年 長野県、岡山県、熊本県、大分県、香川県

・全がん75歳未満年齢調整死亡率(男女計)が高い5県は、
  1995年 大阪府、福岡県、佐賀県、長崎県、兵庫県
  2000年 大阪府、佐賀県、福岡県、長崎県、青森県
  2005年 青森県、佐賀県、大阪府、福岡県、和歌山県

癌にかかったら5年生きられるか?

部位別がん患者5年生存率(1993-1996年) 男女計

パピローマ・ワクチンの現状

頻度の高い癌腫のなかで、ウイルス感染が原因となるものがいくつか知られている。東洋における肝細胞癌がそのひとつ。また子宮頸癌も代表例であろう。これらについては「予防戦略」が明確である。感染予防で発癌頻度を低下させることがおそらく可能であろうからである。

HPV types: 6, 11, 16, and 18に対する予防ワクチンとして Gardasil(Merck)が知られる。4つのタイプをターゲットとするので四価ワクチンquadrivalent vaccineと呼ばれる。数年前に市場に出てマスコミを賑やかにした。

昨年いくつかのトライアルの結果がNEJM他に発表された。観察機関が3年程度であり、endpointは感染率である。発癌予防に効果があったかあどうかを問うのは時期が速すぎる。しかし有効かどうかの可能性については、その評価をいち早く知りたいではないか!!

原著をあたる手もある。効果について麗々しく書いてある。でも本当か?そこでNCIのFactSheetを当たってみた。これは一般の患者さん向けの解説であり、当然の表現は控えめである(控えめのはずである)

Human Papillomavirus (HPV) Vaccines: Questions and Answers

ここには3つのランドマイズド・トライアルが引用されている。
  1. Garland SM, Hernandez-Avila M, Wheeler CM, et al. Quadrivalent vaccine against human papillomavirus to prevent anogenital diseases. New England Journal of Medicine 2007; 356(19):1928–1943.

  2. The Future II Study Group. Quadrivalent vaccine against human papillomavirus to prevent high-grade cervical lesions. New England Journal of Medicine 2007; 356(19):1915–1927.

  3. Hildesheim A, Herrero R, Wacholder S, et al. Effect of human papillomavirus 16/18 L1 viruslike particle vaccine among young women with preexisting infection: A randomized trial. Journal of the American Medical Association 2007; 298(7):743–753.
で私の感触であるが、感染予防効果は絶大・・とはいえないと思います。未感染若年女子に限っては有効と書いてあるが、それとて通常の感染症ワクチンの効果よりは低いのでは?

このワクチンの本来の目的である、癌の発生率が低下すること、さらには子宮頸癌の死亡率の低下に有効であるとの報告が(たとえ30年かかってもいいから)聞いてみたいものだ。


2008年1月5日土曜日

NEJMについて:研究の練度について考える

最近目を通す雑誌にNew England Journal of Medicineを加えた。この雑誌の優れているところは、一つにはあらゆる診療科を横断する「網羅性」であるといえる。今ひとつは一つの病気についての縦断性、すなわち歴史的背景を充分に考慮に入れた上での(すなわち一定のレベルのオーソドックスな保守性を守りながら)、その診療科の医師、その病気の研究者のコンセンサスを充分満たすレベルの最新の情報あるいは最先端の情報を提供する「先鋭性」だ。僕は消化器癌を専門にしているが、NEJMを読むことで、様々な病気の基礎・臨床の現状を把握することができるが、もっと注目していいのは、他分野における研究の「練度」というものへの気づきである。

たとえば「前立腺癌」。この病気ではPSAという腫瘍マーカーが有名である。癌の発見に役に立つほとんど唯一のマーカー(他の一つは肝臓癌におけるAFP)である。他領域の癌の研究者は最低PSA程度のマーカーを見つけるのに躍起になっているわけであるが、しかしその
PSAも泌尿器科の間では絶対的なものではないという。これほどのものを持ちながら何が不満なのか、ボクにはよくわからなかったが、それはこの20年の間の前立腺癌治療の進歩が、消化器癌のそれと比べるとうらやましいくらい進歩していることの反映だったのだということがわかる。これが「練度」である。変な言い方だが「高額所得者には高額所得者の悩みがあるのだよ」と喩えてみたい。「PSAも絶対的なものではない」という世界と「CEAやCA19-9が癌の早期発見には役に立たない」というのは別次元の話なのだ・・・ということを了解出来なければならない。それにはエビデンスがやはりいるのであり、そのような前立腺癌の診断と治療の現状を知るのに最適の論文が次の論文である(NEJM昨年最終号)。

逆に現在の泌尿器科医には「
前立腺癌治療の進歩が、消化器癌のそれと比べるとうらやましいくらい進歩している」という言葉の意味が最早、了解できないことだろうと思う。こんなことを書いて何になるのだろうと思うかもしれないが、大いに意味はあるのだ。つまり消化器癌もはやく前立腺癌のレベルに到達したいという思いであり、そのレベルが抱える悩みを今の段階で「共有」しておくことが、つまらない研究の選択肢を選んだり、隘路に陥る危険性を回避できるのではないかと考えるからだし、あるいは今の前立腺癌の悩みに至らない方向性を模索する基盤となりはしないかと思うからだ。

それにしても、いい臨床論文だと思うな↓

Localized Prostate Cancer

P. C. Walsh, T. L. DeWeese, and M. A. Eisenberger

Volume 357 — December 27, 2007 — Number 26

2008年1月4日金曜日

新年の抱負

(1)100例の大腸癌、100例の乳癌、100例の食道癌について徹底検索
   (a) 過去歴を含めた疫学データ(治療への反応性を含む)
   (b) 末梢血の多型データ
   (c) 切除腫瘍のDNA, RNA, genomeデータ
       (i) 主要遺伝子の点突然変異データ
          K-ras, TP53, PIK3A, BRACA1(乳癌のみ), vRAF
       (ii) ゲノムアレイデータ:in/del
       (iii) 発現アレイデータ

(2)未知の融合遺伝子の体系的検索
   消化器癌におけるrecurent fusion genesを検索

3)fragile siteとゲノム構造について新展開を!

(4)多光子顕微鏡によるvivo imaging
   (a) 癌間質の本態
   (b) 創傷治癒の本態
   (c) 消化管吻合治癒機転の本態