2011年12月31日土曜日

2011年の10大論文を選んでみた

1) 2011年4月23日土曜日

 メタゲノムで面白そうな論文:ヒト大腸フローラは3種類ある?

Nature(2011) 20 April 2011
Enterotypes of the human gut microbiome

メタゲノムでヒトである。人種差を超えた3種類のフローラの可能性を示唆する論文で面白い。

2) 2011年1月14日金曜日

chromothripsisなる新しい概念が提唱されたよ。

癌化に伴うゲノムの改変は普遍的に おこるイベントとして認知されている。そしてこれは長年かかってゆっくり起こってくるものと考えられていた。しかしある種の腫瘍ではこの改変が、少なくと も一染色体レベルの改変なら数十から数百の断片化を経て一挙に改変されてしまうという驚くべき事実が報告された。

Cell, Volume 144, Issue 1, 27-40, 7 January 2011
Massive Genomic Rearrangement Acquired in a Single Catastrophic Event during Cancer Development

その後も続報が少数ながら続いている。まさにカタストロフであり面白い。

3) 2011年10月14日金曜日

腸管幹細胞にはLgr5より上位細胞が存在するかもしれない:nature

なにやら穏やかでない論文がnatureに登場した。腸管幹細胞にはLgr5より上位細胞が存在するかもしれないというものだ。小腸には予備の幹細胞集団が存在するためLgr5陽性細胞は必ずしも必要ではない

Nature 478, 255–259 (13 October 2011)
A reserve stem cell population in small intestine renders Lgr5-positive cells dispensable

2007年に初めて報告されたLgr5であるが、他の腸管ステムセルと必ずしも概念的に折り合いがついているとはいえなかった。この話はまだまだ先がありそうである。

4) 2011年8月27日土曜日

子宮筋腫の7割にMED12遺伝子の突然変異がある:フィンランドのAaltonenの報告

Science  15 August 2011.
MED12, the Mediator Complex Subunit 12 Gene, Is Mutated at High Frequency in Uterine Leiomyomas

良性腫瘍に高頻度の遺伝子異常。これには驚いたのだ。Aaltonenのところからの報告でなければ模様眺めしておくところである。このような報告に「そんなこともあるでしょう」と平然としているヒトがいる。一応「正しく」驚愕すべきだと思うのだが・・・・。

5) 2011年9月12日月曜日

MDS臨床症例におけるスプライス関連蛋白高頻度突然変異: 東大小川誠司博士のnature

Nature(2011) 11 September 2011
Frequent pathway mutations of splicing machinery in myelodysplasia

その後 2011年9月28日水曜日 MDSにおけるスプライス蛋白変異(2): サンガーからNEJM

ごく最近では
  N Engl J Med 2011; 365:2497-2506 December 29, 2011

SF3B1and Other Novel Cancer Genes in Chronic Lymphocytic Leukemia

スプライス異常による発癌というのが血液腫瘍に偏倚するというのが面白い。当初はMDSだったが最近ではCLLである

6) 2011年3月18日金曜日

最近気になる論文から・・・3報

Nature 471,325–330 06 February 2011
DICER1 deficit induces Alu RNA toxicity in age-related macular degeneration

加齢黄斑変性症の原因の一つがDICER1(RNA のプロセッシングユニット)によることも面白ければ、こともあろうに反復配列「Alu」が蓄積することが細胞毒になるというという事象も初めて聞く話で面白かった。

7) 2011年6月19日日曜日

Hairly cell leukemiaで驚くべき遺伝子変異!:NEJM

N Engl J Med 364:2305-2315  June 16, 2011
BRAF Mutations in Hairy-Cell Leukemia

Hairly cell leukemiaではBRAF変異が100%認められるという報告だ。これにも驚かされた。100%の変異率である。他施設からの報告も相次いでいるようだ。話がどうなっていくか興味深い。

8) 2011年10月13日木曜日

最新の哺乳類の類縁関係:natureより

29種類の真獣類とヒトゲノムを比較し、その類縁関係を探る報告がでた。

Nature  12 October 2011
A high-resolution map of human evolutionary constraint using 29 mammals

小生はこんな研究報告が一番好きだ。

9) 2011年9月14日水曜日

大腸癌でも融合遺伝子(natrure genetics):VTI1A-TCF7L2融合蛋白

Nature Genetics (2011)  04 September 2011
Genomic sequencing of colorectal adenocarcinomas identifies a recurrent VTI1A-TCF7L2 fusion

大腸癌で融合遺伝子でありよくぞとは思ったが実は頻度が低い。これくらい低いと続報で確認しないと信頼性に欠ける。頻度は低くてもコンスタントに異常が認められれば、それはそれでいいのだが。

10) 2011年2月11日金曜日

体内のpHを直接2D表示する技術:最新のPNAS

PNAS February 8, 2011 vol. 108 no. 6 2432-2437
2D luminescence imaging of pH in vivo

こういう研究は楽しいねえ。

2011年12月22日木曜日

心嚢気腫症:NEJM今週のイメージ

NEJM今週のイメージはここのところ皮膚病変等々が多く、なんとも引用がはばかられた。今週はまあまあなので引用。

Images in Clinical Medicine

Pneumopericardium Associated with a Peptic Ulcer

Alexandre Andrianov, M.D., and Michael A. Nissenbaum, M.D.

N Engl J Med 2011; 365:2412December 22, 2011
























まず上の写真だが、心嚢に空気が!

患者は63歳であり急な呼吸困難と酸素2lでSpO2が92%なんですと。この患者、元来胃潰瘍があり。CT等によるとFundusにあった潰瘍が横隔膜に穿通しそのまま心嚢腔につながっていることが判明したという。まあ緊急の心嚢穿刺により、症状は劇的に改善したという。一種の心タンポナーデですな。

腸管気腫症の原因の一つが胃潰瘍であるというのは教科書にも良く書かれているが、「心嚢気腫症」こんなのもあるのですな。緊急性が高いので胸写を見たら直ちに反応できるようにしておきたいものだ。取り敢えず原因は二の次でいいから、『心嚢に空気が貯まっているから直ぐに脱気しなくてはいけない・・・』という意識の流れ。


2011年12月20日火曜日

大腿骨顆上骨折

頚部骨折は飽きるほど診たが、骨幹部骨折は1例、高原骨折は3例である。さて今回の入院は初めての大腿骨顆上骨折である。受傷後20日、術後14日で転院である。何気なく「良いですよ」と言ってはみたが、なかなか大変そうだ。まず荷重がかけられない。術後6−8週は患肢荷重フリーであるが、どれだけ筋が痩せるか、考えただけでも憂鬱である。

  1. 大腿骨の内側顆と外側顆の近位で折れた大腿骨骨折を大腿骨顆上骨折
  2. 観血的整復固定術とは、手術で切開を加えて、患部露出して、解剖学的に正しい位置に骨折部を整復し、内固定材で固定。
  3. 内固定材に何を使ったか、切開の部位によって起こりうる合併症(神経麻痺など)、術後早期に気をつける点(ROM訓練、筋力強化、創からの出血量、神経麻痺、安静度など)がポイント。
  4. 通常、内固定はプレート固定。外固定(ギプス)を加えていれば、腓骨神経麻痺に気をつける。
  5. 外固定がなければ、関節拘縮をおこさないようにCPMマシンでROM運動をすぐに始める。
  6. 貧血に注意する。
  7. 後遺症として、膝関節の拘縮、筋力低下がもっとも重要、術後は脂肪塞栓にも気をつける必要があり。
  8. 高齢者であれば、長期臥床で痴呆の出現。

2011年12月17日土曜日

千島列島:ウシシル島

このブログで千島列島を話題にするのは2回目である。

小生が興味あるのは北方4島の更に先にある、中部〜北千島列島である。なかなか行くことができない島々であり、写真集もたくさんあるわけではない。

小生の手元にあるのは北海道新聞社が1994年に出した「千島縦断」という写真集である。小生がこの中部〜北千島列島に興味を持ったのは実はGoogle Earthが登場した時である。これまで是非行ってみたいと思っていた場所に上空から行けるではないかという感動を持って、その日は何時間もGoogle Earthを楽しんだ。
行った場所
  1. 喜望峰(南アフリカ)

  2. ロカ岬等々(ポルトガル:エンリケ航海王関連)

  3. ノモンハン(旧満州の辺境:ノモンハン事件の現場)

  4. 青ナイル河畔

  5. ノバスコシア(カナダ:セントローレンス河口付近、小生がアメリカで行った北限)

  6. 韃靼海峡: (これはもちろん「安西冬衛」の「春」の蝶(てふてふ)が飛んで渡った現場が見たかったからである。)
    計測すると樺太島(サハリン)とロシア本土間は最短で7.6kmある。殺伐とした風景でなかなか良い。


  7. そして千島列島を空から遊覧したのである。

    この千島列島漫遊が素晴らしい。そのうちのひとつウシシル島の写真を掲載する。
















これは最南端の湾である。湾の長径は1.2kmである。海に面している入り口が360m。この湾からこの島には接近するらしいが、上陸後が大変らしい。急峻な崖であり、高いところ(こんな写真が撮れるところ)に上がるのが一苦労なんですって。

またこの島は千島列島で一番霧が発生する場所であり、こんな写真は滅多に撮れないらしい。

いずれにせよ「冒険島」のようで、一度はいって見たいではないか。















上空からの写真がまた素晴らしい。北島と南島の間はわずかに600mである。両島の端から端まで6.4kmである。

2011年12月15日木曜日

「福島第一原発を国有化せよ」:鳩山前首相のnature投稿

鳩山前首相が「福島第一原発を国有化せよ」とという論考をnatureの今週号に投稿している。今朝その事実を知ったとき思ったのは、
  1. なぜ日本国前首相なのか?
  2. なぜnatureなのか?
  3. なぜ鳩山さんなのか?
  4. なぜnatureは採用したのか?
  5. 鳩山さんにこのような論考を書かせたのはだれなのか?あるいは真の執筆者はだれなのか?
  6. その論考の内容は?

次々にいろんな疑問が浮かんだ。普通あり得ない投稿であり、採用だと思ったのだ。そしてその内容は日本語でnature誌のウェッブサイトで読める。コメントに対するnatureの態度が興味を引く。丸ごと引用はさすがにはばかられるので、途中だけ一部。

・・・福島第一原子力発電所の事故から9か月以上が経過したが、そこで起きたことについては、根本的な疑問が答えられないまま残っている。これらの疑問に 対する答えが与えられないかぎり、日本はもちろん、世界の国々も、何がいけなかったのか、今、何をするべきなのか、今後、同様の事故を防ぐためにはどうす ればよいのかを知ることはできない。

Nature 2011年12月15日号313ページの Comment 欄では、こうした懸念がまとめられている。日本国民にとって気がかりなことの1つは、この論文の執筆者である。執筆者の2人は与党の政治家で、そのうち1人は元首相なのだ。彼らのような立場にあっても、答えを入手できないのだろうか?・・・


「首相や元首相にもアクセスできない情報」という書き方が、やむにやまれずnatureへの投稿という道をとらせたという背景を示唆するが、しかしいかにも不自然さを感じてしまう。この元首相の投稿はきっと国内のみならず世界に波紋を投げ掛けるが、さてその顛末やいかにだなあ・・・・当事者の一つである日本学術会議の意見を聞いてみたい。








2011年12月11日日曜日

ジオラマ風写真:備忘録

昨日の忘年会は最高だった。こんな面白い宴会も久しぶり。そこでいろんなことを教えて貰った。

(1) ジオラマ風写真がここのところ何年か話題である。

たとえばこんな写真。一見模型風であるが、実は実写。

二〇世紀ひみつ基地から参照させていただいた。

始めた人は有名で週刊誌では随分取り上げられた。

  1. 本城直季
  2. ドイツのマルク・レダー(Marc Rader)
  3. フィンランドのミクロス・ガール(Miklos Gaal)

実はそこからいろんなことが派生していた。

そのうちの一つが
「ユニクロのカレンダー」である。

今朝見ているが、いいんだこれが!

地方もいいし、また都会も良い。21世紀版「新日本紀行」のようだ。

http://www.uniqlo.com/calendar/

2011年12月2日金曜日

今時のテレビに絶望している諸兄へ

普通のテレビ番組がさっぱり面白くないと見限っているのは小生ばかりではなかろう。私にとって普通でないBSやCSにはきっと面白い番組があるに違いないと想像するのだが、探しにいくのも億劫である。退潮ムードのテレビ番組ではあるが中には面白い番組もあった。

出始めの頃の「サラリーマンNeo」は面白かったよなあ。特に冒頭の中田有紀と生瀬勝久のニュースは最高にシュールだった(今は色あせてしまったが)。

今の番組でひときわ輝いているのはなんといっても朝の連続小説「カーネーション」であろう。時々しか見れませんが、大変皆さんが魅力的である。尾野さんも麻生さんも田丸さんも濱田さんも正治さんも栗山さんもみんな生き生きして輝くばかりにキレイだ。小林も宝田も味がよく出ている。音楽も素敵だ。小生がこよなく愛す椎名林檎である。よくまあこんな変調音楽をテーマ曲に選んだものだNHKさん。
これからも楽しみな番組です。


番組ガイドに面白そうなページを見つけたのでメモ  http://gendai.ismedia.jp/articles/-/28513

『China Wow!』(BS1・月・14時~)
  • 現代中国の姿を淡々と追うドキュメンタリーである。例えば11月21日放送の「世界最大の老人ホーム」という回では、北京郊外に完成した東京ドーム11個分の広さをもつ老人ホームが紹介『高騰するチベット犬』という回では、富裕層が希少種のチベット犬を1億円とか2億円で買っていく実態を取り上げていましたが、その人たちというのが、日本のその辺にいるオジさんのようで、とても富裕層に見えない

『メーデー! 航空機事故の真実と真相』(CSナショナルジオグラフィックチャンネル、放送不定期)
  • 事故調査委員会が多くの事故原因の可能性を一つ一つつぶしていく過程が良質な推理ドラマのようで、非常に面白いんです。事故原因も様々で、構造上の欠陥などのほかに、パイロットの頭がおかしくなっちゃった、なんてケースもある

CSのアニマルプラネット・チャンネル



『BS世界のドキュメンタリー』(BS1・月~木・24時~)のBBC制作のもの

『世界ふれあい街歩き』(NHK総合・金・22時~ほか)

  • 世界の街を旅人目線で歩きながら風景や人々の暮らしをとらえていく紀行番組

『猫のしっぽ カエルの手』(BSプレミアム・金・19時半~)

  • 母国外で暮らす女性のナチュラルライフを紹介する番組

『小さな旅』(NHK総合・日・8時~)

  • 日本各地の風景と、そこで暮らす人々の関わりを紹介する旅番組

『KIRIN~美の巨人たち~』(テレビ東京系・土・22時~)

  • ルネ・マグリットの『ピレネーの城』が紹介された回は、あまりに感銘を受けたので、エルサレムのイスラエル美術館まで観に行ってしまいました

『鑑賞マニュアル 美の壺』(BSプレミアム・木・19時半~)
  • 美術品ではなく、暮らしの道具の美を追求する番組。その道具の選び方や、製作する職人の技を勉強できて、非常に実用的。

『ワールドビジネスサテライト』(月~金・23時~)
『報道特集』(TBS系・土・17時半~)

『トラッド ジャパン』(Eテレ・木・23時~)

  • 「銭湯」「文楽」など日本独特のものを英語ではどう表現すればよいかを学ぶ語学番組で、「日本人も知らないような日本文化の雑学も勉強でき、重宝している」

『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系・金・24時20分~)
『ブラタモリ』(NHK総合・木・22時~)

『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS・月・21時~)

  • 酒場詩人・吉田類が日本各地の酒場をめぐる

『熱中スタジアム』(BSプレミアム・月・19時~)

  • 各分野のマニア30人を集めた討論番組

朝ドラの『カーネーション』(NHK総合・月~土・8時~)。


おまけの写真集:Vertual Vendome えぐい写真もなかにはあるが、全体にはなかなかである

クラミジア・トラコマチス抗体の臨床的意義は?

25歳女子。右側腹部痛が続く。いろいろ検査したが、クラミジア腹膜炎も否定できない。小生がこれまで診たクラミジア腹膜炎より経過がマイルドであるが、しかし、しつこい痛みである。エコーでは肝周囲炎はない。血清クラミジア抗体はIgGが陽性でIgAが陰性であった。この解釈に悩みますな。ジスロマックでも投与したら・・・・と言われそうだが、そんな簡単ではないような。さてさて。

CRCのホームページより・・・・

クラミジア・トラコマチス(性器クラミジア)感染症は最も多い性行為感染症(STD)です。女性では子宮頸管炎や卵管炎を起こし、炎症が進むと不妊症の原因になることもあります。妊婦の場合、まれに流産の原因になったり、出産時の産道感染により新生児が結膜炎や肺炎を起こします。男性では尿道炎や副睾丸炎を起こします。


検査法には患部からの擦過検体や初尿検体を用いるEIA法やSDA法、PCR法などの抗原系検査と血清抗体検査があります。


血清抗体価は初感染時にまずIg抗体が1週間以内に上昇します。治療・無治療にかかわらず速やかに消失します(2ヵ月以内に陰性化)。再感染では上昇しません。Ig抗体は約1ヵ月後から上昇し、数年間持続します(約4年で陰性化)。Ig抗体はIgG抗体に遅れて5~6週間で上昇し、数年間持続します(約3年で陰性化)。


一般に、感染症においては抗原検査についで、IgM抗体が活動性感染の指標となりますが、性器クラミジア感染症においてはIgM抗体上昇が十分ではない ため、IgGとIgA抗体が測定されています。ただし、新生児では母親から移行したIgG抗体が介在するため、IgM抗体を検査します。

抗体検査と抗原検査の一致率は30%と低く、IgG抗体およびIgA抗体陽性例には現在の感染と過去の感染が含まれ、鑑別できません。また、オウム病クラミジアや肺炎クラミジアと交叉反応が認められることから、抗体検査は抗原検出が困難な骨盤内感染症、卵管炎、副睾丸炎、新生児肺炎などの深部感染症の補助診断として利用されます。

抗体検査は性器クラミジアのスクリーニングとして使用される場合がありますが、感染初期には出現しないことが多く、治療しても残存することから、感染診断にはSDA法などの高感度な抗原系検査を行います。