エチオピアの24才アルマツ・アヤナがオリンピック10000mで29分17秒45という驚異的な記録を出して優勝した。ボクはこのレースをテレビで見ていたが途中から全く目が離せなくなった。すべてが尋常ではなかった。5000mまでのタイムも良かったが残り4800で飛び出したアヤナの走りは強烈の一言であった。駆け引きなどなく終始トップスピードで駆け抜けていく。カモシカのように長い手足で風を切る走りであり、ストライドも長ければピッチも速い速い速い!!!。
2位以下の選手が全くついていけないレースなので通常このような破壊的レースではトップが最後はメロメロになるか、あるいは2位以下が牽制しあい結局レースとしては平凡なものになりがちであるが、昨日のレースは違った。アヤナは生涯で二度目の10000mのレースを最後までトップスピードで駆け抜け世界新記録を23年ぶりに塗り替えたのだ。
後半5000mのスピードを振り返ろう。
アヤナは14:30.64で走ったが、このタイムはなんと女子5000mオリンピック記録(OR)よりも速いのである。このオリンピック記録はルーマニアのサボーが2000年9月25日にシドニーオリンピックで出した14分40秒79である。「ガブリエラ・サボー」といえばあの時代の長距離女子のレジェンドだったことを思い出す陸上ファンは多いことだろう。
14:30.64とはどんなタイムなのか?現時点で5000m世界歴代35番目の記録である。これを前半14:46.81で走ったのちに出すのであるアヤナ選手は。ついでだからウンチクをもう一つ。先に述べたサボーの5000m生涯ベスト記録は14:31.48(Berlin 01.09.1998)であるが、今回アヤナの後半の記録はこれよりも速いのである。もう申し上げる言葉も無い。
さて彼女の最後の400mのラップタイムは68秒、最後の100mが17秒であった。(このあたりは小生テレビの画面の時計で計測したので多少の誤差はお許し下さい)
なおこのレースは10000mの歴代20傑に新たに7名が名乗りをあげるという素晴らしい試合だった。アヤナに引っ張られた結果であろう。鈴木亜由子は千載一遇のこのレースを経験すべきだったと残念でならない。欠場は返す返すも残念だ。
さて世上喧しいのはドーピング問題だ。ボクはアヤナがドーピングに染まっているとは思わないが、当然時節柄検査はしっかりクリアして欲しい。
このレースが歴史的であるのはあの馬軍団の王軍霞が1993年に出した29分31秒78が23年ぶりに破られたレースであるからだ。王軍霞の記録は永遠に破られない不滅の記録と考えられていたし長距離でのドーピング疑惑でずいぶん有名になった。このエチオピアの24歳もドーピング検査をクリアしなくてはならないが、早速報道陣による辛辣な取材が続いているらしい。
彼女の返答はこれだ。I’m crystal clear.”
ちなみにアヤナの5000mのベストは今年二月に出した14:12.59であり(世界第二位の記録:ちなみに5000mの世界最高記録は今回10000m銅メダルのディババが持つ14:11.15)、アヤナはこのオリンピックでは5000mにもエントリーしているが16日の決勝が楽しみである。またこのレースには我が鈴木亜由子さんも出場するという。頑張って欲しい。