要約
- HIV感染症は大きく3つの病期(急性感染期、無症候期、AIDS期)に分けることが できる。AIDS期には日和見疾患に罹患する危険が生じるが、初感染からAIDS期に至 るまでの時間は症例により異なる。
- HIV感染症をモニターする上では、免疫状態の指標となるCD4陽性Tリンパ球数およ び抗ウイルス療法の治療効果の指標となる血中HIV RNA量が重要なパラメーターである。
- 現在、標準的に行われている強力な抗レトロウイルス療法(HAART)は、HIVの増 殖を効果的に抑制し感染者のAIDS進行を防止することができる。しかし、HAART により体内からウイルスを駆逐するためには少なくとも数十年間の治療が必要と考えられており、事実上治癒は困難である。
HIV感染症の自然経過
HIVは主としてCD4陽性Tリンパ球とマクロファージ系の細胞に感染するレトロウイルスである。感染したHIVはリンパ組織の中で急速に増殖し、感染後1~2週の間に1×106コピー/mlを越えるウイルス血症を呈する。約半数の患者は、この時期に発熱、発疹、リンパ節腫脹などの急性感染症状を呈する。HIVに対する特異的な免疫反応が立ち上がってくると、ウイルスは減少するが完全には排除されない。やがて活発に増殖するウイルスとそれを抑え込もうとする免疫系が拮抗し、慢性感染状態へと移行する。慢性感染状態における血中のHIV RNA量は個々人で比較的安定した値に保たれ、この値をウイルス学的「セットポイント」と呼ぶ 。血中HIV RNA量とHIV感染症の進行速度(CD4陽性Tリンパ球の減少速度)との間には緩やかな逆相関関係があるが、患者ごとで大きなばらつきがあることに注意する必要がある。
患者の免疫機構とHIVが拮抗した状態は、平均10年くらい持続する。この間、感染者は、ほとんど症状なく経過する(無症候期)。しかし、無症候期の間もHIVは増殖し続け、HIVの主要な標的細胞であるCD4陽性Tリンパ球数はゆっくりと減少していく。CD4陽性Tリンパ球は、正常な免疫能を維持するために必要な細胞であり、その数が200/µlを下回るようになると細胞性免疫不全の状態を呈し、種々の日和見感染症、日和見腫瘍(AIDS指標疾患)を併発しやすくなる。この状態が、後天性免疫不全症候群(AIDS : Acquired Immunodeficiency Syndrome)である。抗HIV療法が行われない場合、AIDS発症後死亡にいたるまでの期間は約2年程度であるとされている。
以上のように、HIV感染症は大きく3つの病期(急性感染期、無症候期、AIDS期)に分けることができる。急性感染期とAIDS期の長さには比較的個体差が少なく、無症候期の長さに大きな個体差がある。無症候期をいかにコントロールするかということがHIV感染症の予後と密接に関係する。
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