2009年10月21日水曜日

プラセボはなぜ効くのか?サイエンスの最新論文

Science 16 October 2009:
Vol. 326. no. 5951, p. 404
DOI: 10.1126/science.1180142

Brevia

Direct Evidence for Spinal Cord Involvement in Placebo Analgesia

Falk Eippert,1,* Jürgen Finsterbusch,1 Ulrike Bingel,2 Christian Büchel1

Placebo analgesia is a prime example of the impact that psychological factors have on pain perception. We used functional magnetic resonance imaging of the human spinal cord to test the hypothesis that placebo analgesia results in a reduction of nociceptive processing in the spinal cord. In line with behavioral data that show decreased pain responses under placebo, pain-related activity in the spinal cord is strongly reduced under placebo. These results provide direct evidence for spinal inhibition as one mechanism of placebo analgesia and highlight that psychological factors can act on the earliest stages of pain processing in the central nervous system.

プラセボは偽薬であり、純粋薬理学的には全く効果が期待できないにも関わらず、実際の臨床現場ではしばしば劇的な効果が得られることが知られている。ボクがよく使っており、助けられているものの一つは「蒸留水」である。なぜかこの季節には「慢性膵炎の急性増悪」の患者が多い。今も2人入院している。このうちの1人は入院日の腹痛がひどく、一晩に5回もペンタジン(合成麻薬類似痛み止め)を使った。昔のボクならペンタ中毒(これは非常に多いと一般には信じられている)だと判断し、絶対使わなかったものだが、最近考えを変えた。結構集中的に使うことが多くなった。このような患者の中には決してペンタ中毒ではない人がたしかにいることに気が付いたからだ。

さて、初日はそれでも良いが日が経つにつれ、さすがにペンタジンを連用することははばかられる。そんなとき「蒸留水」を筋注すると、嘘みたいに良く効く人がいる。Sさんもそんな1人であり、うめき冷や汗をかきつつ「殺してくれ!」と絞り出すような声で「あの薬を注射してくれ・・・」という時に「蒸留水」を筋注すると10分もしないうちに、けろっと良くなってしまう。プラセボは「臨床薬理学」的には充分効果があるのだ。蒸留水は筋注するとかなり痛む(のだそうだ)。この痛みはペンタ注の痛みによく似ているという。ボクを初めとして医者は皆「精神薬理」的に効いている(その実態は実は良く理解していない)のだと了解していたはずであるが、このサイエンスの論文ではその効果が実は脊髄レベルでブロックされていることを示した(ようである、例によってアブストラクトしか読めない)。これは大脳レベルから下位の神経系レベルへの働きかけであり、下位レベルでMRIで診た場合確かに機能が抑制されていることを示しているのだろう。

ヒトのからだの成り立ちのなんと精妙で面白いことか・・・・。こんな研究よく思いついて「サイエンス」レベルまでまとめ上げたものだ。感心する。

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