乳癌の諸問題:トリプルネガティブやbasal cell likeのことについて
小生が問題点だと考えること。
1)マイクロアレイデータすなわち包括的遺伝子発現データをもとに分類されたbasal cell likeという概念がいつのまにか、免疫抗体法による病理組織分類に置き換えられてしまう「悪い流れ」になりつつあること。
2)家族性や遺伝性でのみ問題になるBRAC2遺伝子の寄与度が極めて低いことを再認識すべきであること。
3)トリプルネガティブというのはER PgR Her2の3レセプターがいずれも陰性の乳癌であるが、これはあくまでこれら2つのホルモンレセプターとgrowth factorレセプターが陰性であることを示すにすぎないという認識を厳密に守ることが大切である。これを敷衍してbasal cell likeと同等に考えることはできない。このあたりは厳密に。
4) basal cell likeはアレイ発現データからしか分類できないということを多くのヒトは知らない。
5)basal cell likeを免疫組織化学で分類する試みがあることは知っているし、髙コストのアレイに代わる方法を探索することは必須であることもまた認めざろうえないが、しかしbasal cell like=ER(-),PgR(-),CK5・・・・という公式は全くのナンセンス。この辺りにコンセンサスは全くない。研究としてはあってもいいが、免染代用分類を臨床に導入するのはナンセンスであるというのが小生の意見である。ボクはオランダのマイクロアレイ解析は非常に高く評価するが、病理学者があたかも病理組織学的に「basal cell like」と表現するのには全く賛成できない。乳癌学会の規約にはいまだに全くbasal cell likeなんて表現やトリプルネガティブなんて言葉は登場しないのだ。
5)病理学者はbasal cell likeを免疫組織化学で分類する試みをいい加減あきらめたらどうであろうか?なぜなら、数万種類の発現遺伝子データを用いたクラスター解析で初めて出てきた分類であるこの「basal cell like」が単なる免染の組み合わせで代用できるとはとても思えないからだ。
basal cell likeの中にはER(+)のものもあるのだよ・・・というのは事実なのだけど、これを奇異に感ずるヒトがいるのである。分子分類と形態あるいは免染分類をいい加減に混同してきたツケが出ているのだが、多くのヒトはこの混乱の由縁に気が付いていない・・・これは大問題である。
なんどもいう。basal cell likeを使いたいならマイクロアレイのデータを持っておいで・・・ということだ。免染は受け付けませんということ。
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