2014年2月12日水曜日

ついにRamsay Hunt症候群がやってきた

小生は帯状疱疹を入院で見る機会が比較的多いと思う。このあたりの開業の先生、皮膚科の先生は通院が難しい方々をどんどん我が社にお送りくださるから。この5年でも100例くらいは入院例を診ているはずだ。100例も診るといろんな変わった帯状疱疹に遭遇するが、角膜潰瘍になった患者、右の陰唇の内側にだけ発疹がある(らしく)退院まで小生には見せてくれなかった患者殿(看護婦には診てもらい確認はしている)、顔面がお岩さんのようになった方、尿閉のような症状で現れた患者殿など印象に残る。

一番困るのは急性期以降の神経痛であるが、これが入院時の疱疹のひどさに必ずしも比例しない(方もいる)。NSAIDsは効かないといわれているが、NSAIDしか効かない人もまたいるのである。リリカが著効するヒトもいれば、あまりパットしない人もいる。

さてさて、100例帯状疱疹をみると一例くらいの頻度でハント症候群をみることになるという。そんな患者が先日やってきたのだ。ついにRamsay Hunt症候群がやってきたのだった。

この人の主訴は「左耳を中心とする痛み発作」であった。頭痛や発熱や嘔気などない。外見上はまったく皮疹・疱疹がないのだが、喉の奥深くと外耳道の奥深くに最終的に疱疹がでてくるまで、診断には困ってしまった。

「左側頭を下にして寝ることができない」「赤ん坊の声が左耳でやたらと響く」という症状がそのうち出てくる。このころ近医の耳鼻科で喉を診てもらい典型的な疱疹が出ているので当院入院加療でアシクロビルを点滴処方開始した。

ハントかもしれないなあ〜とは思ったが、顔面神経麻痺は認めない。と思っていたら眩暈が出現。さすがにヤバイと思い、耳鼻科の専門外来で精密検査をしてもらった(この頃には小生にも診ることのできる外耳道口の疱疹がやっと顔をだしてきた。それ以外の疱疹は顔面・頭部に全くでてこないのだ)。耳鼻科専門医の診断はハント症候群であった。

それ以降入院中は「顔面神経麻痺の診断基準」↓というのを、 毎日訊いていた。残念なことに左の聴力低下が認められたが、それ以外の顔面神経麻痺は認めず、めまい前庭神経麻痺は入院前半をピークに収まりを見せた。

退院後、外来で3週間たつが、外耳道内を綿棒で掃除すると(軟膏を塗るため)トリガー的に電撃痛がしていたようだが、それも軽快してきたそうだ。枕も可能になった。眩暈は急激な頭位変換の際に出現するくらいだという。

一般にはラムゼイ・ハント症候群の顔面神経麻痺的予後は良くないことになっているので、今後が更に心配ではあるが、でも 耳鼻科的には「まあ軽快すると思いますよ」のお言葉をもらえるくらいにはなっている。


不真面目な学生であった小生が「ラムゼイ・ハント症候群」のことを覚えているのは、当時大好きだったジャズのラムゼイ・ルイスと名前が同じだったからである。最近ではラムゼイ(ラムジー)という名前が省かれて主としてハント症候群というのが寂しいなあ、ハントさんはいいけど、ラムゼイさんが可哀想ではないかと思っていたら、これは小生のとんでもない早とちり。ラムゼイ・ハントとは二人の名前ではなく、一人の人間の名字と名前なんですって。だからハントさんで充分なのだという。


さてさて、やはり怖い病気でなのだ、ハント症候群。耳の奥底や喉の奥底も診察を欠かさないようにしましょう、皆様。





合計麻痺スコアーが38点以上で正常、8点未満で完全麻痺と判断する

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