今年も年初に当たって思うところを述べたいのだが、いつも考えている以上のことはなかなか思いつかない。新しいことはなにも考えつかない。そこで、ここ数年職業について考えていることを述べてみたい。
小生は少なくとも子供の時代までは、(職業に関して)今のパラダイムが続いていて欲しいと願ってきた。でも職業について今のパラダイムが続くのは無理かなあとも思い始めている。小生生まれてから、世の移り変わりについて行けないと感じたことはこれまで一度たりともないのだが、最近やや不安を感じている。その不安をいくつか箇条書きにしてみよう。
- 職業の淘汰:昨年のお正月に東大の人工知能が話題になったとき、20年たつときっといらなくなる職業がいくつかあるとして「公認会計士」が筆頭にあげられていた。東大の新井紀子さんの記事である。
- ここで、すでに1980年台にタイピストや電話交換手という職業が消失したことを思い起こそう。
- 今年の正月3日のNHK特集は状況の切迫化が「弁護士」に及んでいることに触れていた。今のニューヨークの弁護士の多くは「人工知能」に使われる存在であり、極めて優秀なほんの一部の弁護士のみが生き延びられて、残りの大多数は失業する可能性が高いという切羽詰まった状況を伝えていた。これには驚いたのだ。今の「人工知能」は余りに優秀であるとのこと。少し前までは「人工知能」が見つけてきた過去の判例を人間弁護士が使えるかどうか判断していたのだが、今では使えるかどうかは「人工知能」が判断するんですって。普通の弁護士よりは余程判断が上手になってきたらしく、並みの弁護士は失業を覚悟しなくてはいけないとのことだ。ぞっとする話である。
- 近頃危ない職業はなんだろう?旅行会社などは風前のともしびであろう。電子機器開発職?学校の先生?建築設計?農業?漁業?農業や漁業はしばらくは安泰のような気がする。でも他の仕事は?
- これに関しては昨今話題の論文があるのを知った。2013年にオックスフォードから出た『雇用の未来—コンピューター化によって仕事は失われるのか』。この論文では702種類の職業がコンピュータ化される可能性を論じている。もっぱら日本のマスコミでは「消える職業」が話題になってるが、72ページあるこの論文の最後の最後にある表は「生き残る可能性の高い職業」がリストされている。
- その表によると内科医や外科医はかなりの割合で生き残れそうである。
- それでも診断に関しては5年で「人工知能」が人並みになるような気がしてならぬ。「人工知能」の判断材料である「電子カルテ」「DPC」「レセプト」は我が国中に急速に蔓延している。新年号の「週間医学界新聞」によるとDPCが年間900万件弱、レセプトは年間18億件、すでにネット上に蓄積されたレセプトデータは83億5000万件分と膨大である。さらには臨床データベースである「NCD」は外科手術症例だけで全国4000余の病院から総計414万症例が蓄積されている。
- このデータを駆使できるのは実は「人工知能 大先生」だけかもしれぬ。日本はこの領域でダントツ世界の先端を行っている。基本的な治療モダリティーや診断技術が全国津々浦々まで平均的であるからだ。基本的に多くの医師は真面目だから、データの質が比較的高そうである。なにしろ人工知能に必要なものは「症状」「検査結果」「経過」「治療内容」「結果」の相関だけであり、今の人工知能には、従来の医学生が学んだ論理的・診断学的アルゴリズムは一切不要であるというのが常識であるから、この5項目が現れたデータベースを渉猟すれば、独自の診断が可能なアルゴリズムを紡ぎ出す可能性が高い。日本の基本的データが信頼できる質の高いものであり、そのデータは瞬く間に膨大になっている。ここ数年で我が国から面白い診断プログラムが出てくるような気がしてならぬ。
- そうなったら面白いと思う。診断に費やす時間がへること。および治療に専念できる環境というのは、医師ー患者双方にとってハッピーな状況であろうから。
- 一方、次世代の子供達はどうなるんだろうとも思うわけだ。就職をひかえた子供達を前にして、親の意見やお薦めが全く通用しない職業世界が、もうそこに迫ってきている(公認会計士や弁護士はお薦めだよと、従来ほどには言えない世界。)どんな職業が一生続けて行けそうか、全く想像ができない世界の到来は直ぐそこにある。とても憂鬱でストレスフルな状況である。
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