2015年10月24日土曜日

繰り返す背部の激痛:日本医事新報とNEJM

デ・ジャブ・・・とはちと異なるが、またまたそれに似たお話。

「反復性の胸背部痛発作」 がキーワードである。

本日忙しい外来がやっと終わり医局で昼ごはんを食べながら、テーブルの上に置いてあった最新の「医事新報」を何気なく見やったところ、なにか「カチッ」とスイッチが入ったのだった。


読んでいた記事(千葉大学医学部附属病院 総合診療部  生坂政臣ほか)は「繰り返す背部の激痛」であり下には内視鏡の食道像がある。白血球が11,000であり好酸球6%とある。「研修医の診断は胸椎椎間板ヘルニア」であり、生坂先生らの正解は次ページに載っているはずである。

「カチッ」とスイッチが入ったのは前日読んでいたNEJMの最新号にEosinophilic Esophagitisの小論が載っていたのを思い出したからだ。読んだわけではない。見出しに掲載されていて、まあ読むほどのことはないだろうと思いそのままにしていたのだが、翌日今度は「医事新報」で似たような症例解説である。

それで次のページの解答は100%「好酸球性食道炎」に違いないと思った。論説を読んでいないから、これは勉強の成果ではないのだが、ほぼ確信にちかいものがある。こんなタイミングで小生の眼前に現れるならほぼ正解のはずだと思っただけだ。






















で解答は 「好酸球性食道炎」であった。

一方の Eosinophilic Esophagitisの記事はこちら









Review Article

Eosinophilic Esophagitis

Glenn T. Furuta, M.D., and David A. Katzka, M.D.
N Engl J Med 2015; 373:1640-1648 October 22, 2015

必ずしも「喘息様の発作性の繰り返す胸背部痛」という症状が前面に出てくる紹介ではないけれど、子供に多いことなどより広範な視点からこの病気を説明してくれる。

これは「この病気を勉強しときなさいよ」という天啓なのだと思う。

「反復性の胸背部痛発作でステロイドがよく効く」 がキーワードである。


2015年10月18日日曜日

考えさせられる症例: NEJMのイメージ



NEJMから考えさせられる症例を一例。













見ての通り右の眼部に青あざを認める女性である。小生の周りでは割りとよくみる病態の一つである。小生が初診で見たとすれば、視力や神経学的所見と、何よりもCTでの詳細な評価をしたあと1度は眼科に紹介する。ほとんどの方は眼科的に追加の治療がいることはなく、当方に戻ってくる。そんな方は外来・入院ともに比較的多い。

だからこんな写真をNEJMイメージであらためて見るとちょっと驚くのである。「何があるの・・・?」


ほほ~う、と唸ってしまう。眼窩周辺の静脈血栓が背後に控えていて、さらにその背後に骨洞の炎症(まあ蓄膿症みたいなものだろう)があることが遠因というのだから示唆に富む症例である。このMRIの静脈血栓は私にはとても読めない。蓄膿はわかったけど病態と直接関係しているとは普通思わないよな。

であるからこの方を掻爬を始めとする外科的治療に持って行ったことが、小生にはかなり斬新に思えるのである。これが「当たり前の医療」であれば、小生正直勉強不足を恥じるものである。

ザルツブルグからの極めて示唆に富む症例報告でした。

Slaven Pikija, M.D.
Johannes S. Mutzenbach, M.D.
Paracelsus Medical University Salzburg, Salzburg, Austria
 


A 71-year-old woman presented with 5 days of right retroauricular pain that radiated to the retrobulbar area, with accompanying putrid nasal discharge, body chills, double vision, and swelling of the right eye. Physical examination revealed right ptosis, chemosis, a visual acuity of 20/32, limited eye movements in all directions, and hypoesthesia in the ophthalmic branch of the trigeminal nerve (Panels A and B). Contrast-enhanced magnetic resonance imaging showed a partially occlusive thrombus in the right superior ophthalmic vein (Panel C), cavernous sinus (Panel D), inferior petrosal sinus (Panel E), and internal jugular vein (Panel F) (white arrows). Moreover, there was pus in the right sphenoid sinus (red arrow in Panel D). The blood cultures and sinus aspiration material grew Enterobacter cloacae complex. The patient had no obvious predisposing factors for acute sinusitis and was not immunocompromised. She was treated with surgical débridement, antibiotics, and anticoagulation and recovered completely. Sinus infection can spread through direct extension or travel from mucosal veins through a valveless system of diploic, cerebral, and emissary veins to venous sinuses, the latter being the most plausible cause in the present case.


2015年10月17日土曜日

デ・ジャブ:「クリムゾン・キングの宮殿」


これはキング・クリムゾンの最初のアルバムである。僕にとってはにくいアルバムであった。中学生であった小生が週に一回は訪れていたレコード屋にいきなり現れたのがこのLPだったのだが、タイトルにつけられたタグが

「ビートルズのアビー・ロードを抜いてチャート一位になったキング・クリムゾンのファースト・アルバム・・・」

というものだったからだ。ビートルズの中ではアビー・ロードがとりわけ好きで、同じ頃売りだされたレット・イット・ビーをなんとなく敬遠していた小生だったので、そのアルバムを抜くなんて、というのが正直な反応であった。

で聴いてみたが、一緒にいた4人の友人(というか少年バンド仲間)がいずれも衝撃を受けたのである。これが僕らがビートルズを卒業しプログレッシブ・ロック(と言われていたもの)に転向するきっかけになったアルバムであった。すぐに2枚のLPが発売された。かなり入れ込んだからか、いまでもスキゾ、墓碑銘(epitaph)、トカゲ(lizard) 、目覚め(wake: In the wake of Poseidon)という英単語は彼らのアルバムから覚えたと思っている。これらの言葉を見聞きするとかれらのアルバム・ジャケットを思い出す。





これが「ポセイドンのめざめ」


 

これが「リザード」である 


まあこの2枚はどうでもいいようなアルバムだったけどね・・・











今朝タワーレコードから届いたメールがこれだ。こういうデ・ジャブ(なぜデ・ジャブか・・・、前回の投稿を見てください。NEJMの写真)は大好きである。

でも14, 000円はないだろう。そこまでの価値を見出すヒトがまだいるのだろうか?





2015年10月13日火曜日

NEJM イメージ:久しぶりに日本(愛知県 江南厚生病院)から・・・














Images in Clinical Medicine
N Engl J Med 2015; 373:1457 
October 8, 2015

Oral Maxillary Exostosis 

Shoichiro Kitajima, D.D.S., Ph.D., and Akio Yasui, D.D.S., Ph.D.

A 73-year-old woman presented with mouth dryness and tongue soreness. The oral cavity of the patient was dry, and Candida albicans was detected on culture. On examination of the upper jaw, firm protrusions of the alveolar bone were noted. Oral exostosis, a benign overgrowth of bone, was diagnosed. In this patient, oral exostosis had been present since childhood without any disturbance in her daily life and was an incidental finding. Her presenting symptoms were caused by a fungal infection and improved with treatment.



外骨症といい外骨腫とは若干異なるようである。外骨症となるとほぼ口腔内に左右対称に突出する骨ということになるようで、歯科口腔外科以外ではみることはほとんどなさそうである。私達が初めて見たら(あるいは相談されたら)、答えに窮する可能性大であるが、左右対称というのはこの病態を思い出すヒントになるかもしれない。通常治療の対象とはならないそうである。

江南厚生病院 口腔外科
愛知県江南市高屋町大松原137

http://www.jaaikosei.or.jp/konan/

北島正一朗 (江南厚生病院 口腔外科)
安井昭夫(江南厚生病院 口腔外科)



2015年10月12日月曜日

シカゴ・マラソンで福士4位・ゴーマン美智子さんの訃報

さて本日は山陰出雲で駅伝があるようだ。小生の住む街ではあまり天気も良くないので久しぶりにテレビで観戦をしようかと思う。朝新聞をみると2つの記事に気がついた。シカゴマラソンとゴーマン美智子さんの記事である。

まずゴーマン美智子さんであるが、往年のマラソンファンにとっては鬼太鼓座の小幡キヌ子とともに、レジェンドであった。海外から活躍はおぼろげに聞こえてくるが、何しろ海外在住だけにほとんど記録以外の情報が入ってこない伝説の人であった。70年台にニューヨークマラソンができた頃優勝し非常に目立つ女性ランナーであった。彼女の輝かしい経歴を引用する。

73年に初挑戦したマラソンで非公認ながら2時間46分36秒の世界記録
74年のボストン・マラソンで初優勝
76年ニューヨークシティーでは2時間39分11秒の自己ベストをマーク
77年にはボストン、ニューヨークシティーの両マラソンで優勝。
79年の第1回東京国際女子マラソンには44歳で出場し、2時間54分9秒で16位。

9月19日に80歳で亡くなられたそうだ。ご冥福を祈ります。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

さてシカゴであるが福士加代子が2時間24分25秒で4位入賞だ。35kまでは6人で先頭を争っていたようだが、最後にスパートされている。ただし40km以降順位を上げているのでまだまだ福士には期待ができそうだ。好きなランナーだけに期待したい。

Fukushi, Kayoko (JPN)










SplitTimeDiffmin/mile
05K  00:16:34  16:34 05:20
10K   00:33:05  16:31   05:19
15K  00:49:42  16:37 05:21
20K  01:06:39  16:57    05:28
HALF  01:10:27  03:48   05:35
25K  01:24:01  13:34   05:36
30K  01:41:20  17:19   05:35
35K  01:58:45   17:25   05:37
40K  02:16:32  17:47   05:44
Finish  02:24:25  07:53   05:48


一方男子の優勝はChumba, Dickson(KEN)であるが2時間9分25秒とシカゴにしては異例の低レベルである。下のラップを見て欲しいがここまで極端なnegative splitも珍しい。










SplitTime  Diff  min/mile
05K 00:15:31  15:31  05:00
10K  00:30:46  15:15  04:55
15K 00:46:00  15:14  04:55
20K 01:01:46  15:46  05:05
HALF 01:05:13  03:27  05:05
25K 01:17:24  12:11  05:02
30K 01:33:16  15:52  05:07
35K 01:47:52  14:36  04:42
40K 02:02:43  14:51  04:47
Finish 02:09:25  06:42  04:55























































2015年10月11日日曜日

2015年日本癌学会観戦記

いつも書くことであるが、研究者として現役の頃よりよほど真面目に学会に出るようになった。もちろん学会に出席できる回数が極端に減ったことが大きく、一回の学会で出来るだけたくさんのことを知りたいからだ。3日間朝から夕方までほとんどどこかの会場にいた。昼はランチョン・セミナーを聴いた。自分がこの年齢でこれだけ真面目になれることが信じられない思いだ。driving forceは未知のものへの好奇心である。流行りの言葉で言うと「知の地平の拡大」とでもいおうか。とにかく面白かった。これに尽きる。

今回は名古屋であり74回の癌学会である。初めて参加したのが43回なのでもう30年以上になる。

学会に参加すると勉強になる。今回はできるだけ多くがんゲノムシークエンスの発表を聞こうと頑張ってみた。発表の中には聞かなきゃ良かったと思うものも多かったが、ためになるものも多かった。ためになる発表の多くは大学発の発表であった。一方諸がんセンターから発表された研究は???であるというのが小生の印象である。このセンターというのは複数の施設である。相当な研究費を使っているだろうに、世界と戦っていないのが情けない。あるいは目的がよく見えない。なかにはあまりに未熟なデータで恥ずかしくないのかという発表もあった。全部ではもちろんない。でも発表前にセンター内部で「恥ずかしいから止めておけ」という声が出なかったのか・・・そんな発表につきあわせられたのでたまらなかった。 5年後で良いから、きちっと落とし前をつけてほしい。小生は今回発表した発表者(発表施設)の今後5年の経過をきちっとフォローしていくつもりだ。いい加減なレベルで終わらせるわけにはいかない。
 

小生が今回の学会で面白かった話題は一細胞シークエンスである。ようやく話ができるレベルになってきているのがわかった。初日のランチョンセミナーでは近畿の西尾先生からcfDNAシークエンスの現状を聴いた。次いで午後のセッションで10数題のゲノムシークエンスの話を聞いたがあまりのデータの多さに15分程度の時間ではとてもその全貌をつかむことは難しいと感じた。そのような中で札幌医大病理の鳥越教授から子宮内膜癌が肉腫様変化を示す症例における一細胞シークエンス解析があったがこれはとても面白かった。病理はこんな素晴らしく面白いデータを、形態情報に戻す努力を(困難であっても)しなくてはいけない。それが21世紀の病理学だと思うのだ。

たくさんの報告を聞いてこの手のシークエンス情報発表の弱点だとは思ったことは、実験手技・精度がどれくらい担保されているのが今ひとつわからないことである。多くの発表でシークエンス深度が数百から1000を超えると発言していたが、小生にはこんな深度を必要とする研究が果たして信用できるのだろうかと逆に思ってしまうのだ。木を見て森を見ていないのではないだろうか?それとも深度を深めなくてはいけない、よほどの理由があるのだろうか?

sequence depthといえば、ほんの数年前までエクソームで30回〜、ゲノムでせいぜい100回というのが相場ではなかったのではないか? 

融合遺伝子についても現状がつかめてありがたかった。大規模シークエンスをやっても消化器癌ではやはりまれな変異であることが確認できた。rucurrentな融合イベントは少ない。更に多くは肉腫・白血病である。よほど特異的な抗癌剤(ALKomaのような)が出現したら、再度その遺伝子に限って融合イベントを徹底的に調べることは必要だろうが、今後包括的検索が必要であるとは思えなくなったのが小生の認識である。そろそろオシマイで良いかもしれない。

最終日のランチョンセミナーで東大の秋光先生が話した「トランスクリプトームデータの再解釈」はなかなか示唆に富むお話であった。miRNAやlong non-coding RNAの話に加えて3' UTRの長さのheterogeneityの話がなかなか面白かった。癌でpoly A tailの長さが異なる(したがって安定性に欠ける)mRNAが作られているという内容であった。

この他北大腫瘍病理の津田さんが発表した「再発膠芽腫の獲得変異の同定」という発表も面白かった。治療後の再発腫瘍のゲノム解析であるが、この中にmutually exclusiveという再発腫瘍が含まれていたので驚いた。初発腫瘍にあるドライバー変異を一つも持たない再発腫瘍というのである。これには本当に驚いた。癌ゲノムの時系列・進化学も幅が広い。癌腫によってかなり様相が異なるようなのだ。癌ゲノムの時系列・進化学は今後ますます大事なフィールドになると思う。

最終日の午後に小生がぶっ飛んだのは「がんのシステム的理解を飛躍させる挑戦的課題」という東大ゲノムの宮野先生のコーナーであった。二人目ののスピーカー医科歯科の岡田さんの「ビッグデータと疾患ゲノム」が聞きたくて参入したのだが、最初のスピーカーLuonan Chenさんの話にぐいぐい引きこまれてしまった。病気の発症前診断の話であるが、Omicsでいえば発症後の特徴的変化と全くことなる変化が発症前に起こっているという話だ。この魅力的なテーゼを「マウスの肺障害と肺炎」「肝臓がんの発症」「インフルエンザの発症」「糖尿病」という4つの疾患に分けて語ってくれた。必ずしもわかりやすい英語ではなかったが、僕の周りでも食い入るように魅入られている聴衆が多かった。こんな聴衆をみるのは久しぶりだ。もちろん僕も一語も聞き漏らすまいと必死である。一人25分の枠だったのに40分くらい喋らせた宮野教授も偉かった。中国おそるべしである。あっぱれであった。

これは実に驚異的なテーマではないだろうか?今後の発展には注意深く見守っていこうと思った次第である。 

というわけで最終日に飛行機の時間さえなければまだまだ聞いていたかった今年の癌学会であった。学会は面白い。テーマを探しに行ってもあまりろくなことはないが、意外な出会いがたまらない。Luonan Chenって一体何者なのだろう?ぶっ飛ぶわ、この人。


(追記)Luonan ChenさんのいうDNB(Dynamic Network Biomarkers)というのはこんなやつだ。






論文の一つはこれ