2020年5月4日月曜日

コロナ抗体検査は新たな視点をもたらすか?

抗体検査についてレポートが増えてきている。さきがけは先月下旬のカリフォルニアの報道であろう。あるいはニューヨークのデータ(14%)であろう。

最近神戸市立医療センター中央市民病院から陽性率(3.3%)が報告された。

PCRで陽性とされる患者数に比べ、遥かに多くのヒトが「既に感染を済ませている」可能性を示唆するものである。

最初に述べておくが、この抗体検査については、2つの基礎データを満たしているものだけが信用できると思うのだが、あいにく報告は論文形式ではないのでそこまで明らかにされているのがないのが残念である。

この2つとは

  1. PCRの結果との整合性である。少なくともPCR陽性の患者については、その病期のいずれかで抗体検査が陽性であってほしい。99.9%程度の陽性率が担保されていてほしいということである。

  2. もう一つは特異度である。これは簡単である。日赤の血液サンプルを過去に追っていけば良い。2019年4月の10000例を検査すれば良い。ここでも99.9%の正解率が欲しいところである。(理屈から言えば昨年4月に新型コロナは「なかった」はずであるから1例も陽性がでるはずがないのだが、そこは「検査」である。検査に100%はないのである。テクニカルエラー、人為的エラー、サンプルエラーはいくらでもありうる)

この2つを満たしていることを明らかにできている検査成績なら信用できるのだが、あいにくコロナ抗体検査は若干混乱している。

いくつかの報告を見ていこう。

(1)カリフォルニア(2020/4/17)
  Stanfordの研究は論文化されている(preprintで公表)。
  • 我々は、サンタクララ郡から採取したコミュニティサンプルにおけるSARS-CoV-2に対する抗体の血清有病率を測定した。
  • 方法 :2020年4月3~4日に、ラテラルフローイムノアッセイを用いて郡民を対象にSARS-CoV-2に対する抗体の検査を行った。参加者は、人口統計学的および地理的特徴によって郡内に住む個人のサンプルを対象としたFacebook広告を使用して募集した。我々は、郡内の郵便番号、性別、および人種/民族分布に一致するようにサンプルを調整するために重み付けを推定した。SARS-CoV-2に対する抗体の有病率は、重み付けされたものと重み付けされていないものの両方が報告されている。また、製造業者のデータ、規制当局への提出物、および独立した評価から得られた16の独立したサンプルからのデータを組み合わせることで、検査の性能特性を調整している。特異性については13検体(3,324検体)、感度については3検体(157検体)を用いた。
  • 結果 :SARS-CoV-2に対する抗体の陽性率は1.5%(正確な二項式95CI 1.1~2.0%)であった。検査成績特異度は99.5%(95CI 99.2-99.7%),感度は82.8%(95CI 76.0-88.4%)であった.検査成績特性で調整した非加重有病率は1.2%(95CI 0.7-1.8%)であった。サンタクララ郡の人口統計で重み付けを行った後の有病率は2.8%(95CI 1.3-4.7%)であり、ブートストラップを用いて信頼区間を推定した。これらの有病率の推定値から,4月上旬までにサンタクララ郡で54,000人(95CI 25,000~91,000人,95CI 14,000~35,000人,非加重有病率で23,000人)が感染しており,調査時に確認された約1,000人の有病率を大きく上回っていたことが示唆された.
  • 結論 :サンタクララ郡におけるSARS-CoV-2抗体の推定有病率から,確定症例数よりも感染が広がっている可能性が示唆された.有病率の推定精度を向上させるためには、さらなる調査が必要である。局所的な人口有病率推定値は、疫学的予測と死亡率予測の較正に使用されるべきである。

(2)ニューヨーク(2020/4/23)
  • NY州内で3千人に実施した結果、13・9%が陽性だったという暫定結果を公表した。感染が深刻なNY市の陽性率は特に高く、21・2%だった。単純計算すると州内では約270万人、市内では約180万人が感染を経験したことになり、これまで確認された感染者の10倍超にあたる可能性がある。
国内では予備検討として

(3)九州大学(第一内科)(2020/4/24)感染症学会HPに論文化あり
  • 中国の抗体キットを用いたPCR陽性10例検討
  • IgMは一切検出できなかった(キットは大丈夫?)IgGは10例中8例に陰性状態から陽転を認めている。陽転は発症9日以内では20%だが、13日以降で100%(8/8)になる
(4)埼玉県立循環器・呼吸器病センター(2020/4/28)感染症学会HPに論文化あり

  • クラボウのimmunochromato法でPCR陽性の24例検討
  • IgMもIgGも全例陽性化した。
  • IgGもIgMも症状発現から7日までは陰性である。
  • そのころから陽転化しはじめ中央値は12日でIgGもIgMも陽転している。
  • IgGの方がむしろ早く陽性化するのは興味深い
(5)神戸市立医療センター中央市民病院(2020/5/2)神戸新聞の記事
  • 論文ではないので方法論は一切不明
  • 外来患者3000例(検体が取られた時期は4月上旬まで・・との記述のみ)
  • 陽性率は3.3%である
  • 神戸市民41,000人が既に感染済みとの外挿が可能とのこと
いずれにしても、東京や札幌や大阪や福岡で抗体3000例検査を月ごとにやっていけば、この病気の新たな側面が見えてきそうである。不顕性感染の拡大スピードがみたいな。

死亡者を最低レベルに抑え、不顕性感染が一定のスピードで広がっているのであれば、この国の方針は間違っていないことになる。

しかしながら評価が独り歩きしないよう、これらの抗体検査の妥当性が充分担保されることを期待する。なんといっても陽性率はまだまだ低い(検査が正確であったとしてもだ)。私達はまだまだ安心できる状況では決してない。

更に言えば、なによりも大事なことは「新型コロナ」での抗体陽性が臨床的に再感染阻止の指標になるかどうか我々はいまだ知らない、ということだ。臨床的評価は検査の妥当性とともにしっかりと行われるべきである。


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