この世の中には肝移植しか治療手段のない疾患が数多くある。ある種の劇症肝炎、先天性代謝疾患、慢性肝炎関連疾患等々である。一方、肝組織は人体のなかでは「ある条件下」では極めて再生力の高い臓器であることが知られている。再生力については幹細胞の関与が想定されるわけだが、小生、不勉強にて肝幹細胞の詳細を把握していない。現状どうなのだろう?いくつかの
論文(例えば京大上本外科の報告)は知られているようだが。
Hans Cleversは一貫してLgr5細胞を研究しているが、今回の論文では肝組織におけるLgr5細胞について報告している。
CleversのLgr5最初期の報告では、肝組織におけるLgr5陽性細胞はほとんどないというものだった。2007年にCleversの報告を目の前で聞いたときの驚きの一つであったから良く覚えている。今回の報告でも成体マウス肝組織にはLgr5陽性細胞は認められない。ダメージを与えるとどうだろう? よく使われる急性肝障害モデルである四塩化炭素投与マウスでみるとあまり多いとはいえないが誘導されてくる。ここから単細胞分離してシャーレ上で培養すると、Hepatic
organoid構造が生じ、アルブミンを初めとする種々の生理物質が合成されている。
Nature 494,247–250 (14 February 2013)
Received10 September 2011
Accepted07 December 2012
Published online27 January 2013
Nature | Letter
In vitro expansion of single Lgr5+ liver stem cells induced by Wnt-driven regeneration
細胞:Wntが促進する再生によって誘導される単一のLgr5 + 肝幹細胞の
in vitro での増殖
Meritxell Huch,Craig
Dorrell, et al and Toshiro Sato, Nobuo
Sasaki, et al and, Hans Clevers
Hubrecht Institute for Developmental Biology and Stem Cell Research, Uppsalalaan 8, 3584CT Utrecht & University Medical Centre Utrecht, Netherlands
Wntの標的遺伝子である Lgr5 (leucine-rich-repeat-containing
G-protein-coupled receptor 5)は、小腸や結腸、胃および毛包などの、Wntが自己複製を促進する組織において活発に分裂している幹細胞のマーカーである。三次元培養系で、単一のLgr5
+ 幹細胞の長期間クローン性増殖により、その起源となる上皮構造の多くの特徴を保持した、移植可能なオルガノイド(出芽嚢胞)を得ることができる。培地の重要な成分は、WntアゴニストのRSPO1(最近発見されたLGR5のリガンド)である。本論文では、
Lgr5-lacZ は健康な成体マウスの肝臓には発現していないが、損傷により、Wntシグナル伝達がロバストに活性化し、小さなLgr5-LacZ
+ 細胞が胆管近傍に出現することを示す。新しい Lgr5-IRES-creERT2 ノックインマウスでの細胞系譜追跡実験により、損傷で誘導されるLgr5
+ 細胞から in vivo で肝細胞および胆管を生じることがわかった。
損傷を受けたマウス肝臓に由来する単一のLgr5 + 細胞は、数か月にわたってRspo1を基盤とする培地でオルガノイドとしてクローン性増殖を行うことができる。このようなクローン性オルガノイドは、 in vitro での分化誘導が可能で、また、 Fah −/− マウスへの移植により機能的な肝細胞にすることができる。
これらの知見は、活発に自己複製する組織のLgr5 + 幹細胞についてのこれまでの観察は、自発的な増殖率が低い組織で損傷によって誘導される幹細胞にも拡大できることを示している。
損傷を受けたマウス肝臓に由来する単一のLgr5 + 細胞は、数か月にわたってRspo1を基盤とする培地でオルガノイドとしてクローン性増殖を行うことができる。このようなクローン性オルガノイドは、 in vitro での分化誘導が可能で、また、 Fah −/− マウスへの移植により機能的な肝細胞にすることができる。
これらの知見は、活発に自己複製する組織のLgr5 + 幹細胞についてのこれまでの観察は、自発的な増殖率が低い組織で損傷によって誘導される幹細胞にも拡大できることを示している。
The Wnt target gene Lgr5 (leucine-rich-repeat-containing G-protein-coupled receptor 5) marks actively dividing stem cells in Wnt-driven, self-renewing tissues such as small intestine and colon1, stomach2 and hair follicles3. A three-dimensional culture system allows long-term clonal expansion of single Lgr5+ stem cells into transplantable organoids (budding cysts) that retain many characteristics of the original epithelial architecture2, 4, 5. A crucial component of the culture medium is the Wnt agonist RSPO16, the recently discovered ligand of LGR57, 8. Here we show that Lgr5-lacZ is not expressed in healthy adult liver, however, small Lgr5-LacZ+ cells appear near bile ducts upon damage, coinciding with robust activation of Wnt signalling. As shown by mouse lineage tracing using a new Lgr5-IRES-creERT2 knock-in allele, damage-induced Lgr5+ cells generate hepatocytes and bile ducts in vivo. Single Lgr5+ cells from damaged mouse liver can be clonally expanded as organoids in Rspo1-based culture medium over several months. Such clonal organoids can be induced to differentiate in vitro and to generate functional hepatocytes upon transplantation into Fah−/− mice. These findings indicate that previous observations concerning Lgr5+ stem cells in actively self-renewing tissues can also be extended to damage-induced stem cells in a tissue with a low rate of spontaneous proliferation.
最後に遺伝性高チロシン血症1型のマウスモデルへの細胞治療を行っている。これはヒトでは肝移植の対象となる疾患である。わずかながら生存期間が延びている。
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