2010年4月29日木曜日
乳癌の諸問題:トリプルネガティブやbasal cell likeのこと
小生が問題点だと考えること。
1)マイクロアレイデータすなわち包括的遺伝子発現データをもとに分類されたbasal cell likeという概念がいつのまにか、免疫抗体法による病理組織分類に置き換えられてしまう「悪い流れ」になりつつあること。
2)家族性や遺伝性でのみ問題になるBRAC2遺伝子の寄与度が極めて低いことを再認識すべきであること。
3)トリプルネガティブというのはER PgR Her2の3レセプターがいずれも陰性の乳癌であるが、これはあくまでこれら2つのホルモンレセプターとgrowth factorレセプターが陰性であることを示すにすぎないという認識を厳密に守ることが大切である。これを敷衍してbasal cell likeと同等に考えることはできない。このあたりは厳密に。
4) basal cell likeはアレイ発現データからしか分類できないということを多くのヒトは知らない。
5)basal cell likeを免疫組織化学で分類する試みがあることは知っているし、髙コストのアレイに代わる方法を探索することは必須であることもまた認めざろうえないが、しかしbasal cell like=ER(-),PgR(-),CK5・・・・という公式は全くのナンセンス。この辺りにコンセンサスは全くない。研究としてはあってもいいが、免染代用分類を臨床に導入するのはナンセンスであるというのが小生の意見である。ボクはオランダのマイクロアレイ解析は非常に高く評価するが、病理学者があたかも病理組織学的に「basal cell like」と表現するのには全く賛成できない。乳癌学会の規約にはいまだに全くbasal cell likeなんて表現やトリプルネガティブなんて言葉は登場しないのだ。
5)病理学者はbasal cell likeを免疫組織化学で分類する試みをいい加減あきらめたらどうであろうか?なぜなら、数万種類の発現遺伝子データを用いたクラスター解析で初めて出てきた分類であるこの「basal cell like」が単なる免染の組み合わせで代用できるとはとても思えないからだ。
basal cell likeの中にはER(+)のものもあるのだよ・・・というのは事実なのだけど、これを奇異に感ずるヒトがいるのである。分子分類と形態あるいは免染分類をいい加減に混同してきたツケが出ているのだが、多くのヒトはこの混乱の由縁に気が付いていない・・・これは大問題である。
なんどもいう。basal cell likeを使いたいならマイクロアレイのデータを持っておいで・・・ということだ。免染は受け付けませんということ。
nature: 双子の遺伝子配列の差:多発性硬化症の発症機序
Genome, epigenome and RNA sequences of monozygotic twins discordant for multiple sclerosis
Sergio E. Baranzini,Joann Mudge,Jennifer C. van Velkinburgh,Pouya Khankhanian, Irina Khrebtukova, Neil A. Miller, Lu Zhang, Andrew D. Farmer, Callum J. Bell, Ryan W. Kim, Gregory D. May, Jimmy E. Woodward, Stacy J. Caillier, Joseph P. McElroy, Refujia Gomez, Marcelo J. Pando, Leonda E. Clendenen, Elena E. Ganusova, Faye D. Schilkey, Thiruvarangan Ramaraj, Omar A. Khan, Jim J. Huntley, Shujun Luo, Pui-yan Kwok, Thomas D. Wu
Nature Volume:464,Pages: 1351–1356
Date published:
(29 April 2010)
Received 25 July 2009
Accepted 11 March 2010
一卵性、すなわち「同一な」双生児は、ヒトの疾患に遺伝や環境が及ぼす相対的寄与を解析するうえで、広く研究されてきた。多発性硬化症(MS)は、脱髄性 自己免疫疾患であり、若年者の神経変性および身体障害でよくみられる原因となっているが、一卵性双生児に疾患不一致例が存在することから、その病因におけ る環境の重要性が指摘されている。しかし、一卵性双生児間での遺伝的相違およびエピジェネティックな相違が明らかにされ、先天的なものと後天的なものの影 響を明確にするうえで広く受け入れられている実験モデルに異議を唱えるものとなっている。
今回我々は、一卵性双生児MS不一致例1組のゲノム塩基配列、並 びに一卵性双生児MS不一致例3組のCD4 + リンパ球のメッセンジャーRNA、トランスクリプトームおよびエピゲノム塩基配列について報告する。約360万個の一塩基多型(SNP)にも、約20万個 の挿入欠失多型にも、双生児間で再現性のある差異は認められなかった。さらに、この3組の双生児の同胞間におけるHLAハプロタイプ、MSへの感受性が確 認されているSNP、コピー数多型、mRNAおよびゲノムSNPおよび挿入欠失遺伝子型、CD4 + T細胞の約19,000個の遺伝子の発現でも、再現性のある差異は認められなかった。約200万個のCpGジヌクレオチドのメチル化では、この3組の双生 児の同胞間で検出された差異はわずかに2〜176で、非血縁者のT細胞間におけるメチル化の差異が約800、組織間、または正常組織とがん組織との間の差 異が数千であったのとは対照的である。
今回の研究は、一卵性双生児における塩基配列変異を初めて系統的に推定する試みであったが、疾患不一致を説明付ける 遺伝的差異、エピジェネティックあるいはトランスクリプトームにおける差異の証拠は見いだせなかった。本研究は、我々の知るかぎりにおいて、双生児の女性 自己免疫疾患患者を対象としたヒトゲノム塩基配列に関する最初の報告である。
2010年4月21日水曜日
手術保険点数:08年版から10年版の変更
噴切よりも通常の部分切除が高くなっている。この55800点を基準に考えたい。さて、胃全摘と超低位前方切除が奇しくも69840点で同じ価格と評価された。
K655 胃切除術
2 悪性腫瘍手術 42,600点→55,870点
K655—4 噴門側胃切除術
2 悪性腫瘍切除術 55,100点:不変
K657 胃全摘術
2 悪性腫瘍手術 58,300点→69,840点
K653 内視鏡的胃、十二指腸ポリープ・粘膜切除術
1 早期悪性腫瘍粘膜切除術 4,970点 :不変
2 早期悪性腫瘍粘膜下層剥離術 11,000点 →14,130点
3 早期悪性腫瘍ポリープ切除術 4,790点 :不変
4 その他のポリープ・粘膜切除術 4,000点:不変
K664 胃瘻造設術(経皮的内視鏡下胃瘻造設術を含む) 9,460点:不変
K672—2 腹腔鏡下胆嚢摘出術 20,300点:不変
K682—2 経皮的胆管ドレナージ 10,800点:不変
K716 小腸切除術
2 悪性腫瘍手術 28,000点→29,930点
K719 結腸切除術
3 全切除、亜全切除又は悪性腫瘍手術 32,700点:不変
K726 人工肛門造設術 6,590点:不変
K740 直腸切除・切断術
1 切除術 27,000点 →40,500点
2 低位前方切除術 44,200点 →66,300点
3 超低位前方切除術(経肛門的結腸嚢肛門吻合によるもの) 50,100点 →69,840点
4 切断術 50,100点→75,150点
K743 痔核手術(脱肛を含む)
1 硬化療法 1,380点 :不変
2 硬化療法(四段階注射法によるもの) 2,800点→4,220点
3 結紮術、焼灼術、血栓摘出術 1,390点 :不変
4 根治手術 5,360点:不変
5 PPH 6,390点→11,260点
2010年4月16日金曜日
Nature最新号の症例報告:炎症性乳癌
さて、Kazazianの症例報告はというと血友病の17才の少年がいるのだが、この両親は発病もしていなければ、実は当該遺伝子ゲノムに創が全くないのであった。業界用語を使わせていただければde novoなのだ。このde novoはどうして起こったか?母親の卵子形成時にX染色体上にある、血液凝固因子の第VIII因子のなかにトランスポゾンが飛び込んで第VIII因子ゲノムを破壊したというのが答えなのだけど、これを解明する過程が推理小説のようで実にわくわくしたものだ。マクリントック先生はトウモロコシでトランズポゾンを見ていたが、ヒトでトランスポゾンが動いたことを証明した記念すべき第一例(だから症例報告でNature)これ以降KazazianはLINE反復配列の第一人者となるわけである。出てくる論文がいずれも面白く、ほとんどNatureクラスである。
Article
Nature 464, 999-1005 (15 April 2010) | doi:10.1038/nature08989; Received 24 November 2009; Accepted 11 March 2010
遺伝子: 基底細胞様乳がんの転移性腫瘍および異種移植腫瘍におけ るゲノムの変化. (Title in English; ).
Li Ding1,2,10, Matthew J. Ellis3,4,10, Shunqiang Li3, David E. Larson1, Ken Chen1, John W. Wallis1,2, Christopher C. Harris1, Michael D. McLellan1, Robert S. Fulton1,2, Lucinda L. Fulton1,2, Rachel M. Abbott1, Jeremy Hoog3, David J. Dooling1,2, Daniel C. Koboldt1, Heather Schmidt1, Joelle Kalicki1, Qunyuan Zhang2,5, Lei Chen1, Ling Lin1, Michael C. Wendl1,2, Joshua F. McMichael1, Vincent J. Magrini1,2, Lisa Cook1, Sean D. McGrath1, Tammi L. Vickery1, Elizabeth Appelbaum1, Katherine DeSchryver3, Sherri Davies3, Therese Guintoli3, Li Lin3, Robert Crowder3, Yu Tao6, Jacqueline E. Snider3, Scott M. Smith1, Adam F. Dukes1, Gabriel E. Sanderson1, Craig S. Pohl1, Kim D. Delehaunty1, Catrina C. Fronick1, Kimberley A. Pape1, Jerry S. Reed1, Jody S. Robinson1, Jennifer S. Hodges1, William Schierding1, Nathan D. Dees1, Dong Shen1, Devin P. Locke1, Madeline E. Wiechert1, James M. Eldred1, Josh B. Peck1, Benjamin J. Oberkfell1, Justin T. Lolofie1, Feiyu Du1, Amy E. Hawkins1, Michelle D. O’Laughlin1, Kelly E. Bernard1, Mark Cunningham1, Glendoria Elliott1, Mark D. Mason1, Dominic M. Thompson Jr7, Jennifer L. Ivanovich7, Paul J. Goodfellow7, Charles M. Perou8, George M. Weinstock1,2, Rebecca Aft7, Mark Watson9, Timothy J. Ley1,2,3,4, Richard K. Wilson1,2,4 & Elaine R. Mardis1,2,4
- The Genome Center at Washington University,
- Department of Genetics,
- Department of Medicine,
- Siteman Cancer Center,
- Division of Statistical Genomics,
- Division of Biostatistics,
- Department of Surgery and the Young Women’s Breast Cancer Program,
- Department of Pathology and Immunology, Washington University School of Medicine, St Louis, Missouri 63108, USA
- Department of Genetics, Lineberger Cancer Center, University of North Carolina, Chapel Hill, North Carolina 27599, USA
- These authors contributed equally to this work.
Correspondence to: Richard K. Wilson1,2,4 Correspondence and requests for materials should be addressed to R.K.W.
Abstract
大量並行DNAシーケンシングの登場により、これまでにできなかったゲノム全体のスクリーニングで、腫瘍進行に関連する遺伝的変化を調べることが可能に なった。本論文では、アフリカ系アメリカ人の基底細胞型乳がん患者由来のDNAサンプル4種、すなわち末梢血、原発腫瘍、脳転移巣、および原発腫瘍由来の 異種移植腫瘍のゲノム解析について報告する。脳転移巣には2つの de novo 変異と、原発腫瘍には存在しない大きな欠失1つが含まれ、また共通する20個の変異の割合がかなり高くなっていた。異種移植腫瘍ではすべての原発腫瘍の変 異が保持され、転移巣に類似した変異に富むパターンを示した。 CTNNA1 を含む2つの重複した大きな欠失は、3種の腫瘍サンプルすべてに存在した。原発腫瘍と比較した場合の、転移巣と異種移植腫瘍の変異頻度の違いおよび構造的 変化のパターンは、原発腫瘍内の少数の細胞集団から二次腫瘍が生じる可能性を示している。
前置きが長くなったが今週号のNatureに乳癌のゲノム解析の症例報告がワシントン大学から出た。超高速シークエンスで正常リンパ球ゲノム、原発巣、脳転移巣、それとご丁寧にこの患者乳癌由来の培養株化細胞以上4つの詳細なゲノム変異を点突然変異、欠失、挿入、逆位、増幅、転座全てみているのが凄い。
結論の一つは(ホントだとしたら)かなり衝撃的である。腫瘍細胞巣は遺伝学的にかなりヘテロな集団からなっているということである。ある遺伝子に注目すると突然変異がある集団とない集団の混成部隊。増殖速度などを考えるとどうしてそこまでヘテロでいられるのかと疑問になる。
結論のまた一つはこの症例では50個の主要な遺伝子変異が見つかったが、転移巣と細胞株にユニークな変異はたった2つ。あとは共通しているということ。では転移巣と原発巣の違いは・・・?これが面白いのだが、後日!
2010年4月13日火曜日
ウインドウズ7を買おうと思うのだが・・・
ウインドウズはややこしい。
Windows 7 Ultimate¥31,949
Windows 7 Professional¥30,499
Windows 7 Home Premium¥20,379
あなたに最適なエディションを診断
というコーナーがあるが、どんなに欲を出さずにトライしたところでWindows 7 Ultimateが選ばれてしまい、この診断コーナーは全く役に立たない。小生にとってホームプレミアムで充分のはずであるが、プロとアルティメイトがやはり気になるではないか・・・この点がマックで悩まなくて良いOSの選択であるが、ウインドウズはなかなか大変である。更にプロとアルティメイトの1500円の違いというのがわかりづらい。実際ホームとこの二つは1万円も違うが、この差額だけでスノウレパードが3セット買えてしまう。ホームプレミアム単体はスノウレパードの9倍の値段である。どうあがいてもスノーレパードには勝てないOSのくせにだ。
と書いて調べているうちにホームプレミアムを買えば良いことがわかったので購入してみよう。なにせこのOSがないとJW-CADというソフトが動かないのだ。このソフトに馴染む必要が出てきたのであります。しょうがないのでウインドウズ環境を我が家のiMACに構築することにした。マックに転向して21年、ウインドウズがなくても全く困らなかった小生であるが、しょうがないなあ。