松岡正剛の手がけた遊び(仕事)に若い頃から縁がある。学生の頃好きな本屋に立派な天井までの書棚があり、ここには朝日出版社の「エピステーメー」や「工作舎」の「遊」などがズラッと並んでいた。学部の友人達の本棚にも必ず何冊かは並んでいたよな「エピステーメー」。どれくらいわかっていたかは今となっては疑問であるが、おフランスの新進気鋭の思想や最先端の物理、最先端の分子生物学(当時の分子生物学は今と違って、めちゃくちゃとんがっていたから、充分哲学できていたのだ)をテーマに毎月のように面白い(面白そうな)本をだしていた。その「工作舎」を率いていたのが松岡正剛だった。僕自身は「エピステーメー」やその後のペヨトル工房の「夜想」「銀星倶楽部」「WAVE」(いずれも月刊誌か季刊誌)を好んでいたので「遊」というのはほとんど購入したことがない。ないが松岡正剛というヒトは気になるヒトだった。
2000年ころからネット上で松岡正剛の書評サイト「千夜千冊」が始まったが、2~3年経ちこのページに気が付いたことが、僕にとって第二の松岡正剛ブームであった。毎晩毎晩書評が掲載されたのだが、毎晩にしてその量が半端なものではない。多くの書評は小生には難解であったものの、中には琴線に触れるものがある。これが楽しみで時々思い出しては読んでいたし、実は今も続いているのでネットしている。最新の書評は1475回目であり「橋下大阪市長がナンボのものか知らないが、役人の刺青を得意満面で禁止した。」という文章で始まるなかなか刺激的な一文である。
さてこの「千夜千冊」で取り上げられた本が取りそろった夢のような本屋さんが東京駅のそばにあるのだ。2009年(平成21年)10月に丸善丸の内本店に登場した松丸本舗という本屋さんのコーナーである。僕はこの10年くらい「読書会」のようなものに所属しているが、そこには現役の女子大生も参加している。都内の学校に通っているこの娘に松丸本舗のことを教えたら、喜んだこと喜んだこと。松丸本舗はこの手の読書子には好まれる話題である。
しばらく丸善には行っていないなあと思い、久しぶりに東京駅の丸善に先日行ってみた。松丸本舗は丸善の一コーナーというには巨大である。知っている本があちら、こちらにあるのだが、その周辺には、無数の未知の本が並んでいる。この配列が蠱惑的で、目移りさせることを目的として存在する本屋なのだとそのうちわかってくる。立ち読みが楽しい本屋である。あるいは衝撃的な、運命的な出会いがあるかもしれない・・・と思わせる仕組みだな。
30分くらいは良かったのだが、そのうち店員なのだろうか博物館でいうと学芸員みたいな女性が話しかけてくる。なかなか面白かったので、書棚を駆け巡りながら、いろんな本を教えて貰う。まあ松岡正剛と編集工学のことを熱く熱く語ってくれるのだが、だんだん面倒になってきたので、話題を変えたかったので、「これも何かの縁だから、ご推薦の本を言ってみませんか?何冊でも買いますよ」と言ってみた。
この遊びは面白かったよ。「最近何読んでます、一冊教えて」というので、丁度バックに入っていた「忘れられた日本人(宮本常一)」がきっかけにはよいだろうと出したら、あちらに行き、こちらに行き、結局3冊買わされましたな。折口信夫の「死者の書」と松岡正剛の「花鳥風月の科学 (中公文庫)」、それに何を血迷われたのでしょう「ポーの一族 I 萩尾望都」なるマンガである。少女マンガを小生に買わせるかしらんねー。「この3冊はお互いに無縁ではないですよ」と判じ物のようなことを言う。けったいな経験をしたなあ。
このうちの一冊が、結構凄かった。折口信夫の「死者の書」である。書名は知っていたが、これを読むのは初めてである。古代日本の霊性、黄泉の国の物語であるが、ふと思い出したのはジェームス・ティプイトリーJr.の短編SF「愛はさだめ、さだめは死」であった。この連想、今思うにそう的が外れていないと思う。
「学芸員殿」が気に入ったので、また本を仕入れに行こう。
0 件のコメント:
コメントを投稿