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小生は現在民間病院で外科の仕事をしている。大学を離れて10年になる。学問の進展には興味が尽きないし、実際基礎から臨床へ技術や薬品が移転・導入される過程をみるのはこの上ない喜びである。勉強を続けないとこの商売(私はこの商売という言葉が大好きである)はやっていけない。勉強が止まっている人は基本的に信用しない。したくない。家族を預けたくない。自分も診てほしくない。自分が学生だった頃の知見のままで現在眼の前に現れる患者を診察・診療するほどの不実(不義ではないね、修正前は不義と書いていた)があろうかと思っている。金をとるのであるなら勉強しなさい。プロとして商売をするのであるなら、きっちり準備してほしい。
小生のような立場でアカデミアに触れている実感を忘れないためにできることは学会に出席すること、本を読むこと、論文を読むことであるが、実はもう一つ変わった手段がある。査読である。
大学を離れて10年になるが、ある機縁で雑誌の査読業務をほそぼそと続けている。自分が査読者(reviewer)になることはもう少なくなったが、これは年に5回くらい。今の私はreviewerの差配をやることが主な業務である。これはreviewerをするよりは楽であるが、それでも雑誌のレベルをより引き上げなさいという通奏低音はいつも聞かされるから、長く続けるとそれなりの責任は感じるものである。ゆっくりでもIFが上がっていくと嬉しいのである。アクセプト率というのがあり、査読差配師(associate editor)にはこれを守ることが求められる。これがなかなか難しい。
近年査読を引き受けてくれる人が減ってきている。小生が査読差配師として関与する雑誌は国内が2冊、国外が3冊程度(いずれも英文誌)であるがいずれの雑誌でも同様の傾向がある。
最近思うことを列挙してみたい。
- 査読者に指名されたらすぐに反応してほしいものである。一日以内に「decline」の返事が来るといっそスガスガしい。すぐに別の人を選べる。できないならそれで良い。やりたくないならすぐに「decline」の返事をおくれなもし。
- 2週間メールを読んでいない人がいる。病気なのか、海外出張中なのか、牢屋に入っているのか?
- 「了解メール」をくれたにもかかわらず、結局査読してくれない人は今も昔もいる。ただ最近この比率が徐々に高まっている。無益な2週間(〜3週間場合によっては2月)で投稿者を待たせる。
- 査読を断る人が多くなったのはどうしてなのか?忙しいのか?論文への信頼感が減っているのか?自分が論文を書いたときのことを忘れてしまったのか?
- こないだ臨床医としてとても尊敬する後輩に「査読」のことを聞いてみたら「大学でも査読は話題になるのですが、一円の得にもならない、時間の無駄、キャリアとして評価されない、と避ける人が多いです」と言っていた。大学がこれではアカデミアは滅びてしまう。
- このような環境下で小生のような「査読差配師」は苦労が耐えないが、それでも続けているのは「勉強になるから」である。学問そのものの進歩ということもある。学問の枠組みの変化もある(特にATGC以降のコホート検証のありかたはガラッと論文のスタイルを変えてしまった)
- もうひとつのモチベーション。全国にはまだまだ数多くのプロがいるのである。査読をきちんとしてくれる人たち。本当に感謝に耐えない。このようなコミュニティの周縁に自分がいることが楽しいのである。そして半年に一人くらい新人で有能な人を発掘するのが楽しみである。先月そんな人達のリストを作ってみたのだ。仕事が早くてきちんと仕事をしてくれる人。仕事は遅いけど刻限ギリギリにしっかりとした、とても重たい査読をしてくれるひと。きちんとはしていないが、とにかく最低限の仕事ならしてくれる人。最低限の仕事ではあるが、とにかく早い人。外科で研究をやるひと。癌の研究をやるひとの「査読者ファイル」である。過去20年ほどの経験から練り上げたファイルであるが、とても世の中には出せないな。出した瞬間、この人達に査読が集中し、この珠玉の研究者たちは査読をやめてしまうに違いない。だから大事にしたい。小生が査読を続けるのは、こんな人達とのつながりが楽しいからである。
- このリストに上掲したのは外国人92名と国内40名である。膵癌ならこの5人。化学療法ならこの10人というふうにしている。なによりも大事なのは過去数年の査読履歴である。年間最低5篇以上の査読をきちんとしている人たちを選んでいる。
- 最後に将来の希望をひとつ。AIでプレ審査をしてほしいなあ。(1)ダブル・パブリケーションの発見。(2)本来参考文献に挙げるべき論文が落ちていることの発見(3)あると便利なのは著者の過去の論文との齟齬を発見するシステム(4)学内倫理審査番号の矛盾:異なる論文で同じ研究番号が使われている場合(5)統計の矛盾を発見するシステム
年末恒例の外科当番を今日もやっている。
朝から腹痛、嘔吐、下痢、めまいとなかなか忙しい。その中から・・・・
(1)Finkelstein陽性の左母指球痛
- 一昨日から左の「腱鞘炎」で全く痛くて指が動かせないという男子45歳。典型的な腱鞘炎でFinkelstein陽性ですが、ややこしいのは一ヶ月前から右の同部の痛みがあるということ。右は今は落ち着いている。遊走性なのか、たまたまなのか・・・今日は鎮痛薬と湿布でお引取りいただいた。
- 狭窄性腱鞘炎 (ドゥ・ケルバン de Quervain病)
- というブログを残したことがあるが、あれに似ている。
(2)ミトコンドリア脳筋症のかたの上気道炎
- 22歳女子。昨晩からの発熱と嘔吐ということで来院。下痢はないが、この方問題なのはてんかん薬を飲んでいるのだ。1週間前に大発作が5年ぶりにあったとのことで、小生も緊張する。よくよく聞くと生まれつきの病気があるという。付添のお母さんによると「ミトコ・・・なんとかという病気です」という。
- 小生が「ミトコンドリア脳筋症ですか?」というと「それです!、それそれ」
- 脱水は結構強いので点滴をしながら様子をみた。検血では炎症所見は強くない。発熱嘔吐であるがnuchaは異常なさそう。枕も嫌がらないし。肺炎・尿路も心配なさそうだという結果が出るころ、御本人の症状はずいぶん落ち着いた。そこで抗てんかん薬をのんでもらったが、吐かない。そこまで確認してご自宅にお引取りいただいた。
- 最近では「ミトコンドリア脳筋症」については国立精神・神経医療研究センターがパンフレットを出している。今朝一生懸命読んでみた。頑張って書いているがやはり難しい。バリバリの医学生でついていけるかどうか?ミトコンドリアの病気はヘテロプラスミーがあるので理解するのが大変である。
(3)左下顎骨骨折
- 昨晩1時半ころラーメン屋で殴られたんですって。よく喋る35歳。診ると左の頬部がやや腫れぼったい。歯が一本折れている。触診でかなり痛がる。顎関節は問題なさそうだが下顎骨は問題だ。「折れてるかもしれないな」というと「ありえない!」との返事。郷里に帰る飛行機の時間が迫っている。「どうする?」と聞くと「診断だけでもつけてください」というのでCTを撮った。頭蓋内や眼窩に骨折や血腫はないが、予想通り左下顎が完全に折れており若干偏移を認めた。こんなときはCTに限る。CDに焼いて手紙を付けて「大きな病院、口腔外科のあるところに行くように」と案内した。
- 35歳男子は下記③の場所が折れていた。
(4)ゾフルーザ 対 タミフル
- インフルエンザもぼちぼち出だしている今日このごろである。今年の話題はやはりゾフルーザである。2錠一回のめば終わりという簡便さは売りである。一方価格は問題である。
- 価格比較表を見せながら患者と相談している自分はなんだか情けないのである。車のディーラーみたいだ。(車屋さんごめん!)
- 「二種類ありましてね、簡便さが売りの新しいゾフルーザは、え〜と③割負担ですと2800円。一方従来のタミルフルは900円ですが朝晩2回5日間のまなければいけません」
- 「患者さんよかったですね、78kgですからね。80kg越えていると倍量ですから5000円行っちゃうんですよ。本当にラッキーだ!」
- などなど本当にいやだ。
- 患者からは「一回でほんとに効くんですか?、なんか頼りないなあ」と敢えてタミフルを選ぶ方もいたり・・・
- 価格はかなり重要のようで、意外にタミフル健闘しているなというのが実感である。