Endogenous human microRNAs that suppress breast cancer metastasis
Nature 451, 147-152 (10 January 2008)
Sohail F. Tavazoie, Claudio Alarcón, Thordur Oskarsson, David Padua, Qiongqing Wang, Paula D. Bos, William L. Gerald & Joan MassaguéA search for general regulators of cancer metastasis has yielded a set of microRNAs for which expression is specifically lost as human breast cancer cells develop metastatic potential. Here we show that restoring the expression of these microRNAs in malignant cells suppresses lung and bone metastasis by human cancer cells in vivo. Of these microRNAs, miR-126 restoration reduces overall tumour growth and proliferation, whereas miR-335 inhibits metastatic cell invasion. miR-335 regulates a set of genes whose collective expression in a large cohort of human tumours is associated with risk of distal metastasis. miR-335 suppresses metastasis and migration through targeting of the progenitor cell transcription factor SOX4 and extracellular matrix component tenascin C. Expression of miR-126 and miR-335 is lost in the majority of primary breast tumours from patients who relapse, and the loss of expression of either microRNA is associated with poor distal metastasis-free survival. miR-335 and miR-126 are thus identified as metastasis suppressor microRNAs in human breast cancer.
がん転移の一般的な調節因子の探索によって、ヒト乳がん細胞に転移能が生じるとともに特異的に発現がなくなる一群のマイクロRNAがみつかった。今回我々は、悪性腫瘍細胞でこれらのマイクロRNAの発現を回復させると、 in vivo でヒトがん細胞の肺および骨への転移が抑えられることを示す。これらのマイクロRNAの中で、miR-126の発現を回復させると腫瘍の成長と増殖が全般 的に抑えられるのに対し、miR-335の場合には転移細胞の浸潤が抑制される。miR-335は一群の遺伝子を制御しており、ヒト腫瘍の大規模なコホー トではこの遺伝子群の集団発現と遠隔転移のリスクが関連している。miR-335は、前駆細胞の転写因子 SOX4と細胞外マトリックス成分であるテネイシンCを標的として作用することにより、転移と移動を抑制する。再発患者由来の原発乳がん 細胞の大半でmiR-126とmiR-335の発現がなくなっており、これらのマイクロRNAどちらかの発現がない場合には、遠隔転移のない生存例はわず かである。したがってmiR-335とmiR-126は、ヒト乳がんで転移を抑制するマイクロRNAであることが明らかになった。(以上はNature Japanの訳)
癌転移を制御する因子を探索する中で、ヒト乳癌が転移すると特異的に発現が消失するマイクロRNAの一群が見つかった。乳癌細胞でこれらのマイクロRNA発現を回復させるとin vivoで肺や骨転移が抑えられることを我々は本論文で示す。miR-126は腫瘍の成長と増殖を全般的に抑え、miR-335は転移細胞の浸潤を抑制する。大規模(遺伝子発現)コホート研究によれば、miR-335が制御する一群の遺伝子は遠隔転移のリスクと相関する。更にmiR-335は幹細胞前駆細胞転写因子(Yamanaka Factor)であるSOX4と細胞外マトリックス成分であるテネイシンCをターゲットとしており、結果、転移・浸潤を抑制する。再発乳癌患者の大多数ではmiR-126とmiR-335の発現がなくなっており、そのどちらかの発現消失があると遠隔転移をおこさないままでいられる生存期間が短くなる。以上の結果、miR-126とmiR-335はヒト乳癌における転移抑制マイクロRNAであることが明らかとなった。metastasis-free survivalの訳は正確にやらないと。「遠隔転移のない生存例はわず か」はいいすぎ。
なお2006年の「Molecular Cancer」にはbreast とprostateにおけるmir-126の論文が出ている
Optimized high-throughput microRNA expression profiling provides novel biomarker assessment of clinical prostate and breast cancer biopsies
Molecular Cancer 2006, 5:24
Epigenetic silencing of tumour suppressor gene p15 by its antisense RNA
正常な細胞の増殖を抑制するがん抑制遺伝子(TSG)は、細胞ががん化すると頻繁にエピジェネティックなサイレンシングを受ける。DNAメチル化は一般に TSGサイレンシングと関係があるとされているが、がん化に際してのDNAメチル化開始および認識機構の変異については不明である。遺伝子制御機構の興味 深い可能性として、マイクロRNA、Piwiと相互作用するRNA、アンチセンスRNAなど、広範囲に及ぶ非コードRNAが挙げられる。広範なセンス-ア ンチセンス転写物は、哺乳類細胞では系統的に同定されており、網羅的なトランスクリプトーム解析から、最大70%の転写物にアンチセンス配列対が存在し、 アンチセンスRNAの変動によりセンス遺伝子の発現が変化しうることが示されている。例えば、1人の患者で、自然発生ではなく遺伝子変異によって誘導され たアンチセンス転写物により、遺伝子サイレンシングとDNAメチル化が生じ、その結果サラセミアが発症することが示されている。本論文で我々は、多くの TSGの近くにはアンチセンスRNAが存在することを明らかにし、白血病と関係するとされているサイクリン依存性キナーゼ阻害因子 p15 のサイレンシングにおける1つのRNAの役割に注目した。白血病では p15 のアンチセンス( p15AS )と p15 のセンス発現の間に逆相関がみられることがわかった。 p15AS の発現物質は、ヘテロクロマチン形成によってシスおよびトランスで p15 のサイレンシングを誘導するが、DNAメチル化は誘導しないことがわかった。 p15AS の発現停止後もサイレンシングは持続したが、メチル化阻害剤とヘテロクロマチン阻害剤はこの過程を元に戻した。 p15AS に誘導されるサイレンシングは、ダイサーとは無関係であった。マウス胚性幹細胞における外来の p15AS の発現は、ヘテロクロマチン形成によって p15 サイレンシングを引き起こして成長を促進し、さらに胚性幹細胞の分化後にはDNAメチル化も引き起こした。以上より、自然に存在するアンチセンスRNAは、腫瘍形成時のTSGサイレンシングにおけるヘテロクロマチン形成およびDNAメチル化の引き金となる可能性がある。
このほか、iPSにおけるYamanaka Factorが2つに絞られたという例の論文が本編へ載っている。
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