ボクは台湾の「リンの鉗子」を実際に肝切除に用いていた時代に研修医をやった世代である。「FInger Fracture Method」が導入されていた時代の研修医である。CUSAがなく、術中肝エコーがなく、術中出血量の多寡よりも手術時間にこだわる時代に助手を務めた世代である。だから術後肝不全・黄疸に大変苦労した。そんな時代に苦労した助手世代が、出血量にこだわり、丁寧に止血し、凍結血漿を再評価し、新しいデバイスを積極的に導入し、なにより系統肝解剖を「再発見」し、今の肝臓外科を作り上げ、次に肝移植に乗り出し、大変な苦労の末確固たる成果をあげてきたのである。
いま肝臓専門医が減りつつあるというちょと驚く記事を見つけた。この流れはホンモノなのだね。患者さんにとっては素晴らしいことであり、日本の肝臓病学の成果なのだろう。
武蔵野赤十字の泉並木先生の記事を一部ノートしてみる。
肝臓専門医の未来は?
――では、肝臓専門医の今後は?
C型肝炎が治せる時代になったおかげで患者さんの数が減り、肝臓専門医も減りました。ただ、専門医の数が減ったせいか、私どもの病院に紹介されてくる肝臓癌の症例が減ったという実感はありません。
最近、肝臓癌で紹介されてくる方は、HCVもB型肝炎ウイルスも持っておらず、脂肪肝、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)から癌に進行した症例が多い。脂肪肝で癌になる危険性の高い人をどうやって見分けるか、肝癌への進行をどうやって防いでいくかということが大きな課題になっています。
30年たって、またスタート地点に?
現在、NASHには治療薬がありません。診断しても、せいぜいビタミンEの投与くらい。患者さんには「運動して食事制限してください」としか言えないのです。私たち肝臓専門医からすると、現在の状況は、C型肝炎が「非A非B型肝炎」と呼ばれ、原因が分からず肝庇護剤を投与していた時代に似ているんですね。30年たって、スタート地点に戻ったような感じがしています。今後、NASHの機序が解明されたり、治療薬が登場したりすれば、また状況も一気に変わってくるでしょう。