2011年7月2日土曜日

ナノポア・シークエンス技術の現状

今ある第二世代や第三世代のシークエンサーの次に来る技術としてDNAを直接読む技術の開発が盛んだ。
実際に一本のDNAをどう読んでいくのだろう?

1)電子顕微鏡的に直接読む方法
2)膜に孔を開け、その孔にDNAが通っていく際に発する電流がAGTC によって異なることを利用して読む方法

この二つが少し前から話題になっている。ーー正確には方法1)は見果てぬ夢として昔から夢見られていたーーー

ところで最近2)について講演を拝聴する機会があったがそれはとても面白いお話しであった。想像以上に具体的で、preliminaryながらデータも出始めているのに驚いた。nanopore-gatingという技術である。大阪大学の川合先生という方の講演だったが、工学系の方のお話しなのだが、生物系の私が聞いても難しくない。聴衆をそらさない飽きさせない、技術基盤のしっかりした開発現場の話であった。

分子生物学技術として日本初の機械が上手く育ち上がり、商品化されて世界で使われるようになってほしいものだ。具体的には以下のような技術である。

  1. 中心に貯水池のある円盤を想像してほしい。直径は数センチくらいか。貯水池からは外周に向かって1000本程度の溝あるいは水路が掘ってある。

  2. DNAは中心の貯水池から流れにのってこの溝をスルスルと流れいくのだ。そうめん流しを連想すると良い。最初にクシのような領域をDNAは通っていくが、このときDNAは「ほぐれる」「まっすぐに流れる」

  3. 下流にはnanopore-gatingが待っている。細い流路なのでDNAはここを通過せざるを得ないが、だいたい一個の塩基がこのゲートを通過する時間が1msec(1000分の一秒)くらいだ。これ逆に言うとこのデバイスの測定能力が、ほぼ一秒間に1000塩基ということになる。

  4. この小さな水路が1000本あるので、このデバイスの総合能力は1000x1000=一秒間に100万塩基のシークエンス能力ということになる。

  5. ヒトゲノムを30xで読みたいとする。30億x30であり900億。これを100万で割ると90000秒。25時間でヒトゲノムが読めることになる。

  6. このデバイスが1000個ある研究室は一秒間に10億塩基のシークエンス能力を持つことになる。この能力ならシークエンスだけなら900億÷10億=90秒で終了だ。また1000ドルもかからんだろうことは容易に想像できる。試薬がほとんど登場しないし、ましてや蛍光色素も不要なのだ。

  7. いずれにしてもヒト個人のゲノムシークエンスを1000ドルで可能にする技術の開発はこのナノポア・シークエンス技術抜きではちょっと考えにくいようだ。米国では国家を挙げて開発に躍起になっていると聞いた。これはその後のパーソナルメディスンに計り知れないインパクトを与える技術開発であるし、当然大もうけできる技術のはずなのだ。

  8. 日本もしっかり橋頭堡を守りたいものだ。

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