2011年3月19日土曜日

加齢黄斑変性にこだわる理由

眼科の病気なのに、外科の小生が気になっているのはなぜか? いくつかの理由がある。
  1. 最も大きな理由はVGEFに対する分子標的薬剤が標準治療(?)として使われている疾患であること
  2. さらにはなんとアプタマーが臨床応用されている疾患であること
  3. これらはいずれも眼球内に直注射投与するわけだが、この投与法も非眼科医である小生には印象的
  4. 失明といえば糖尿病性網膜症しか知らなかった小生には、もう一つの失明原因として最近とみに話題になるこの病気が気になる。自分がなるのではないかという怖れは確かにあるのだな。
  5. この病態には2つの病型がある。「滲出型」と「非滲出型」である。滲出型」というのは血管増殖型であり頻度的には「非滲出型」の2倍あるという。話題の抗VEGF抗体(アプタマー)は当然抗血管薬剤だから適応は前者滲出型」である。
  6. 今回Aluが貯まりDICERがそれを処理できないことで発症するタイプは後者「非滲出型」であり、これを萎縮型という。網膜黄斑部にはドルーゼン(なんだか懐かしい言葉)がたまりこれがgeographic atrophyとして観察されるのかな。この古典的病理所見を呈する細胞変性の原因がAlu発現異常というのだから、いきなりぶっ飛んでいるのである。
  7. 今回Aluのことを調べてみると東工大の岡田教授の教室が詳しいHPを作っておられた。この岡田教授は例の「鯨はカバにに最も近い」という報告をNatureに1997年頃報告して有名になった方である。
以下、難病情報センター:加齢黄斑変成より引用
http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/011_i.htm
欧米の研究結果
  • 人口あたりの頻度:チェサピークベイ(米国)の住人を対象にした場合、50歳以上の1.8%が加齢黄斑変性であり、米国の人口に 換算すると75歳以上では640,000人が加齢黄斑変性であると推定されている。ビーバーダム(米国)の住人を対象にした場合、人口の1.6%、75歳 以上の7.1%、ロッテルダム(オランダ)の55歳以上の住人の1.7%、85歳以上の11%、ブルーマウンテン(オーストラリア)の49歳以上の住民の 1.9%、85歳以上の18.5%が加齢黄斑変性に罹患していると報告されている。滲出型と非滲出型の比はいずれの研究でも2:1ある。性比は 1.9:1.6(ビーバーダム)、1.9:1.4(ロッテルダム)、2.4:1.9(ブルーマウンテン)と女性に多い。しかし、これらのスタディでは年齢 をマッチさせて比べると性差は有意ではない。
我が国における調査結果
  • 1998年に九州久山町の50歳以上の住民を対象におこなわれた調査では少なくとも1眼に滲出型を有する人は0.67%、萎縮型 を有する人は0.2%であり、人口に換算すると滲出型は約35万人、萎縮型は10万人になる。男女比は3:1で男性に多い。5年発症率は滲出型0.6%、 萎縮型0.3%と報告されている。2000〜2002年に舟形町に住む35歳以上の住民を対象にした検討では、加齢黄斑変性は0.5%に見られたと報告さ れた。加齢黄斑変性は滲出型は特に視力予後不良であり、社会的失明の主要疾患として来るべき高齢化社会の問題点になると予測されているので、以下滲出型に ついて述べる。
治療薬としての抗VEGF薬
 Ranibizumab
  • 2009年、わが国においてRanibizumab(Lucentis®)0.5mgが承認、販売された。RanibizumabはVEGF-Aの全ての アイソフォームを阻害できるBevacizumabの断片であり、マウス由来のヒト化モノクロナール抗体である。Ranibizumabの分子量は 48kDであり、しかもBevacizumabのアミノ酸配列を一部変更してあるため、硝子体内投与によって網膜を浸透しやすく、VEGFへの親和性は Bevacizumabよりさらに強力になっている。海外で行われたminimally classic CNVとoccult CNVを対象にした臨床研究では0.3mgと0.5mgの4週毎の硝子体内投与によって3か月後視力は改善し、12か月後0.3mgで6.5文字、 0.5mgで7.2文字、24か月後それぞれ5.4文字、6.6文字の視力の改善が維持された。また、Predominantly classic CNVを対象にして同様の方法で行われた臨床研究でも3か月後視力は改善し、12か月後0.3mgで8.5文字、0.5mgで11.3文字、24ヵ月後そ れぞれ8.1文字と10.7文字の改善が維持されている(5文字は少数視力表の約1段に相当)。わが国の同様の臨床試験では0.5mg投与開始6か月後 9.0文字、12か月後10.5文字の改善が得られた。硝子体内投与の際の眼内炎の発症は1/1200〜1/2000程度とされている。わが国の臨床治療 研究に際しては、眼内炎の発症はなく、一過性の高眼圧が認められる程度で、重篤な有害事象は報告されていない。中心窩CNVに対して、視力改善が得られた 治療法はこれまでなかったことを考えると、AMDの治療の第一選択になった。しかしRanibizumabは全てのVEGFを阻害するため正常な VEGF-Aの作用を阻害する可能性がある。脳血管障害の既往がある場合にはそれらの再発が起こりやすくなる可能性があり、riskとbenefitを考 えて投与を決める必要がある。改善された視力を維持し、なるべく安全に使用するために、一般臨床ではRanibizumabは3か月間、月1回、計3階の 投与を行い、その後は1か月に1回視力や眼底検査、OCTを行い、必要であれば再投与を行う方法がとられている。
 Pegaptanib
  • Pegaptanib(Macugen®)は2008年眼科で初めて承認、発売された抗VEGF薬である。VEGF165分子に対するアプタマーである。 アプタマーとは標的蛋白質と特異的に結合する核酸分子であり、Pegaptanibの場合にはVEGF165が標的蛋白であり、VEGF165が抗体と結 合するのを阻害する。欧米で行われた検討では6週毎の0.3mg、計9回の硝子体内投与によって54週後15文字未満の視力低下は70%であり、未治療群 に比較して有意に良好であることが示された。この成績は欧米におけるPDTの成績とほぼ同じである。わが国における0.3mgを用いて同様の方法で行われ た臨床試験では54週後15文字未満の視力低下は79%であった。本剤の欠点はVEGF121など他のVEGF-Aの活性を阻害で きないため、抗血管新生作用が弱いことである。しかし、アプタマーであるので免疫性がなく、安全性が高い。抗VEGF薬治療はCNVの活性を抑えるための 導入期と抑えたまま維持するための維持期において複数回投与が必要である。薬剤の特性を考えるとPegaptanibは維持療法に適している。また病変サ イズが小さな初期例に対する治療効果が期待できる。

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