この腹症例えば実はひどい下痢をしていたとする。それに運動障害もあるのである。
医学部の内科の試験なら感染症を想定した出題になるはずである。この運動障害はGBSというのが出題者の意図となろう。しかしこの二つの病態が初診の時点で出現しているというのは普通あまりないことではないか?・・・・・(1)
さてこの30歳の女性(下痢の話は忘れて欲しい。急性腹症症状である)であるが、外来のベッド上で泣き叫び、わめき、研修医はどうしてよいのかわからずおろおろ。さすがに上級医はその割には症状に重篤感がないことに気が付いており、昔のいい方で言えば「ヒステリー」ではないかとの印象を持っている。一旦ヒステリーと見てしまうと、あらゆる症状が嘘っぽく見えるのだが、しかし再び腹痛が強烈になり、この症状に嘘はなさそう。これはいったいなんなのだ?
- 腹部症状: 急性腹症を思わせるが、器質的異常は認めない
- 精神症状: ヒステリーを思わせる
- 神経症状: 四肢麻痺、球麻痺など
以上の3症状を呈する病態は何なのであろう? 長く臨床をやっている消化器外科の部長クラスの年代には(一般的には)辛い設問であろう。国家試験直前の医学生にはお茶の子さいさいの問題のはず。・・・・・・・・・・・・・・(2)
もって回ったいい方はもうやめよう。もとより無理があるのはわかっている。これはポルフィリアを想定した設問なのである。
さてこんなことを書いたのもNEJMの今週のイメージを見たからだ。エチブロを陰嚢にこぼした哀れな男の写真である(嘘)。
今週のNEJMイメージはセルビアからのもので、陰嚢が蛍光ピンクで光っている。皮膚に沈着したコプロプロフィリンが光っているのである。一筋縄ではいかないのはこれがポルフィリア症とは無関係の病態であること。これはCorynebacterium minutissimumというばい菌が感染した皮膚病によるラッシュであり、このばい菌の代謝産物がコプロプロフィリンと説明されている。
Images in Clinical Medicine
Coral-Red Fluorescence
Ivana Binic, M.D., Ph.D., and Aleksandar Jankovic, M.D., Ph.D.
N Engl J Med 2011; 364:e25March 31, 2011
もちろん覚えても何の足しにもならない病気だ。しかし今週号のNEJMのMedical Imageを見ながらいくつものことを思い出したのである。
- このイメージを見て実験室の暗室を思い出したのである。ゲル電気泳動後の紫外線でエチブロ(エチジウム・ブロミド)を光らせるあの過程を思い出したのである。よく似ているよな。
- ポルフィリン症は学生の頃「急性腹症」の鑑別疾患として覚えたが、一回もお目にかかったことがないこと。
- 先日我が病院の病院長ー循環器内科医ー尊敬すべきお医者様であるーこの方に、ある患者の診察をして頂いたら、カルテの欄外に小さな字で「ポルフィリア?」とあったのを見て、内科のお医者様はいつもこんな事まで想定しているのかと感心したこと。
- 東京医大の光線治療ー今もやっているのだろうか?肺癌患者にある薬を注射する。この薬は光毒性が強く、注射後は日光暴露は控えるように指示される。薬は癌部への集積性が高く(抗体とconjugeteだったかな?)その後、気管支内視鏡によるレーザー治療を受けるという案配だ。もう何十年も前の発想である。この薬剤がたしかポルフィリンと関係していたように記憶する。
- 一昨日母校の生化学の教授と本屋で偶然遭遇し、四方山話をした折りに「代謝は大事なのよ」と言われたこと。なぜかヘムの代謝を思い出した小生は異常だろうな。詳細は覚えていないがポルフィリンはヘムの代謝関連物質であったはず。
最後に・・・・・(1)について、キャンピロバクター腸炎とその後のギランバレー症候群は覚えておかなくてはいけないことだ。
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