大曲皮膚科HPより大胆に引用させていただく
Fournier壊疽ーフルニエ壊疽
- 陰茎・陰嚢に発生する壊死性筋膜炎で、糖尿病・HIV感染の増加により増加傾向にある。その他の基礎疾患は悪性腫瘍、アルコール性肝障害、慢性腎不全などの免疫不全である。感染経路は尿路・肛門周囲・皮膚からの3つに分けられ、進展様式は陰嚢・会陰部の腫脹・変色・壊死など皮膚所見の典型的症状を示すので早期に発見し治療開始出来るため比較的軽 症で済み睾丸除去を行う必要がないことが多い外攻型と、直腸癌の二次感染や肛門周囲膿瘍などから浅会陰筋膜、尿生殖隔膜を経て陰部・下腹部に拡大するため 皮膚所見に乏しく診断が遅れて重症になる内攻型に分けられる。非A群連鎖球菌・Enterococcus属などの混合感染が原因(壊死性筋膜炎Ⅰ型)のことが多い。治療は積極的なデブリードマンで睾丸摘出(16%)や陰茎切除(4%)を要する場合もある。
- 頚部壊死性筋膜炎 は、頸部ガス壊疽と呼ばれることもある深頸部のガス産生菌感染症である。歯周病、扁桃炎、喉頭蓋炎などを原発とし、深頸部に広がる解剖学的間隙に沿って感染が急速に進展する。旁咽頭間隙や顎下間隙の感染が舌骨を超えて降下すると前頸間隙から前縦隔に至る。咽頭後間隙の感染が降下すると後縦隔に至る。頸部壊死性筋膜炎が縦隔にまで拡大したものを降下性壊死性縦隔炎と呼ぶ。主な起因菌は、口腔内常在菌であるStreptococcus属、Prevotella属、バクテロイデス属である。
- 理学所見では、頸部の著しい腫脹、発赤、疼痛を認める。時に握雪感を伴うこともある。確定診断にはCT検査が重要である。 本疾患を疑ったら、頭部から胸部にかけて撮像することを勧める。頸部の軟部組織を中心に、脂肪組織の炎症像、液体貯留、散在するガス像などが見られるのが 特徴的な所見である。歯周病が原発であれば、顎下間隙、咀嚼筋間隙にガス像が集中する。咽頭が原発であれば、旁咽頭間隙、咽頭後間隙にガスが集中する。感 染の拡大に伴い、ガス像も頭側は頭蓋底や側頭筋内に、尾側は縦隔に広がる。
- 本疾患は致死率の高い感染症であり、抗菌薬の投与のみならず、早期に感染が波及 した解剖学的間隙を開放し、壊死組織を除去する外科的ドレナージ術を行うことが標準治療とされており、治療成績は良好でだが、極めて侵襲の大きいという難点があった。
- 下肢の壊死性筋膜炎では温存困難な壊死した筋膜に遭遇するが、頸部においては感染が及んだ間隙を開放しても膿汁が流出する程度で、筋膜は存在 すら認識できず、切除すべき壊死組織などもほとんどないのである。また頭蓋底に近い咽頭後間隙などは、大きな皮膚切開でも容易に到達できず、ドレーンを誘導するのが精一杯であり、到底デブリードマンなどできない。本疾患に対する外科的ドレナージは、結果的に排膿処置にすぎないのではないかと考えるようになった著者らは1998年から経皮的カテー テルドレナージ法を導入した。甲状腺レベルで感染の波及した前頸間隙を超音波ガイド下に穿刺し、感染が波及した経路を逆行して血管造影用のガイドワイヤを 進め、経皮経肝胆管ドレナージ用のカテーテルを留置している。ガイドワイヤは、解剖学的問隙に沿ってしか進まないので、臓器損傷の心配はない。縦隔炎合併例に対しては、前頸間隙を尾側に向かって穿刺することで前縦隔に、甲状腺背側の咽頭後間隙を穿刺することで後縦隔にカテーテルを留置している。留置したカテーテルは、閉鎖回路で管理し、ドレナージするのみで、洗浄は行っていない。抗菌薬は、最も検出頻度の高いStreptococcusがターゲットとなるぺニシリンGと、嫌気性菌がターゲットとなるカルバペネム系を併用している。
- これまでに40例以上の症例に対して経皮的カテーテルドレナージを行ってきた。平均3本のカテーテルを留置し、カテーテル留置期間は平均16日間であった。二次感染が少ないこと、創部からの蛋白漏出が少ないこと、侵襲が少ないことなどが寄与し、ICU滞在期間、人工呼吸管理期間の短縮につながった。これまでの死亡例は、今回取り上げた症例を含めて2例のみで、諸家の報 告よりも良好な成績である。壊死性筋膜炎という病名は、感染の首座が筋膜であるかのように想像させる。しかし頸部の筋膜とは、発生過程で生じた各器管の境 界に存在する薄い線維性の膜にすぎない。頸部壊死性筋膜炎とは、その薄膜に沿って広がる感染症であり、必ずしも外科的ドレナージ術が必要な病態ではないと考える。
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