そんななか元気のいい素敵なお年寄りも少なくない。大腸癌の術前一週間前に「せんせ、これあげるから私の代わりに行ってきて。手術なんて思ってもいなかったから予定くるっちゃったわ」といって歌舞伎のチケットをボクに渡したおばあさんは、すでに術後2年たつが元気でゴルフ、歌舞伎、麻雀と忙しそうだ。このヒトは東北の大震災で仙台の住まいがなくなり、当地に居住を移したヒトなんだけど、80越えてたった一人で新天地に移って、ちゃんとコミュニュティを作っているのだから素晴らしい。外来に来るたびに「ねえ、歌舞伎行こうよ、チケット手に入れるからさ」と誘われる。彼女がくれた歌舞伎公演には出かけましたよ。ボクにとって初めての歌舞伎体験でした。「のれん」をお土産にあげたが、周術期に枕元に飾ってあったのがほほえましい。
96歳のA先生は、とある女子大の学長を長い間勤めた方だ。彼女の日本語は素敵だ。かつての日本の標準語だった言葉を平成の29年になってもしゃべる。言葉もきれいだが、発音はもっと素敵だ。去年の暮には転んで頭頂部を傷つけ出血がひどかったのでステープラーで縫着して差し上げた。今は病院の近くの老人施設に入居中である。立ち居振る舞いがとにかくエレガントである。認知症のかけらもないこの方の記憶力は尋常ではない。それは昭和13年、あれは昭和45年前後と特に年代の記憶が羨ましい限りだ。この年になっても地元のご意見番であり選挙の前なんかになるとテレビ局はこの老人施設に取材に行くのだ。時々テレビでお見かけする。そんなひとだ。
94歳のBさんも闊達だ。90、92、94、96歳の4姉妹のリーダー格である。 92歳の妹さんが入退院を繰り返しているのでよく病院で見かけるが、会うと必ず遠くからでもおおきな声で話しかけてくる。敬虔なクリスチャンであり、背筋が伸びてかっこいい。趣味はコーラスである。歌っている曲がすごいのでとても良く覚えている。昨年のクリスマスシーズンに外来で出会ったので「『マタイ受難曲』練習してるんでしょう、今年も?」というと「あらせんせ、よく覚えててくれたわね。せんせもマタイやらない?」と返ってきた。
コーラスついでに歌曲の話題を一つ。
昨年ある方から教えてもらったのがリヒャルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」という歌曲である。たまたま探したyoutubeがこのルチア・ポップというオペラ歌手でした。シカゴ響でショルティだったし、画像も音も良いのでこの映像をupするが、この曲昨年何度聴いたことだろう。
クラシック好きの中には二種類あって器楽曲もオペラも好きな人たちがいる一方で、オペラを含む「歌」が苦手な一群というのがあるのだ。ボクは昔から後者であり、オペラやシューベルトの歌曲等々が苦手だった。
そんなボクではあるが最近では歌曲にも抵抗がない。「4つの最後の歌」にすっかりハマってしまった。この歌曲を聴くとある光景が思い浮かぶ。夕暮れ前、もうすぐたそがれの陽の光のなかにいる自分である。
4つの歌は
- 「春」 Frühling (7月20日)
- 「九月」 September (9月20日)
- 「眠りにつくとき」 Beim Schlafengehen (8月4日)
- 「夕映えの中で」 Im Abendrot (5月6日)
20分程度の歌曲ですが、これをお読みの皆様の心を打つと思います。 とても美しい曲です。
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本日トランプ大統領が就任しなにか気味の悪い時代を迎える覚悟をしなくてはいけない。
トランプ以前のあの時代が終わった、まさに終わらんとする黄昏時にふさわしい曲かもしれませんね。