バレーリュー症候群(Barre-Lieou syndrome)の症状
交通事故でむち打ち症と診断されたとき、肩や首の痛みの他に、頭痛やめまい、吐き気、耳鳴り、難聴、動悸、声がかすれる、 異常発汗、下痢などの症状が続くことがあります。 これらの症状は、頚部周辺の自律神経系のうちの交感神経系の過緊張状態や椎骨動脈の循環障害などから発生すると考えられています。
治療
代表的な治療法は神経ブロック注射です。これによって頚部周辺の交感神経の過緊張状態を緩和させます。 星状神経節ブロック(喉の辺りに針を刺します)が多いようですが、大後頭神経ブロックや腰部硬膜外ブロックなども行われます。 ブロック注射の回数は、医師や患者の症状によりまちまちです。内服薬による治療もあります。
Barre(1925年)および Lieou(1928年)等により頚椎症に伴う症状の詳細な臨床研究があいついで報告され、頚椎症などを背景に主として後頭部にみられる頭痛と、いろいろな随伴症状、すなわちめまい、耳鳴り、眼の障害などを伴うものである。頭痛のもっとも強い点は、明らかに後頭部にあって、この痛みは両側の頭頂から前頭にかけて、またしばしば眼球後部に放散する。痛みは一側性のこともあり、また両側性のこともある。また他方痛みは項から肩、ときとしては一側、あるいは両側の上肢に放散する。頭痛は頭の位置の変動、前屈姿勢、頚への過度な負荷、運動、精神的興奮、頚の冷却、生理、低気圧、風邪気味などによって引き起こされ、また増強する。またある形のものでは、痛みが顔面に放散し、三叉神経痛様の焼けるような痛さ(三叉神経痛との鑑別)、あるいは顔面の違和感、知覚障害、顔面の血管運動障害、すなわち同じ側の顔面のほてりや発汗、眼の充血、紅潮のみられるものがある。
めまいの多くは立ちくらみ、浮動感で、地震のような揺れる感じ、歩行、起立不安定状態を招き、回転感は稀である。しばしば一側又は両側性耳鳴りを伴う(頭鳴)。またときとして耳閉感、軽度の聴力障害(多くは両側性)を伴うこともあり、あるいは耳の痛みを感ずる。眼の障害は疲れ眼になりやすく、眼の奥や周りに痛みが強く(緑内障との鑑別)、眼がぼんやり、眼のショボショボ感などがある。また角膜の知覚鈍麻をみることがある。
Barre 症候群の経過中に、咽頭の症状を呈することがあり、多くの場合は咽の違和感で、重大なものではないが、ノドのつかえる感じや、ときとして咽頭の灼熱感、痛み、さらには頚のほうへの放散痛をきたすことがある。また異物感、舌基部の痛み、場合によっては咽頭の知覚鈍麻、咽頭反射の減弱などもみられることがある。喉頭の障害としては、声の低下、嗄声 aphonie の急速な出現、あるいは憎悪などがみられる。”むち打ち症候群”、頚の前屈姿勢を強いられる趣味や業務などに際してしばしばみられる。
精神状態はだいたい正常であるが、うつ状態、不安感、イライラや不眠など若干障害のみられる場合がある。診察に際し他覚的な陽性所見を認めることは、か なり少ないが、頚が回らない、寝違いを起こしやすい、頚椎棘突起の圧痛、神経根部の圧痛、その両側の筋肉の圧痛、Arnold 神経(大後頭神経)の圧痛点陽性などのみられることがある。
Barre-Lieou 症候群の診断にとって、重要なのは、レントゲン写真、MRI所見である。正面像では、中央部において椎間部に靱帯の硬化による陰影の増強がみられ、椎体の 上面および下面に異常な陰影増強がみられる。外側のほうでは、脊椎間の関節面の変形がみられ、ときには上下関節突起の融合が起こって、さらにはときとして 鉤型に外に向かって骨の突起が生ずる。側面像では、しばしば頚椎にみられる生理的な前彎の減少(いわゆるストレートネック)がみられ、ひどくなると後弯変形もみられ、脊柱管狭窄が高度なことも少なくない。こ れは特に Barre が指摘する点である。椎体の前面および後面の角に、鉤状の突起を生ずる。これら病変は、最近の知見では、C4,5,6椎体や椎間板に特に強く、日常生活、 趣味、業務などによって、長時間頚の前屈姿勢を強いられた時に負荷のかかりやすい部である。このような頚椎の病変が、そこを通る椎骨動脈に伴って走る神経 を刺激し、すなわち下頚部交感神経症候群、syndrome sympathique cervical posterieur(Barre-Lieou 症候群)を起こすと考えられている。しかしながらこのほかに頚部に存在する神経もまた、耳鼻科的、眼科的症状を引き起こすのに関与していると考えられる。
この Barre あるいは Lieou の業績とは離れて、近年頚部の discopathie によって引き起こされる頭痛が認知されるようになった。その頭痛の特徴は、強さ、持続時間、場所はいろいろであって、例えば痛みが眼の周辺やこめかみ、あるいは側頭部にあることもある。ツキツキ刺すような痛みやしめつけられる様な痛み、髪の毛に触っても痛いなどのことが多い。さらに随伴する症状として、悪心、嘔吐、眼(眼のショボショボ感、眼痛)および聴覚の症状(耳鳴、耳閉塞感)、いろいろな自律神経障害、動悸ならびに精神不安、集中力低下がみられ、痛みは頚から上肢のつけ根に放散、さらには前腕や手指のしびれや痛みなどを伴うことがある。レントゲン学的に頚椎の生理的前彎は減少して、直線化し、MRI所見では下部頚椎(C5からC7)の脊柱管が狭くなっている。これらの形態学的変形を背景に、頚の前屈(下を見る)、後屈(見上げる)などにより、容易に脊髄の微小循環の障害が発生し、多彩な症状を発生しうることが推察される。
さらにこの頚椎の障害に伴って、虹彩異色症 heterochromie irienne,Horner 症候群、Adie 症候群などを伴うことがある。近年、本症候群の詳細は、MRI検査の発展に伴い、その病態の解明が期待される。
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