2009年7月8日水曜日

交通事故から3週間目に出現した突然の喉の痛みと嚥下困難

交通事故から3週間目に出現した突然の喉の痛みと嚥下困難

29才の女性。先月の9日に交差点で2tトラックに追突された。頭部と右下腿の打撲で入院。右前頭部に皮下血腫および右脛骨粗面の前方(つまり皮下)に血腫があり、右下腿の腫脹が著しく、歩行不能で思いがけず長期の入院(3週間)となった。脛骨粗面の皮下血腫は吸収が悪く、16Gのエラスターで穿刺し生理食塩水で洗浄を繰り返した。まあ古い血液、血塊が回収されて日に日に良くなっていったわけだ。頭部に関しては受傷後、頭痛がしばらくあったものの、しびれ、めまい、耳鳴り等々一切無く、食欲も良好で、排便も毎日健康にあっていた。

受傷後3週間(21日目)の夕方突然「喉が痛い」と訴えがあった。詳しく聞くと「左の喉が焼けるように痛い」という。風邪でもひいたのだろうと咽頭を見せてもらうが、発赤・腫脹は一切認めない。頚部のリンパ節腫脹、甲状腺の腫脹・圧痛も認めない。発熱なく、咳、痰、悪寒、関節痛、胸痛もなく、つまり上気道炎症状が一切無いのだった。

22日には喉の痛みは全周性になった。ものが飲み込めないという。よだれは出ない。熱もない。このころから後頭部の左側の痛みが出現してきた。血液学的検査を行うが、白血球やCRPは正常範囲であり、異型リンパ球も認めないのだ。EBVによるinfectious mononucleosisはなさそうである。神経内科に相談し MRIを撮るが(実はこの3週間で2回頭部CTを撮っているので、頭部のイメージングはこれで3回目)異常がない。

咽頭痛発症後2日目にネット検索を行い得た情報が昨日のバレーリュー症候群の記載であった。「あっ」と思いましたな。それと同時に「むち打ち」に関するある本の詳しい記述を思い出して、急いで読んでみた。実はあっと思ったのにはもう一つ理由がある。この2〜3日なんかおかしいなと私が思っていた理学的所見があったのだ。それは「汗」なのだ。それまですっきり乾いていた皮膚が、ここのところ汗ばんでいるなと感じ始めていたのである。この発汗というのは、バレーリュー症候群の本質である「自律神経異常」の一つの根幹症状なのだ。

この時点で思ったことは以下である。

  1. 29才の彼女の症状は亜急性に出現した「むちうち症」であり、バレーリュー症候群そのものである。
  2. 診断の確定のためにすることはまだいくつかありそうであるが、それよりも治療である。
  3. 自律神経を安定させるためにグランダキシンを処方した。特に発汗・多汗には効果があるとされている。
  4. 次に喉の違和感であるが、これには半夏厚朴湯を処方。ヒステリー球によく使われるらしい。
  5. 頚のマッサージと牽引(整形リハにつかうあの牽引機は使わない。ヒトの手で引っ張ってみたい、あるいはご家族に引っ張らせる)
  6. 湿布は使っていない。あとNSAIDs、VB12、ノイロトロピンなどを使うかどうかだが・・・余りにありきたりな治療だし、必要があれば追加する。
  7. さて、星状神経節ブロックである。星状神経節ブロックをどうするかが最大のポイントだ。するか、しないですむか。いつの時点で判断するか?
  8. さらに問題は「誰に」頼むかだ。私には出来ない。信頼に足る腕を持ったヒトといえば、あの方であるが、あの方は東京である。しかし、本当に必要な場合は東京のお方に紹介するつもりだ。この判断は29才の彼女の一生を決めるかもしれないから。
  9. いずれにしても、僕はこのむち打ち症状は必ず治してみせる。気づいたのが早かったわけである。なんでもそうであるが、早ければ早いほど治りが良い。むち打ちも早く対応すれば、尾を引かないと信じたい。

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