この論文そのものは、これまで断片的に伝えられてきた新型フルの特徴、すなわち潜伏期間や毒力、若年者に多いこと、タミフルの効果を裏付ける・・・ただそれだけの「ある意味では新鮮味」に欠ける凡庸な論文に見えなくもない。ただし、10年後に今年のインフルエンザを振り返った時、基本論文になることは約束されたような論文であろうから、金字塔のような論文なのだろうと思う。
新鮮みにはかけるかもしれない・・・と直感した段階でやる気が出ない・・という研究環境。どっかで誰かがやっとかなければいけない・・・記録に残しておかなければならない・・・とすれば我々だ・・・と思える研究環境。これが彼我の違いであろうか?
従来であれば、あるいは日本の医学水準をもってすればこれ位の内容の臨床研究はお手の物のはずなのに、どういうわけか日本からはこのような論文が出ない。どうしてなのだろう?
中国の医学研究はゲノムプロジェクト終了あたりから急激に上昇してきたことは、研究者ならみな実感していると思う。北京ゲノムセンターのパワフルな研究遂行力。2週間くらい前にパンダのゲノムがサイエンスかネイチャーに載ったが、パンダのゲノムであの水準の雑誌に載せられる力量は看過できないものだ。また新型インフルエンザのワクチンについてもあっという間に初期臨床知見をまとめ夏頃にはNEJMに載ったが、この施設横断的な研究推進力はたいしたものだ。口さがない連中は「倫理規定がゆるいからできる」とか「日本のような民主的な国では、もうあのような研究を半ば強権的に国民相手にはできない」とか言うだろうが、半分は当たっているかもしれないが、しかし残りの半分は「やる気」の問題のような気がする。
10年前までは中国の医学・生物学研究は地味であった。というか中国名の筆頭著者で出てくる優秀論文はそのほとんどが米国の研究機関所属由来であった。5年位前から基礎生物学では中国本土からの研究が席巻してくるが、臨床研究はまだまだだれも顧みなかった。この1〜2年臨床研究も侮れなくなり、というか、世界の多くの研究者が参考にしたくなるような研究がどんどん出てくるようになった。2009年は完全に中国臨床研究は世界のトップレベルにあることが明らかとなった。
実際に行われているちまたの臨床レベルでは日本はまだまだ負けないとボクは思っているが・・・それにしてもだ。日本も頑張らないと。
Volume 361:2507-2517 | December 24, 2009 | Number 26 |
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B. Cao and Others
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