なにやら穏やかでない論文がnatureに登場した。腸管幹細胞にはLgr5より上位細胞が存在するかもしれないというものだ。
A reserve stem cell population in small intestine renders Lgr5-positive cells dispensable
小腸には予備の幹細胞集団が存在するためLgr5陽性細胞は必ずしも必要ではない
Hua Tian, Brian Biehs, Søren Warming, Kevin G. Leong, Linda Rangell, Ophir D. Klein & Frederic J. de Sauvage
Nature | Letter
Nature 478, 255–259 (13 October 2011)
Received 19 April 2011
Accepted 01 August 2011
Published online 18 September 2011
2日から5日で再生する小腸上皮は、最も再生力のある組織の1つである。遺伝子誘導による細胞運命マッピング研究によって、この組織では2つの主要な上皮幹細胞プールが同定されている。1つのプールはLgr5発現円柱細胞からなり、急速に細胞周期が進行し、主に陰窩底部に存在する。もう一方のプールは Bmi1発現細胞からなり、主に陰窩底部の上に存在する。しかし、これら2つの幹細胞プールの相対的な機能やその相互関係は解明されていない。
本論文ではマウスで、 Lgr5遺伝子座にノックインしたヒトのジフテリア毒素受容体( DTR )遺伝子を用いて、 Lgr5発現細胞を特異的に除去した。 Lgr5発現細胞を完全に欠損しても、上皮の恒常性は障害されないことがわかり、他の細胞種がこの細胞集団の除去を補償できることが示された。Lgr5発現細胞の除去後、Bmi1発現細胞による子孫細胞産生が増加したことから、Bmi1 を発現する幹細胞がLgr5発現細胞の欠損を補償すると考えられる。
実際、細胞系譜追跡実験によって、Bmi1発現細胞からLgr5発現細胞が生じることが明らかになり、小腸上皮における幹細胞の階層構造が示唆された。我々の結果は、Lgr5 発現細胞は正常な腸の恒常性に必ずしも必要ではないこと、また、Lgr5発現細胞が存在しないと、Bmi1 発現細胞が代わりの幹細胞プールとして機能できることを証明している。これらのデータは、この2つの幹細胞集団間の相互関係を示す初めての実験的な証拠である。 Bmi1 発現幹細胞は、小腸上皮が損傷を受けた場合の予備の幹細胞プールであるとともに、病的状態ではない場合の Lgr5 発現細胞の補給源となっている可能性がある。
Affiliations
Department of Molecular Biology, Genentech Inc., 1 DNA Way, South San Francisco, California 94080, USA
Departments of Orofacial Sciences and Pediatrics, Institute for Human Genetics and Program in Craniofacial and Mesenchymal Biology, UCSF, 513 Parnassus Avenue, San Francisco, California 94143-0442, USA
Department of Research Oncology, Genentech Inc., 1 DNA Way, South San Francisco, California 94080, USA
Department of Pathology, Genentech Inc., 1 DNA Way, South San Francisco, California 94080, USA
Linda Rangell
なにしろ当ブログは2007年11月にLgr 5の登場とともにスタートしているのである。それ以来4年が経過し、Hans Cleversの報告は逐一追いかけてきたのだが、今回のこの報告は穏やかではない。続報を待とう。にわかに群雲が湧いてきた感じがする。
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