2012年1月15日日曜日

小澤征爾さんと音楽について話をする

























「小澤征爾さんと音楽について話をする」という本がある。

小澤 征爾 (著), 村上 春樹 (著)
価格: ¥ 1,680

単行本: 375ページ
出版社: 新潮社 (2011/11/30)
ISBN-10: 4103534281
ISBN-13: 978-4103534280
発売日: 2011/11/30
商品の寸法: 18.6 x 13.6 x 3.6 cm

去年12月に私の住む町の中心街に古い本屋さんが復活した。学生の頃は全盛を誇った本屋であるが、90年代に潰れ、2000年になってから一回復活した(これは素晴らしい復活だった)が2年と持たずに再度潰れてしまった。個人的にはあらゆる本屋の中で最も思い入れの深い本屋だったので、いきなりの復活は嬉しかったが、開店早々に訪れて「これは危ない」と思ったのだった。まず床面積が少なすぎる。書店員が自在無碍に本を選択し、平積みの傾向が全く他の本屋と異なるので、好きな人にはたまらない本屋であるが、経営的には開店早々から危なそうなのね。まず開店早々であり、街の中心一等地にあるにも拘わらず、客が少ない。こんな本屋が好きな人しか集まっていないという感じ。こんなに少なくて、先が不安だな。

前口上が異様に長い話であるがもう少し。  その本屋の入り口の特別な平積み棚に積んであったのが、昨年11月末に出た
「小澤征爾さんと音楽について話をする」であった。この棚にはこの本しか積んでいない。何十冊もピラミッド型に積んであるのである。思わず買ってしまったよ。

他の本屋で見たとして今のボクはこの二人の組み合わせなら買わなかったと思う。中も見なかったであろう。村上春樹、小澤征爾いずれも好きな芸術家であるが、このタイミングでこの二人というのがピンとこない。そう感じた。だから買ったのはいいが、2ヶ月近く読んでなかったのだ。

年末正月以来、風邪以来、音楽を聴く機会が圧倒的に増えた。そのほとんどは通勤の往復であるが、それでも随分たくさんの音楽を聴いた。マーラーの9番のスコアも追いかけている。

昨晩ふと思い出して
「小澤征爾さんと音楽について話をする」 を読み始めた。第4章のマーラーの章から読み始めたのだが、これが随分面白い。なにが面白いかといって、ハラハラするのである。このハラハラ感は「おいおい村上さん、そんなに音楽を語って大丈夫なのか、超一流のプロを前に」というものである。本当にハラハラするのである。村上春樹という人はこんなヒトだったのだろうか。このハラハラ感は最後までつきまとうのであるが、それでもこの本は本当に面白い。小澤さん、というより指揮者というのがどんな仕事をしているのか、どんなことを考えているのか初めて分かることも多いからだ。

例えばこんな話。

  1. マーラーが一般的に演奏され始めたのは60年代であるが、このころニューヨークでバーンスタインの助手をしていた小澤さんはマーラーのことを全く知らなかった。別の助手が5番のスコアを熱心に読んでいるのを横目で見ていた。あるときその5番のスコアを読んでその天才的なオーケストレーションに感動したのだそうだ。レコードも実演もマーラーなど聴いたことがないのだが、スコアを読むと感動できるのだね、指揮者という職業は。
  2. バーンスタインは60年代に一生懸命マーラーの掘り起こしを行い、レコード化をしたひとだが、小澤さんは直にその姿をすぐそばで見ていたことになる。スコアを読んで頭に入れた曲をバーンスタインが目の前で音楽化する。そうすると自分の作った頭の中での音楽と随分違うのだそうだ。小澤さんは最初の頃、マーラーをブラームス風に演奏するイメージを持っていたと告白している。それが師匠のバーンスタインは全く異なる演奏スタイルを開発していく。これは感動的だった模様。
  3. 村上さんは圧倒的にクラッシックに詳しい。そう圧倒的である。耳も尋常じゃなさそうである。であるとしても、世界のマエストロの前であれだけ演奏批評ができるというのが素晴らしい。相手はプロであり、こちらは素人であるのだが、彼の強みはやはり言語化がなみなみならぬことなんだろう。それとあえて小澤さんの残された時間に大切な物を(演奏録音以外に)残す手助けをするのは自分しかいない、とおそらく自覚・自任している。なにを言われてもかまわないと覚悟しているような気がする。
  4. だから村上さんに何かをいうのは差し控えがほうが良さそうだ。世界の小澤にこれだけ語らせることに成功しているのだ。本当に面白い本である。指揮者のイメージが変わりました。スコアの存在感も随分かわりました。

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