いろいろな肉腫があるが、発生頻度からいって6種類ほど馴染んでおけばよい。(骨は別だ。これはあくまで軟部腫瘍ということで)
- 脂肪肉腫
- 悪性繊維性組織球腫(Malignant Fibrous Histiocytoma: MFH)
- 平滑筋肉腫
- 横紋筋肉腫
- 滑膜肉腫
- 悪性末梢神経鞘腫(Malignant Schwanoma)
これ以下はぐっと頻度が下がり、また報告者によって疾患頻度がバラバラ。
クリックで大きくなります。
ある病理学教室における肉腫のカタログを併記しておこう。
九州大学病理学教室の論文より引用
骨もついでに
クリックで大きくなります。
かつて軟部腫瘍の分類はかなり原始的であった。紡錘形肉腫とかね。その後病理学界にはEnzingerという巨匠が出現し軟部腫瘍病理学を近代的に再構築するの成功した。その時彼が導入したのがMFHという疾患概念であった。Enzingerのおかげで20年くらい前はMFHという診断名が大いに流行(猛威をふるっていた)し、多くの肉腫が MFHに再分類されていったのだ。その後この流れは一旦止まり、現代では再び再分類されているようでMFHは減少している。このように病理診断名というのは、時代により(学問が進歩するがゆえ)変動するのである。
病理診断の時代的変遷というのはMFHという病気の趨勢に関係する。1994年頃、MFHが流行っていた頃の論考を一つ紹介したい。
「日本人肉腫の病理疫学的研究」 1994年
研究課題番号:06280105→ これは当時の科学研究費研究の報告書である。PIは東大の町並教授。これに
- 椙村 春彦 研究者番号:00196742 浜松医科大学・助教授
- 野島 孝之 研究者番号:50142732 金沢医科大学・教授
- 吉田 春彦 研究者番号:40037429 鳥取大学・医療技術短期大学部・教授
- 恒吉 正澄 研究者番号:20091259 九州大学・医学部・教授
- 牛込 新一郎 研究者番号:70081643 東京慈恵会医科大学・教授
が参加している。まあ当時の軟部腫瘍の大御所達なんだろう。
・・・・今年度は、1970〜1970年の骨及び軟部腫瘍症例の標本を見直し、病理組織学的診断の再検討を行った。
軟部悪性腫瘍については、
- 北大の症例では、見直しを行っても脂肪肉腫が第1位であったが、第5位(8%)であったMFHが第2位(16%)に、
- 東大の症例ではMFHが第6位(4%)から第1位(20%)に、
- 鳥取大学の症例でも第8位(3.3%)であったMFHが第2位(17.4%)に上昇している。
- 見直し後の診断により、1979年〜1989年の症例をまとめると、北大ではMFH(17%)、横紋筋肉腫(15%)、脂肪肉腫(14%)
- 東大では、MFH(13%)、脂肪肉腫(8%)、横紋筋肉腫(6%)、
- 慈恵医大では脂肪肉腫(17%)、MFH(11%)、横紋筋肉腫(11%)、
- 鳥取大ではMFH(24.7%)、脂肪肉腫(19%)、平滑筋肉腫(16%)、
- 九州大では、MFH(20%)、脂肪肉腫(10%)、平滑筋肉腫(10%)の順であった。
骨悪性腫瘍については見直しを行うと、
- 北大では第4位(5%)であったMFHが骨肉腫及び軟骨肉腫に次いで第3位(12%)に、
- 東大では第9位であったMFHが、骨肉腫、骨髄腫、軟骨肉腫、脊索腫に次いで第5位に、
- 鳥取大では見直しを行ってもMFHの頻度には変化がなく、骨肉腫、骨髄腫、軟骨肉腫に次いで第4位であった。
見直し後の1970〜1989年の骨悪性腫瘍の頻度の順位をまとめると、- 北大では骨肉腫(49%)、軟骨肉腫(22%)、MFH(11%)、悪性リンパ腫(6%)、脊索腫(5%)、骨髄種(4%)、
- 東大では、骨髄種(31%)、骨肉腫(23%)、軟骨肉腫(11%)にMFH(6%)、
- 慈恵医大では、骨肉腫(59%)、軟骨肉腫(19%)、傍骨性骨肉腫(6%)、MFH(4%)、
- 鳥取大では骨肉腫(12%)、軟骨肉腫(4%)、骨髄種(4%)、MFH(2%)、ユ-イング肉腫(1%)、
- 九州大では骨肉腫(52%)、MFH(17%)、軟骨肉腫(17%)の順であった・・・・
このころはMFHが一番多い病名だったことが伺われる文献である。
流れを変えたのはFletcherという病理医。この人の↓の論文(1992年のAm J Surg Pathol)で流れが変わっていくようだ。Fact or Fictionなんて挑戦的だな。
Pleomorphic Malignant Fibrous Histiocytoma: Fact or Fiction?: A Critical Reappraisal Based on 159 Tumors Diagnosed as Pleomorphic Sarcoma
American Journal of Surgical Pathology. 16(3):213-228, March 1992.
- Pleomorphic malignant fibrous histiocytoma (MFH) is regarded as the most common soft tissue sarcoma of adulthood, but no definable criteria exist for its diagnosis. Possibly its only distinctive feature is its apparent lack of specific differentiation. To determine the validity of pleomorphic MFH, 159 tumors diagnosed as pleomorphic sarcomas have been reassessed morphologically, immuno-histochemically, and ultrastructurally, where possible. Of these 97 cases (63%) proved to be specific sarcomas other than MFH, 20 proved to be nonmesenchymal neoplasms, and 42 were unclassifiable (of which 21 were either small biopsies or subtotally necrotic). Only 13% of these cases were eligible for consideration as MFH, but these showed no reproducible histological differences from the other tumors studied, nor was this group morphologically consistent. These tumors showed no evidence of true monocyte/macrophage differentiation. It is postulated that pleomorphic MFH is a noncohesive heterogeneous group of poorly differentiated neoplasms, a term that has become a meaningless diagnosis of convenience. With sufficient effort, a specific line of differentiation can be identified in the majority of pleomorphic malignant soft tissue tumors; with advances in investigative technology, the proportion that remain unclassifiable is very likely to diminish further in the future.
私のささやかな意見であるが、Enzinger & WeissによるMFHという概念があって初めて分類学としての病理学は大いに進んだんだと思う。そこから再分類が試みられ、次のより洗練された疾患分類ができるのなら、MFHというのはすぐれて優秀な作業仮説だったということだ。Fletcherの次の世代はmolecular biologyで肉腫を攻めているはずだ(私は詳細を知らないが)。molecular classificationなんて提言はいくらでもありそうだが、寡聞にして知らない。
Fletcherの次に何が待っているか?第二のEnzinger & Weissがやってくるかもしれない。Aufhebenなら良いわけだが。
あるいは全く違った分類体系が現れるかもしれない。
腫瘍のclinical behaviorと分子分類が一致するような新体系で現状の診断体系より洗練したもの。そこに病理形態組織が入り込む余地が全くないような分類(つまり顕微鏡をのぞいてもどうしてその診断名になるのか全くわからないような診断体系)が登場するかもしれない。それでも臨床には役に立つ分類。
病理学者はのんびりしている暇はないぞ!
0 件のコメント:
コメントを投稿