2012年6月21日木曜日

natureに乳癌関連論文が同時に5報:articleが2報

nature に乳癌論文が一挙に5報掲載された。かつてこんなissueは見たことがない。一部(例えばアロマターゼ感受性の論文)はonline firstで見ていた論文だから知ってはいたが・・・しかしこれだけ一挙に出されると、読み応えがありますな。

nature

Volume 486 Number 7403 pp293-434

  • Integrative analysis of copy number and gene expression in 2,000 primary breast tumours with long-term clinical follow-up revealed putative cis-acting driver genes, novel subgroups and trans-acting aberration hotspots that modulate subgroup-specific gene networks.

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    乳がんのサブグループとそれらの発生を引き起こす分子的要因の解明には、相当数の患者に由来するゲノムとトランスクリプトームを統合的に見ることが必要で ある。本論文では、長期的に臨床経過観察した原発性乳房腫瘍の997検体からなる発見セットおよび995検体からなる検証セットの、コピー数および遺伝子 発現を統合して解析した結果を示す。遺伝的多型(コピー数多型および一塩基多型)および後天性の体細胞性コピー数異常(CNA)は、約40%の遺伝子の発 現との関連性が認められ、その全体像はシスおよびトランスに作用するCNAによって支配されていた。CNAによってシスに駆動される発現外れ値 (expression outlier)遺伝子群を詳細に調べることで、 PPP2R2A 、 MTAP および MAP2K4 における欠失を含むがん遺伝子候補が見つかった。対にしたDNA–RNAプロファイルの教師なし解析から、異なる臨床転帰を伴う複数の新規サブグループが 明らかになり、検証コホートでもそれが再現された。これらの新規サブグループの中には、エストロゲン受容体陽性で11q13/14シス作用性のハイリスク なサブグループや、CNAがなく予後良好なサブグループが含まれている。トランスに作用する異常ホットスポットは、「CNAのない」サブグループでの TCR欠失を介した適応免疫応答や、基底様型乳がん特異的な5番染色体欠失関連の有糸分裂ネットワークなどの、サブグループ特異的な遺伝子ネットワークを 調整することが明らかになった。以上の結果は、体細胞性CNAがトランスクリプトームに及ぼす影響に由来する、乳がん分類群の新規の分子的層別化を明らか にしている。

  • 医学 : 全ゲノム解析から明らかになった、アロマターゼ阻害への乳がんの応答性 OPEN

    Whole-genome analysis of oestrogen-receptor-positive tumours in patients treated with aromatase inhibitors show that distinct phenotypes are associated with specific patterns of somatic mutations; however, most recurrent mutations are relatively infrequent so prospective clinical trials will require comprehensive sequencing and large study populations.

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    我々は、エストロゲン受容体陽性乳がんの多様な臨床像と体細胞変異を関連付けるために、アロマターゼ阻害剤を用いたネオアジュバント療法についての2つの 研究で患者から得られた治療前の腫瘍生検標品について、大規模並行塩基配列解読および解析を行った。有意な変異がある遺伝子18個が見つかり、このうちの 5個( RUNX1 、 CBFB 、 MYH9 、 MLL3 、 SF3B1 )はすでに造血障害に関連付けられているものだった。変異型MAP3K1は組織学的悪性度や増殖速度が低いルミナルA型と相関していたが、変異型TP53はこれとは逆の相関パターンを示した。さらに変異型 GATA3 はアロマターゼ阻害剤治療による増殖抑制と相関していた。パスウェイ解析によって、MAP3K1の基質である MAP2K4 の変異は、MAP3K1が減少した場合と同様の変化をもたらすことが明らかになった。エストロゲン受容体陽性乳がんの異なる複数の表現型は、腫瘍の生物学 的特性と関係する細胞内経路に位置付けられる体細胞変異の特定パターンと関連しているが、ほとんどの再発性変異は比較的まれである。これらの知見に基づく 前向き臨床研究には包括的なゲノム塩基配列解読が必要だろう。

  • 医学 : 原発性トリプルネガティブ乳がんのクローンおよび変異の進化スペクトラム

    Primary triple-negative breast cancers are shown to vary widely and continuously in the degree of clonal evolution and mutational content at the time of diagnosis, with implications for future studies of the disease.

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    原発性トリプルネガティブ(三重陰性)乳がん(TNBC)は、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体および ERBB2 遺伝子増幅の欠如によって定義される腫瘍タイプで、全乳がんのおよそ16%を占める。本論文では、TNBCの104症例において、これらのがんは診断時に ゲノム進化の広範囲かつ連続的なスペクトラムを示すが、いくつかの経路に少数のコーディング体細胞変異しか見られない腫瘍もあれば、何百ものコーディング 体細胞変異の見られる腫瘍もあることを示す。ハイスループットRNA塩基配列解読(RNA-seq)から、発現している変異は約36%に過ぎないことが明 らかになった。今回、大規模な再解読によって、2,414個の体細胞変異について対立遺伝子の量を測定することにより、我々の知るかぎりで初めて、上皮腫 瘍サブタイプにおける、集団を代表する症例間でのクローン頻度の相対量を決定した。TNBCは診断時のクローン頻度に大幅な変動があり、TNBCの基底細 胞型サブタイプは非基底細胞型TNBCよりも多様性に富むことがわかった。 p53 (別名 TP53 )、 PIK3CA および PTEN の体細胞変異はほかの遺伝子と比べて優位なクローンであるようだが、いくつかの腫瘍では、それらのクローン頻度は創始者状態(founder status)と一致しない。細胞骨格、細胞の形状および運動性に関与するタンパク質の変異は、より低いクローン頻度で起こっていたことから、それらの変 異は腫瘍の進行過程の後期に起こったことが示唆される。まとめると、我々の結果は、TNBC患者の生物学的特徴と治療への反応を理解するためには、個々の 腫瘍クローンの遺伝子型の決定が必要であることを示している。


  • A study of breast cancers shows that the number of somatic mutations in each varies markedly and is strongly correlated with age at diagnosis and cancer histological grade.

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    すべてのがんのゲノムには体細胞変異が存在する。その一部はドライバー変異として知られるもので、がん細胞にクローン選択優位性を与え、発がんの原因に関 与していると考えられており、それ以外の変異はパッセンジャー変異である。乳がんに影響を及ぼすドライバー変異および突然変異過程に関しては、包括的な研 究がいまだに行われていない。今回我々は、100の腫瘍のゲノムについて、タンパク質コード遺伝子のコーディングエキソンにおける体細胞のコピー数変異お よび突然変異について解析した。体細胞突然変異の数は、腫瘍ごとに大きく異なる。我々は、変異の数、がんが診断された年齢、がんの組織学的悪性度に強い相 関があることを見いだし、また、TpCジヌクレオチドにおける多数のシトシンの変異を特徴とする約10%の腫瘍に見られるものなど、複数の突然変異シグネ チャーを観察した。ドライバー変異は、 AKT2 、 ARID1B 、 CASP8 、 CDKN1B 、 MAP3K1 、 MAP3K13 、 NCOR1 、 SMARCD1 、 TBX3 など、いくつかの新規がん遺伝子で見つかった。100の腫瘍の中で、我々は少なくとも40のがん遺伝子および変異したがん遺伝子の73種類の異なる組み合 わせの中にドライバー変異を見いだした。今回の結果は、この一般的な疾患の原因は、遺伝的にかなり多様であることを強調している。

  • 医学 : 乳がんのさまざまなサブタイプに見られる変異と転座の塩基配列解析 OPEN

    This paper reports one of the largest breast cancer whole-exome and whole-genome sequencing efforts so far, identifying previously unknown recurrent mutations in CBFB, deletions of RUNX1 and recurrent MAGI1AKT3 fusion; the fusion suggests that the use of ATP-competitive AKT inhibitors should be evaluated in clinical trials.

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    世界的に、乳がんは女性のがん関連死の主要な原因であり、2008年だけでも新たな症例は138万例、死亡は45万8,000人に上ったと推定されてい る。乳がんは、特徴的な分子特性、予後、既存の治療法に対する反応性が違う異種のがんからなる悪性腫瘍群である。乳がんでは、変異やコピー数変化などと いった体細胞変異の頻発が報告されており、特に ERBB2 遺伝子の増幅は、ゲノムの異常から見つかった治療標的として初めての成功例となっている。乳がんゲノムのこれまでのDNA塩基配列解読研究によって、これ 以外にも、治療標的の候補となる変異や遺伝子再編成が判明している。本論文では、メキシコとベトナムの患者から得たさまざまなサブタイプに属する103の ヒト乳がん由来DNAの全エキソーム塩基配列を対応する正常DNAと比較し、さらに22組の乳がん/正常ペアの全ゲノム塩基配列についても報告する。 PIK3CA 、 TP53 、 AKT1 、 GATA3 、 MAP3K1 の体細胞変異の頻発を確認できただけでなく、転写因子遺伝子 CBFB にも変異が頻発することや、その結合相手となるタンパク質の遺伝子 RUNX1 の欠失も明らかになった。さらに、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、 ERBB2 の発現がどれも失われているトリプルネガティブ(三重陰性)の乳がんでは、 MAGI3 – AKT3 融合が多く見られることが判明した。MAGI3–AKT3融合によってAKTキナーゼが構成的に活性化されるが、これは、ATP拮抗型の低分子AKT阻害剤の投与で抑制できる。


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