<お話しその壱>
一つは c-mycが発現すると、ありとあらゆる発現遺伝子はおしなべて、なべて等しく、強発現しますよ・・ということを実験的に主張している人たちがいるということである。
それがどうした・・・と言われそうだが、ちょっと待ってくれ。
彼らが強く主張することが、アレイ発現遺伝子解析のこれまでの結果には重大な疑義があるというのだから穏やかではない。
Cell 151, 476- October 26, 2012
Revisiting Global Gene Expression Analysis
上の段が「これまでのc-myc」一番左遺伝子B,Fに影響を与えている。アレイの解釈が一番右、B,Fは確かに発現↑
下の段は「最近の c-myc」」:全ての発現遺伝子をドライブしている。発現量の微細な「ブレ」がアレイの結果に影響。
彼らの主張:.....Levens says, that he proposed “with a great deal of trepidation” that a cancer-promoting Myc doesn't activate specific genes, as had been assumed for years. Instead, he argued, it works like a “universal” switch to boost RNA output by all genes expressed in a cell......
- Science 2 November 2012: 593.
Cancer Gene Data Casts Doubt on Popular Research Method
Eliot Marshall
彼らの更なる主張:「アレイ実験は全部やり直せ、特に癌はいかん。癌細胞では大抵mycは発現上昇しているからな。これまでのデータ、およびそれから得られたストーリーには疑義があるぞ」
実に穏やかでない主張である。無視できない主張となっていくのか今後注目していきたいと思う。
<お話しその壱>
多くのがんでGWASの結果が染色体8番の長腕8q24に集まることは良く知られた事実である。遺伝子多型解析で最も関連する多型がこの場所にあるということである。具体的なSNPsとしてはrs6983267が有名である。
問題はこの場所が遺伝子砂漠であること。偽遺伝子が3つ。あとは350kbくらい離れたところに大御所c-mycが鎮座していることは知られているが直接効果としては離れすぎている。当初からこのc-mycとrs6983267を結びつけようという研究はあったが、今回ついにその連携が本物らしいという報告がサイエンスに登場した。
元ネタは3年前のLauri A AaltonenのNature Genetics の論文であるが、今回のお話しはrs6983267を含む狭い領域(この領域がmycのエンハンサーであるというのが骨子である)をCre-LoxPで除去したマウスをminAPC発癌マウスと掛け合わせると明らかに大腸での発癌イベントが減少するというお話しである。作者はやはりフィンランドのAaltonenのグループのようだ。
Science Published online 1 November 2012
Mice Lacking a Myc Enhancer That Includes Human SNP rs6983267 Are Resistant to Intestinal Tumors
Inderpreet Kaur Sur,Outi Hallikas,Anna Vähärautio,Jian Yan,Mikko Turunen,Martin Enge,Minna Taipale,Auli Karhu,Lauri A. Aaltonen,and Jussi Taipale
小生のコメント:これまで長い間 c-mycの扱いは微妙だったと思うのだ。細胞生物学全般では主役の一人だったかもしれないが、がん研究特に2000年以降のポストゲノム研究、特に臨床 がん研究では生彩を全く欠いていたと思うのだ。膨大なデータのどこにもmycは現れない。
しかし今回のこの2つの研究でmycはいきなり主役級に返り咲くかもしれないと思うようになった。これは2000年以降、最大の「発見」かもしれない。(といいながら、半分くらいしか信じていない小心者の小生ではあるが....)
0 件のコメント:
コメントを投稿