小生、実は当初プラリアの処方には懐疑的であった 。プラリアはモノクローナル抗体であり、ヒトにとってはある種の異種蛋白である。がん治療にモノクローナル抗体を用いることにはある種の妥当性があると考えるが、基本的に良性疾患であり、予防薬(骨折の予防)にすぎない抗骨粗鬆薬に異種蛋白(autoではないという意味である。alloでもいやだという意味)を投与するなどもっての他だと考えていたわけだ。
製薬会社からいくら薦められても「絶対に使わないぞ!」とかたくなに拒絶していた。
転機は今年の初めの腰椎圧迫骨折の Aさんである。骨折を繰り返し疼痛がひどく、リハビリも進まず、本人も鬱気分であるが、対応する小生もうつになりそうであった。正直、朝の訪問がうっとうしくてならなかった。NSAIDsにリリカにノルスパンテープに抗うつ剤を加えても余り効果が無い。整形のドクターに助けを求めても、お手上げであった。
なにか今までにないドラスティックなことをやらなければと思い、ようやく「プラリア」のことを思い出した。痛みにも効くと説明を受けたからだ。
歯科的なことや血液Ca濃度やその他のチェックを済ませて、初めて投与したのが今年の3月の上旬であった。正直怖かった。抗癌剤投与くらいなら全く鼻歌交じりだが、慣れない薬剤を最初に投与するというのは、とても恐ろしい。こわくてこわくてしょうが無い。
驚いたことに一日目、3日目に血清Ca濃度が下がっていく。もちろん経口カルシウム製剤である「デノタス・チュラブル」の投与は併せて行っていたのだ。 Ca濃度が下がっていくということは、粗鬆骨にカルシウムが吸収されていくことを意味している。なにか患者殿の体内でとんでもないことが起こっているような気がしたものだ。
実はその驚きはたいしたことではなかったのだ。最大のおどろきは患者が「痛みが消えた」と告げたことであった。あれだけ憂鬱な表情であった患者が投与3日目を境に、その後9ヶ月目の一昨日の外来まで全く痛みを訴えなくなったのだ。劇的であった。ノルスパンテープを止め、リリカを止め、抗うつ薬を止め、なんとロキソニンまでも止めるのに半月もかからなかったのだ。
そんな症例ばかりではないことも充分承知しているが、でもこの薬存外悪くない。第一半年に一回打てば良いというのが良い。確かに 「デノタス・チュラブル」経口摂取はうっとうしいが、でも患者はカルシウムは喜んで飲んでくれます。
いまではすっかり気に入っているのである。今日は「顎骨壊死」について調べてみた。これ最大の副作用なのだけど、実際どれくらいの頻度なのだろう。オリジナルの論文にあたってみた。2009年の有名な「FREEDOM試験」である。
驚いたことに、この論文では発生件数”0”なのである。 一番下の表であるが、コントロールもDenosumab投与群も(それぞれ3600例〜)一件の発生がないのである。若干安心した次第である。
追記:日本国内第Ⅲ相臨床試験において、歯科・口腔外科領域の医学専門家による中央判定で顎骨壊死と判定された事象が0.1%(1/881例)に認めらた。
さて本論。
N Engl J Med 2009; 361:756-765 August 20, 2009
Original Article
Denosumab for Prevention of Fractures in Postmenopausal Women with Osteoporosis
FREEDOM試験(Fracture Reduction Evaluation of Denosumab in Osteoporosis Every 6 Months)は、60~90歳の女性で腰椎または股関節の骨密度Tスコアが、-2.5未満(-4.0まで)の7,868例が参加し行われた。
被験者は無作為に、denosumab 60mg群とプラセボ群に割り付けられ、皮下投与が6ヵ月毎に36ヵ月間行われた。
主要エンドポイントは、X線上の新規の椎体骨折。副次エンドポイントは、非椎体および股関節の骨折とされた。
プラセボ群と比べてdenosumab群は、新規の椎体骨折リスク発生が相対的に68%低かった。累積発生率は、プラセボ群7.2%に対しdenosumab群2.3%で、リスク比は0.32(95%信頼区間:0.26~0.41、P<0.001)。
股関節骨折もdenosumab群のほうが、相対的に40%低かった。累積発生率は、プラセボ群1.2%に対しdenosumab群0.7%で、ハザード比は0.60(同:0.37~0.97、P=0.04)。
非椎体骨折もdenosumab群のほうが、相対的に20%低かった。累積発生率は、プラセボ群8.0%に対しdenosumab群6.5%で、ハザード比は0.80(同:0.67~0.95、P=0.01)。
がん、感染症、心血管疾患、治癒の遅れ、低カルシウム血症のリスク増加は認められず、顎骨壊死例やdenosumabの投与有害反応はなかった。
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