今回のScienceの発表では論文が6篇同時公開されている。一冊丸ごとゲノムプロジェクトに捧げた2000年の「ホップ」ステージの Nature論文(発表は2001年)に比べると随分地味であるが、これもこの22年間の学問の進化と成熟を示すものだろう。世間的なインパクトは地味ですし。
さてこの6編であるが先頭から
- Epigenetic patterns in a complete human genome
- Segmental duplications and their variation in a complete human genome
- From telomere to telomere: The transcriptional and epigenetic state of human repeat elements
- A complete reference genome improves analysis of human genetic variation
- Complete genomic and epigenetic maps of human centromeres
- The complete sequence of a human genome
この6編を概説する能力は小生にはないが、それでもそのそれぞれにおける個人的興味・観点を述べることはできる。では先頭から順番にたどっていこう。
- これまで明らかでなかった領域、セントロメアや様々な反復領域のメチーレーションmapを作ったこと。6人の個別ゲノムパターンや臓器別パターンを示す。
- ヒトゲノムは二倍体であるが、更に個別の遺伝子については多倍体があることが知られている。パラログ・オルソログなどで知られる3番目、4番目のコピーは比較的最近多倍体化したといわれているが、その中でも「分節的重複」とでも訳すのであろうか「Segmental Duplication(SD)」が今回41528個カタログ化された。その分布概観が報告されている。
- ゲノムの 16%はLINE、10%は SINE(Alu)なる反復配列が占める。ショットガンで局所的ゲノム・シークエンスを試みるレベルでも、これら配列に悩まされる。それほど数と頻度がただならぬ。この論文ではそのLINE,、SINEを始めとして様々な反復配列のゲノム存在様式が報告される。とともに、小生にとっては待ちに待った「発現している反復配列」の全貌が述べられている(ようだ)。詳細はまだ読んでいないが、参考文献中に敬愛するKazazianの論文が5篇も引用されているし、 active LINEなる用語も論文中にパラパラでてくる。個人的にはもっとも楽しみな論文です。
- 中を見ていないが、これまでで最も参考になる「参照配列」が作れましたよ、という話だろう。ただこのシークエンスのソースは一個人由来の「胞状奇胎」細胞株であるから、今後この「参照配列」はすぐにバージョンアップされる運命にあるだろう。細胞株ではなく、真の「in vivo」な材料によるシークエンスが近々に望まれる。
- セントロメアの構造である。
- そして核になる主論文
こうしてみると、この発表とてもよくできているが、一般の研究者や臨床家には一見どうでもよい瑣末なカタログ、にしか見えかねないのが気がかり。反復配列やセントロメアなんか興味ないかもしれないね、皆さん。
ただ、これは本物の研究成果であり、少しでも生物学をかじったことがある人間なら、概説だけでも勉強して、ご自分の遺伝学のフレームをアップデートしておくべきだと思う。これはもう教科書が書き換えられるレベルの研究成果だということです。従来であれば100ページかかって、ああでもない、こうでもないと議論されていたことが、10ページ程度ですっきり記述されたのだから、一度きっちりリフレッシュしておいてよいのではと思います。もっともオリジナルの論文は専門的だからハードルは高いと思います。であるがゆえに・・・・・・
だれかブルーバックスを書いて欲しい。あるいは出来のよい総説を書いてほしい。
問題は教科書方面であるが・・・
T.A.Brownは直ちに彼の教科書「Genomes」を書き換えなくてはいけない。今は ver 4ですがすぐにver5にすべきだ。昔から「Genomes」はBrownが一人で書いているのだから、やればすぐにできるでしょう。徹夜でやってほしいね。
Tom Strachanも徹夜組です(笑)。
ThompsonやHartwellも頑張ってください。こちらはゆっくりで良い。
0 件のコメント:
コメントを投稿