大腸癌の後補助化学療法:リンパ節転移がないならSSはおろかSEでもA2でも化学療法はいらない・・・という立場を堅持したい。
4)化学療法
大 腸がんの化学療法は、進行がんの手術後に再発予防を目的とした補助化学療法と、根治目的の手術が不可能な進行がんまたは再発がんに対する生存期間の延長及 びQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)の向上を目的とした化学療法とがあります。大腸がんに対して有効かつ現時点で国内にて承認されている抗が ん剤は、フルオロウラシル(5-FU)+ロイコボリン(国内ではアイソボリン)、イリノテカン(CPT-11)、オキサリプラチン、UFT/LV、 UFT、S-1などです。
(1)術後補助化学療法
手術によりが んを切除できた場合でも、リンパ節転移があった場合に、再発率が高くなることが知られています。このような場合、手術を行った後に化学療法を行うことで、 再発を予防するあるいは再発までの期間を延長できることがわかっています。このような治療を、術後補助化学療法といいます。一般には、術後補助化学療法の 対象はリンパ節転移があるステージIII期の患者さんで、手術後に5-FU/ロイコボリン療法の6ヶ月投与が標準的に行われています。リンパ節転移のない ステージI期、ステージII期の大腸がんについて術後補助化学療法の有用性は明らかではないため、基本的には術後補助化学療法は行わず、無治療で経過観察 をします。
(2)化学療法
根治的な手術が不可能な場合には、化学療法の適応になります。大腸がんの場合、化学療法のみで完治することはまれですが、臓器機能が保たれている人では、 化学療法を行わない場合と比較して、化学療法を行ったほうが、生存期間を延長させることがわかっています。抗がん剤というと、副作用が強く、治療を行った ほうが命を縮めてしまうと考えてしまうかもしれませんが、最近は副作用の比較的少ない抗がん剤の開発と、副作用対策の進歩により、入院せずに外来通院で日 常生活を送りながら化学療法を受けている患者さんも多くなりました。大腸がんの化学療法は外来で行えるものも多く、副作用をコントロールしながら、がんあ るいは治療と上手につき合っていくことが、一番の目標といえるでしょう。
以下に大腸がん化学療法に用いる代表的な薬と治療法について説明します。
- 5-FU(5-フルオロウラシル)+ロイコボリン
5-FUは数十年前より広く使われている薬で、胃がんや食道がんにも用いられています。大腸がんに対しては、ロイコボリンという薬と併用されることが多い ですが、最近はそれに加えて後述するイリノテカンやオキサリプラチンとも併用されるケースも多くなってきています。使い方は、週に1回点滴する方法や、2 週間に1回持続点滴を行う方法、週に1回肝動脈へ点滴する方法など、いろいろな治療法に組み込まれて使用されています。
副作用は比較的軽微ですが、下痢や口内炎などの粘膜障害や、白血球が減ったりすること、手指の皮膚が黒くなること、食欲の低下などに注意する必要があります。 - イリノテカン
10年ほど前から用いられ、胃がんや肺がんでも広く使用されている薬です。大腸がんに対しては、単独あるいは、5-FU/ロイコボリンとの併用で用いられ ます。併用する場合には5-FUを短時間(15分)で投与する方法(IFL療法)と、5-FUを短時間で投与した上でさらに46時間持続的に投与する方法 (FOLFIRI療法)の2種類あります。以前はIFL療法も多く用いられていましたが、副作用並びに効果の面でFOLFIRI療法のほうが優れているこ とがわかったため、現在ではFOLFIRI療法が多く用いられるようになってきています。
副作用としては、食欲の低下、全身倦怠感、下痢、白血球が減ったりすること、脱毛などがあります。また投与中の発汗や腸管運動の亢進などもよくみられます が、アトロピンなどの抗コリン薬を用いるとコントロールできることが多いです。食欲の低下に対しては、ステロイド剤や制吐剤を用いますが、コントロールが 難しい場合もあります。そのような場合には、担当医に相談しましょう。 - オキサリプラチン
オキサリプラチンは我が国で合成されましたが、主にフランスやアメリカなどで臨床開発が行われ、世界的には大腸がんに対する主な抗がん剤のひとつとなりま した。我が国の一般臨床で使用できるようになったのは、2005年4月のことです。単独ではあまり効果を発揮しませんが、5-FU/ロイコボリンとの併用 (FOLFOX療法)では、FOLFIRI療法とほぼ同等の治療成績を示しており、この2つの療法が現在の大腸がん化学療法の柱となっています。
副作用としてはイリノテカンと比較して食欲の低下は軽く、脱毛もあまり認めませんが、投与された患者さんの80〜90%に感覚性の末梢神経障害をきたすの が特徴です。この末梢神経障害は、寒冷刺激により誘発され、冷たいものを触ったり、冷たい飲み物を飲んだりすることで、手先にびりっとする感覚や、のどの 違和感が出現します。治療開始当初は2〜3日で消失しますが、治療を継続するにしたがって、回復が遅れ、治療後4〜5ヶ月で、10%の患者さんに機能障害 (箸が持ちにくくなるなど)をきたすといわれています。このような場合には、オキサリプラチンの投与量を減らしたり、あるいは治療をお休みするなどして副 作用の回復を待ちます。これら以外にも白血球が減ったり、血小板が減ったりすることが比較的よくみられます。 - その他
これら以外にも経口剤であるUFT/LV、UFT、S-1なども患者さん自身の状況に応じて使い分けます。また、新しい作用機序を持つ抗体医薬品であるセ ツキシマブ、ベバシズマブといった、海外で有効性が示された薬も国内で少しでも早く使うことができるように治験が進んでいます。
これらの薬は、必ず使わなくてはいけないというものでは なく、状況によってはむしろ使用しないほうが患者さんにとって有益であるケースもあります。例えば、全身状態の悪い患者さんにイリノテカンやオキサリプラ チンなどの治療を行った場合、白血球が予想よりも多く減少したりする可能性もありますし、腸の通りが悪い患者さんにはイリノテカンは使用できません。その ような場合には比較的副作用の少ない5-FUを中心に治療を行ったり、がんの苦痛を軽減するための治療(緩和ケア)のみを行うケースもあります。担当医と よく相談して最善の治療方法を選択して下さい。
6.手術後の管理
大腸がんは手術が治療の中心です。少し進行していても治るチャンスが他の消化器がんに比較して高いわけですが、手術後は再発の早期発見のために定期的な検 査を行うことが極めて重要です。大腸がんでは肝臓や肺・骨盤内に転移・再発する場合が多いのですが、その場合でも切除可能な場合には早期に転移・再発病変 を切除したり、切除不可能な場合にも早期に化学療法や放射線療法を開始することが大切だからです。したがって、手術時の病期により異なりますが、手術後3 年間は3〜6ヶ月に一度通院し、胸部X線検査、肝臓のCT、超音波検査、腫瘍マーカーなどの検査を行います。厳重に追跡検査を行えば、再発の8割を2年以 内に発見することができます。成長の遅い大腸がんもあるので5年間の追跡は必要です。3年目以降は半年に一度の検査で十分です。
大腸がん手術後の食事については、「大腸の手術のあと」の項を参照して下さい。
一般の方向け参考資料
出版物: 「2006年版 大腸癌治療ガイドラインの解説」
大腸癌研究会編 金原出版 ISBN4-307-20218-X
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